第三章 代償
「転送完了! 全量、「アマテラス」サーバーに格納確認!」
「駿、戻れ!」
返事がなかった。
「駿!」
二秒後、通信に息の音が来た。「聞こえてる。今行く」
スキャナーに強化スーツの信号。先遣艇三機のうち二機は離脱済み。残り一機がまだ追っていた。
「俺が行く」と甚之助が即座に言った。「手動操縦は俺の方がうまい」
その通りだったので、ヨーコは何も言えなかった。
◆
甚之助がガルダ号を先遣艇に向けず、駿の信号に向けた。
強化スーツの光点が見えた。その後ろに——影。
「捕まえる」
非殺傷型の電磁パルス砲を起動。先遣艇に一発。システムが乱れ、推力が半減した。
その隙に駿がガルダ号に滑り込んだ。
◆
内部で甚之助が駿の左肩を確認した。
「骨は折れていない。でも深い打撲だ。しばらく全力で使うな」
「痛い」と駿は言った。
「正直に言うようになったな」
「嘘をつく体力がない」
「馬鹿なことをするなよ」と甚之助は言った。「宇宙空間に一人で出るのはそう言う」
「守れた」
「そうだ。だから馬鹿だと言ってるんじゃない」
甚之助が応急処置キットを開く。「俺はお前たちを失うのが怖い。それだけだ。計算じゃない」
駿が少し止まった。
「……そうか」
「俺が怖かったと言ってる」
通信でヨーコの声が来た。「二人とも無事か」
「無事だ」と駿。
「……肩は?」
「骨は大丈夫だ」
「……わかった」
短い言葉に、複数の感情が混ざっていた。駿には分かった。でも今は何も言わない。
◆
三時間後、バロス連合艦隊が第四衛星軌道に到達した。
空の施設を見て——艦隊が止まった。
「旗艦から通信が発信されてる。解読できた」とヨーコが言った。「内容は『施設は放棄済み。計画の変更を要請する』。発信先は——」
「どこだ」
「選別委員会」
三人が顔を見合わせた。
「実在した」と甚之助が言った。
「実在する。そしてバロス連合が選別委員会に指示を仰いでいる。つまりバロス連合はその下部組織だ」
「委員会の返信は?」
「解読中。でも一単語だけ読めた」
ヨーコが画面を向けた。
「『待機』」
バロス連合艦隊が、移動を止めた。
空の施設の前で——何かを、待っている。
「引くな」とヨーコは言った。「この通信を全部解読する。選別委員会の手がかりがある」
駿が仮眠スペースに向かう背中に、ヨーコが声をかけた。
「四時間。それ以上休め」
返事の代わりに、手が軽く上がった。
作業室に二人が残った。
「あいつが宇宙空間に出た時、スキャナーで見てた」とヨーコはぽつりと言った。
「そうか」と甚之助は言った。
「先遣艇三機相手に、一人で。……かっこよかった」
「言えばよかったのに」
「絶対言わない」
甚之助が低く笑った。ヨーコが解析に戻った。
宇宙は、静かだ。
でも——遠くで、何かが動いている。




