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第三章 代償

「転送完了! 全量、「アマテラス」サーバーに格納確認!」


「駿、戻れ!」


 返事がなかった。


「駿!」


 二秒後、通信に息の音が来た。「聞こえてる。今行く」


 スキャナーに強化スーツの信号。先遣艇三機のうち二機は離脱済み。残り一機がまだ追っていた。


「俺が行く」と甚之助が即座に言った。「手動操縦は俺の方がうまい」


 その通りだったので、ヨーコは何も言えなかった。



 甚之助がガルダ号を先遣艇に向けず、駿の信号に向けた。


 強化スーツの光点が見えた。その後ろに——影。


「捕まえる」


 非殺傷型の電磁パルス砲を起動。先遣艇に一発。システムが乱れ、推力が半減した。


 その隙に駿がガルダ号に滑り込んだ。



 内部で甚之助が駿の左肩を確認した。


「骨は折れていない。でも深い打撲だ。しばらく全力で使うな」


「痛い」と駿は言った。


「正直に言うようになったな」


「嘘をつく体力がない」


「馬鹿なことをするなよ」と甚之助は言った。「宇宙空間に一人で出るのはそう言う」


「守れた」


「そうだ。だから馬鹿だと言ってるんじゃない」


 甚之助が応急処置キットを開く。「俺はお前たちを失うのが怖い。それだけだ。計算じゃない」


 駿が少し止まった。


「……そうか」


「俺が怖かったと言ってる」


 通信でヨーコの声が来た。「二人とも無事か」


「無事だ」と駿。


「……肩は?」


「骨は大丈夫だ」


「……わかった」


 短い言葉に、複数の感情が混ざっていた。駿には分かった。でも今は何も言わない。



 三時間後、バロス連合艦隊が第四衛星軌道に到達した。


 空の施設を見て——艦隊が止まった。


「旗艦から通信が発信されてる。解読できた」とヨーコが言った。「内容は『施設は放棄済み。計画の変更を要請する』。発信先は——」


「どこだ」


「選別委員会」


 三人が顔を見合わせた。


「実在した」と甚之助が言った。


「実在する。そしてバロス連合が選別委員会に指示を仰いでいる。つまりバロス連合はその下部組織だ」


「委員会の返信は?」


「解読中。でも一単語だけ読めた」


 ヨーコが画面を向けた。


「『待機』」


 バロス連合艦隊が、移動を止めた。

 空の施設の前で——何かを、待っている。


「引くな」とヨーコは言った。「この通信を全部解読する。選別委員会の手がかりがある」


 駿が仮眠スペースに向かう背中に、ヨーコが声をかけた。


「四時間。それ以上休め」


 返事の代わりに、手が軽く上がった。


 作業室に二人が残った。


「あいつが宇宙空間に出た時、スキャナーで見てた」とヨーコはぽつりと言った。


「そうか」と甚之助は言った。


「先遣艇三機相手に、一人で。……かっこよかった」


「言えばよかったのに」


「絶対言わない」


 甚之助が低く笑った。ヨーコが解析に戻った。


 宇宙は、静かだ。


 でも——遠くで、何かが動いている。


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