表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

第二章 バロス連合、最大の侵攻


 平穏は三日で終わった。


「バロス連合の艦隊が接近中」


 ヨーコの声に、眠気は一切なかった。午後二時。講義の合間だった。


「規模は?」と駿が即座に立つ。


「大型三隻、中型十一隻、小型多数。今まで最大の侵攻規模だ。でも——」


「でも?」


「進行方向が変だ」


 画面に三次元の宙域マップが広がった。バロス連合艦隊の進路は——地球でも「アマテラス」でもなく、一点に向かっていた。


「木星の第四衛星軌道上。EDFの遠距離観測施設がある。対宇宙人センサー網の中継拠点だ」


 駿がすぐに理解した。「センサー網を潰す。盲目にしてから次を仕掛ける」


「あの施設が落ちたら早期警戒システムが大幅に低下する。次の侵攻に気づくのが遅れる」


「EDFは守れるか?」


「厳しい。施設はセンサー特化で防衛能力が低い。EDFは他でも複数の脅威対処中だ」


 甚之助が腕を組む。「三人で宇宙艦隊に対処するのか?」


「正面からは無理だ」と駿。「施設を守る必要はない。破壊させなければいい」


「どういうことだ」


「施設が目的なら——施設を動かせばいい」



 クロス少佐への通信が一分で繋がった。


「施設の量子データを全部「アマテラス」のサーバーに移送する」と駿は言った。「空の建物を破壊させればいい。データと機能が生きていればセンサー網は再建できる」


「……データ移送には高速量子回線が要る。施設から直接は——」


「俺たちが中継する。ガルダ号で中間点に位置して量子中継器を展開する」


「移送に必要な時間は?」と少佐。


「四十二分」とヨーコは即答した。「バロス連合到達まで四時間。マージンは十分にある」


「……お前たちは毎回、俺を驚かせる」


「驚いてる場合じゃないです」


「わかった。施設側に話を通す」



 ガルダ号が「アマテラス」を出た。


 甚之助が今回初めて実戦投入した「量子カモフラージュ・コア」——船体の量子状態を微変動させてセンサーに正確な位置を捉えさせない装置——が、バロス連合の広域スキャンをすり抜けた。


「中間点到達。量子中継器、展開開始」


 直径二メートルの皿形アンテナが四本、空間に向けて開く。


「施設と接続——繋がった。データ移送、開始」


 四十二分のカウントダウン。


 問題が起きたのは、十七分後だった。


「バロス連合の先遣小型艇が分離した。こっちに向かってる。三機」とヨーコが言った。


「転送は?」と駿。


「四十パーセント。完了まで二十五分かかる」


「先遣艇の到達は?」


「十一分」


 間に合わない。三人が瞬時に判断した。


「俺が引きつける」と駿は言った。


「一人で?」と甚之助。


「宇宙服で出る。強化スーツにスラスターを展開して三機を誘導する。お前たちが転送を守れ」


「駿」とヨーコが言った。「リスクは」


「強化スーツの酸素が四十分。引きつけが長引くと——」


「転送完了前に戻れなくなる」


「最悪その可能性がある」


 ヨーコが一秒、目を閉じた。


「……三十分で戻れ。それ以上なら全部止めて迎えに行く」


「施設データは?」


「お前の方が大事だ」


 駿が少し止まった。


「……そういうことを言うな」


「事実だ。早く行け」



 宇宙空間の静寂。


 スーツ越しに聞こえるのは自分の呼吸だけ。視界の端に地球、反対側に木星の縞模様。


 先遣艇三機が反応した。こちらを捕捉している。


(来い)


 ガルダ号から距離をとる。転送が続く間、近づかせない。


 一機がエネルギー弾を放った。駿が体を捻る。弾は通り過ぎた。宇宙空間では音がない。衝撃波だけがスーツを揺らす。


 二機目が側面から。体を横に蹴り出す。スラスターが逆噴射する。弾が足元をかすめた。


 三機目——


(上下の概念は宇宙空間には存在しない。でも奴らは船首方向を「前」として動く。つまり次は)


 全力で「下」へ逃げた。


 三発が同時に来た。


 うち一発が——左肩を直撃した。


 装甲が砕ける音。衝撃が腕を走る。左手の感覚が消えた。


「っ——」


「転送六十パーセント。十六分で完了できる。耐えて」とヨーコの声が来た。


「耐える」と駿は言った。左腕を動かす。動く。骨は無事だ。


(あと十六分)


 駿は、笑った。誰も見ていない宇宙空間で、一人で。


(これが、俺の戦い方だ)


 再び飛び出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ