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第六章 侵攻、独断

 アルカディアが「アマテラス」に滞在している間、バロス連合が動いた。


「旗艦から展開命令が出た」とヨーコが叫んだ。「選別委員会からの『待機』命令が解除されていないのに、独断で動き始めた」


「独断?」と駿。


「アルカディアが地球に来たことで計画変更を恐れた。評価が高くなればバロス連合の工作が否定される——そう判断して先手を打とうとしてる」


「規模は?」と少佐の通信が入った。


「大型艦五隻、中型二十三隻、小型多数。EDFの三倍を超える」


 甚之助が低く口笛を鳴らした。


「正面から勝てない」とヨーコ。「でも——目標が変だ。「アマテラス」全体の制圧ならもっと大規模になる。特定の何かを狙っている」


「何を?」


 解析。数十秒。


「生命多様性研究センターの最深部。三十年分の地球生命データの原本サーバーだ。あれは独立した量子暗号保護がかかっている」


「なぜそれを狙う?」


「選別委員会に地球の多様性データを献上しようとしてる。評価材料として。アルカディアが直接来ているのに別ルートで資料を集めるのは——評価結果を左右したいからだ」



 アルカディアに状況を告げた。調整者の表情は変わらなかった。


「止められるか?」と駿。


「私が介入する立場にありません。バロス連合は選別委員会の下部組織ですが直接の制御はしていない」


「嘘だ」と甚之助が言った。


「嘘をつかない」とアルカディア。「でも——一つだけ教えましょう。旗艦には地球生命データを転送するための量子受信機が設置されています。それを先に無効化できれば——侵攻の目的が消えます」


「どうやって?」


「方法は私には分からない。でも——あなた方の中に、考えられる人がいるはずです」


 視線が、またヨーコに向いた。



「送信側を操作する」とヨーコが走りながら言った。「バロス連合が強制収集をかけてくる前に、サーバー側で量子情報の変調をかける。正しいデータに見えて、実際は解読不能な偽データを送りつける」


「時間は?」


「防衛圏に入るまで四十分。三十五分で組む。五分は予備」


「俺と甚之助が外で引きつける」と駿。


「また一人で行くな」


「甚之助と二人で行く。量子痕跡スキャナーを使う」


「今回は七十五パーセントだ」と甚之助が言った。「学んでる」


「始めよう」とヨーコは言った。「頼む。二人とも」



 研究センターのサーバー室。


 ヨーコの指が止まらない。


 量子変調プロトコル——理論は頭に入っている。実装は考えながらやる。


(焦るな。焦った瞬間にミスが出る)


 二十分。「第一段階完成」確認する。動く。


「第二段階——」


 外から爆発音。防衛砲台が応戦している。


(まだ十五分ある)


 画面の端に、一つの映像が映り込んだ。


 格納庫のカメラ。


 アルカディアが——一人で格納庫に立っていた。宇宙を見ている。何も動かずに。


(何を見ている)


 一秒だけ見た。視線を戻した。


「できる」と声に出した。誰もいない部屋で。


 指が、また動いた。


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