第四章 調整者、来訪
選別委員会の通信を解読したのは、翌朝だった。
ヨーコは眠れなかった。数式と暗号の間に、時々——宇宙空間で左肩を撃たれた駿の映像が混ざった。
(集中しろ)
自分に言い聞かせた。何度も。
解読が完了した時、手が止まった。
一文だけになった。
【地球の「例外性」評価開始。調整者を派遣する】
◆
「調整者が来る」と三人に告げた。
駿は四時間眠った顔をしていた。左肩に痛みがあるが、機能している。
「オムニアの記録にあった調整者と同じ存在か?」と駿。
「おそらく。地球の評価のために、直接代理人を送り込んでくる」
「どう対応する?」
「戦う相手じゃない」と白峰奈緒が言った。連絡を受けて来ていた。「記録にある限り——調整者は対話を求める。でも対話の結果で、文明の評価が決まる」
「どんな対話だ」
「文明の価値を問われる。なぜ存在するか。何を守るか。何のために進歩するか」
「準備する」と駿は言った。
「二日後の到着だ」
◆
二日後。朝。
「アマテラス」外部スキャナーが、未確認の飛翔体を一機捉えた。
艦隊ではない。単機だ。大きさはガルダ号と同程度。しかし形状が——どこかで見た有機的な曲線を持っていた。
「着艦要請を送ってくる」とヨーコが言った。「標準プロトコルで。こちらの言語体系に対応している」
「どう答える?」
「……許可」と相手は返した。完璧な日本語で。
◆
格納庫で三人が待った。
ハッチが開いた。
人型の存在が降りてきた。
白銀の髪。淡く光る瞳。中性的で年齢が判断できない顔立ち。
口元に——静かな微笑みがある。
美しい。という言葉が浮かんだが、それだけでは足りない気がした。
「ご挨拶が遅くなりました」
流暢な日本語だった。
「私はアルカディア・ゼロと申します。この宇宙では——調整者と呼ばれています」
「あなた方のことは、かなり長く見ていました」とアルカディアは言った。「藤堂駿。白坂陽子。江藤甚之助」
本名を呼ばれた。
「驚かせたなら申し訳ない。隠す意味もないと思いましたので」
「何をしに来た?」と駿は言った。
「お話に来ました」
「地球を評価するのか」
「地球を——あなた方を通じて、評価させていただきます」
白銀の瞳が、三人を均等に見た。
しかし——その視線が、ヨーコの上でほんの一瞬だけ、止まった。
ヨーコ以外には、気づかれなかった。




