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第七章 旗艦を止めろ

「変調プロトコル、実装完了」


 三十二分後、ヨーコが通信で告げた。


「サーバーの量子状態を変調済み。バロス連合が収集を試みても——取得できるのは偽データだけになった」


「よくやった」と駿の声。


「問題は時間だ。旗艦のシステムが偽データを検出したら——」


「その前に旗艦に諦めさせる」と駿。「偽データを掴んだ瞬間、向こうは確認のために量子受信機をフル起動する。その瞬間——受信機の発する量子通信が最大になる。甚之助の量子痕跡スキャナーで捉えれば、受信機の物理的な座標が特定できる」


「特定して?」


「EDFに渡す。精密砲撃で受信機だけを破壊してもらう」


「少佐、聞こえるか?」


「聞こえてる」と少佐の声。「精密砲撃は得意分野だ。座標さえくれれば」


「甚之助、スキャナーは?」


「旗艦が量子受信機をフル起動した瞬間を待ってる。あと——たぶん二分以内に来る」


 一分十七秒後。


「来た! 量子通信の極大信号——座標、少佐に送る!」


「受け取った。砲撃、開始——」


 宙域の遠く、旗艦の方向に——光の閃光が見えた。



 量子受信機が破壊された。


 旗艦が動きを変えた。先遣艇への撤退命令が発信された。


「退いてる」とヨーコが確認した。


「……退いたか」と甚之助がため息をついた。


 一時間後、バロス連合艦隊は防衛圏を離脱した。



 だが——問題が残った。


「変調プロトコルを使ったことで、研究センターのサーバーに外部アクセスの痕跡が残った」とヨーコが言った。「EDF解析チームが調べれば——誰がプロトコルを実装したか、ある程度わかる」


「正体バレか」と駿。


「まだそこまでは行かない。でも——解析が進めば、「アマテラス」の学生の中に高度なハッカーがいる、という結論には辿り着く。候補者を絞られる」


「白峰さんに頼む」と駿は言った。「保護指定の申請を急いでもらう」


「わかった」



 格納庫に戻ると、アルカディアがいた。


「見事でした」と言った。


「観察していたのか」と駿。


「はい。格納庫から全部見ていました」


「なぜ助けなかった?」


「評価中です。介入したら評価にならない」


「今回の独断行動は——あなたの想定外だったか?」


「……はい。バロス連合がここまで焦るとは思っていなかった」とアルカディアは言った。「あなた方が予想より速く、予想より深く理解しているからだと思います」


 視線が動いた。ヨーコを、見た。


「特に——あなたの理解の速さは、想定外でした。白坂陽子さん」


「明日、二人で話す機会をいただけますか」


 駿が前に出た。「なぜ二人で」


「話の内容に関係があります。必要な人間にだけ話すことは——あなた方もやっていることではないですか」


 駿が返せなかった。


「……いいです」とヨーコは言った。


「ヨーコ——」


「私が判断する」


 駿は、何も言わなかった。


 目の中に、何かが走った。


 アルカディアはそれを見ていた。静かに——微笑みながら。


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