第八章 二人だけの対話
翌日の午前。
ヨーコは一人でアルカディアと会った。
展望ラウンジ。人が少ない時間。窓の外に地球が見える。
「昨日は——ありがとうございました」とアルカディアは言った。
「私を二人で話したいと言った理由から先に教えてくれ」とヨーコは言った。
「単刀直入に言います。私はあなたに、特別な関心があります」
「なぜ?」
「昨日の対話の中で、あなたは私に対して——論理の穴を三箇所、正確に突いてきました。その速さと精度は、私が今まで評価した百三十二文明の中で、トップ十五以内に入ります。個人として」
「……」
「文明全体ではなく、あなた一人で——そのレベルに達している」
「それが何の意味がある?」とヨーコは言った。
「文明の多様性を守るとは、個体の多様性を守ることとイコールです。突出した個体がいるかどうかは——評価の重要な指標になります」
「つまり、私の存在が地球の評価を上げると言いたいのか」
「そうです」
「それを私に直接言う理由は?」
「あなたには正直に話す方がいい。あなたは嘘や回りくどい説明を好まない」
ヨーコが窓の外を見た。
「もう一つ聞く。あなたが私を高く評価することと、地球全体の評価は別の話だ。優秀な個体がいても制限を受けた文明がある。その個体はどうなったか」
「文明から切り離して保護しました。より高い段階の文明と接触させる」
「——つまり」とヨーコは言った。静かに。「私に、地球を離れてこちら側に来い、と言いたいのか」
「まだそこまでは言いません。でも——可能性として、頭に置いておいてほしかった」
◆
しばらく黙った。
「一つ聞いていいか」とヨーコは言った。
「どうぞ」
「あなたは——孤独か?」
アルカディアが、少し——動いた。体ではなく、表情が。ほんのわずか。
「……なぜそれを?」
「あなたは数千の文明を見てきた。同じ役割を持つ存在は他にいたか?」
「いません」
「一人で、数千の文明の終わりを見届けてきた」
「そうです」
「それは——きつくないか」
長い沈黙が落ちた。
「……地球人は」とアルカディアは言った。「不思議です」
「何が?」
「私に、そういう質問をした存在は——百三十二文明の中で、初めてです」
「他の文明は何を聞いた?」
「力があるか。止められるか。どうすれば通過するか」
「合理的な質問だ」
「そうです。でも——あなたは違う質問をした」
ヨーコが眼鏡を外して、こめかみを押さえた。
「答えは?」
「……孤独かどうかという概念を、私は長い時間処理していませんでした」とアルカディアは言った。「あなたに聞かれて——初めて、考えました。わかりません。でも——孤独ではないと言い切れない、ということは、わかりました」
◆
作業室に戻ると駿が待っていた。声が平静を装っていたが、緊張していた。ヨーコには分かる。
「行く気があったか?」と駿は聞いた。
「ない」と即座に。「今のところは」
「今のところ、か」
「駿、不安そうな顔をするな」
「していない」
「してる」
甚之助が咳払いをした。「俺には関係ない話に見えてきたが」
「三人の話だから関係ある」とヨーコ。
「ヨーコが行かないなら俺は問題ない。駿は?」
「俺も問題ない」と駿は言った。少し間があったが。
ヨーコが小さく笑った。
駿は窓の外を見ていた。その横顔を、ヨーコはほんの一瞬——見た。
(不安そうだった。私のことが)
胸の中で、何かが動いた。それに名前をつけることは、今は——しない。




