第11話「帰り道」
夜道を、四人で歩く。
誰も、前を見ていない。
ヴァルだけが少し前を歩いていた。
「……最悪だ」
小さく吐く。
後ろから、リクが言う。
「でも、気に入られてたよ」
「嬉しくねぇよ」
即答だった。
ユエが静かに言う。
「逃げてたね」
「逃げてねぇ」
ヴァルが返す。
ミナトが続ける。
「二回下がった」
「壁まで行ってた」
「数えてねぇよ」
ヴァルが振り返る。
リクは少し考えてから口を開いた。
「でもさ」
「なんで僕は、そのままでいいんだろ」
少しだけ空気が止まる。
ユエが先に答える。
「壊れそうだからじゃない?」
リクは普通に頷いた。
「そっか」
ヴァルが顔をしかめる。
「よくねぇだろ」
少し沈黙が落ちる。
そのあと、リクが何気なく言った。
「でも、あの人、嬉しそうだったよね」
「どこがだよ」
「“やっと見つけた”みたいだった」
ヴァルが嫌そうに舌打ちする。
「お前ら全員気持ち悪ぃ」
リクが言う。
「かわいいって言われたから?」
「うるせぇ」
即答だった。
ヴァルが足を止める。
「……お前、今笑ったか?」
ユエは少しだけ目を細める。
「別に」
短い。
少しだけ間。
「変だったから」
ヴァルが嫌そうに顔をしかめる。
夜風だけが、四人の間を通り過ぎていく。
しばらく歩いたあと、リクがまた口を開いた。
「ねえ」
ヴァルは振り返らない。
「……なんだよ」
「個人レッスン、行くの?」
ヴァルが止まる。
「行かねぇよ」
即答だった。
リクは少し考える。
「でも、行かなかったら怒りそうじゃない?」
「知らねぇよ」
ヴァルが返す。
ユエが静かに言った。
「怒るっていうか」
少しだけ間。
「執着しそう」
ヴァルが嫌そうな顔をする。
「やめろ」
ミナトが小さく言う。
「もうされてる」
「だからやめろって」
ヴァルが返す。
リクは不思議そうに首を傾けた。
「でもさ」
「バルって、ああいう人に好かれそうだよね」
「どこがだよ」
「なんか」
リクは少し考える。
「触りたくなる感じする」
沈黙。
ヴァルが振り返る。
「お前も気持ち悪ぃな」
リクは少し笑った。
「そう?」
ユエは何も言わない。
ただ、ヴァルを見ている。
「今日のバル、ずっと追い込まれてるから」
「追い込まれてねぇ」
「壁まで行ってた」
ミナトが言う。
「うるせぇ」
即答だった。
また少し沈黙が落ちる。
そのあと、リクが何気なく言った。
「でも、また会う気がする」
ヴァルが止まる。
「……は?」
リクは普通に続けた。
「なんか、終わってない感じしたし」
夜風が吹く。
ユエが静かに呟く。
「終わらせる気、なさそうだったよね」
誰も否定しない。
駅前まで来たところで、リクが急に立ち止まった。
「……あ」
ヴァルが振り返る。
「なんだよ」
「なんか、いる」
沈黙。
ヴァルが嫌そうな顔をする。
「やめろ」
「いや、ほんとに」
リクは普通に言った。
ユエがゆっくり後ろを見る。
少し離れた電柱の横。
誰かが立っている。
長い髪。
細いシルエット。
ヴァルが即座に顔をしかめた。
「……うわ」
逃げるみたいに前を向く。
リクが言う。
「来てるね」
「見るな」
ヴァルが返す。
遠くの影は動かない。
ただ、こっちを見ている。
リクが軽く手を振った。
「こんばんはー」
「やめろ!!」
ヴァルが初めて大きい声を出した。
その瞬間。
遠くで、肩が揺れた。
笑ったみたいに見えた。
ヴァルが真顔になる。
「……最悪」
リクは不思議そうに言う。
「でも、嬉しそうだったよ」
「だから何だよ」
ユエが静かに呟く。
「もう逃げられないね」
ヴァルは返さなかった。
ただ歩く速度だけが、少し速くなっていた。
ご覧いただきありがとうございました
日常の断片と、 本編とは別の記録を置いています。
本編側: (URL)https://x.com/fukanzen_sekai
日常側: (URL)https://x.com/vry_official




