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第一章 「使う」という言葉

夜明け前の作業室に、三人の学生がいた。


 誰も眠っていない。


「整理する」と駿が電子パネルに向かって言った。「バロス連合、ガラン族、タールク星系——これらの侵攻の背後に、さらに上位の意思がある。その目的は地球の多様性を『消す』ことじゃなく——『使う』こと」


「使う、って何に」と甚之助が腕を組む。


「そこが不明だ」


「不明なまま動けるか?」


「動きながら明かすしかない」


 ヨーコは端末を叩いていた。第二部でバロス連合の内部工作員カーツから回収したデータを再解析している。眠気は感じない。それより——昨夜ライから届いた情報の断片が、頭の中で点滅し続けていた。


「選別委員会」とヨーコは言った。「バロス連合の上位組織として、その名前が一箇所だけ記されていた。地球の生命多様性データを収集・評価する目的で設置された機関——そういう文脈で使われてる」


「評価」と甚之助が繰り返した。「何を評価する?」


「……存続の価値を」


 沈黙が落ちた。


 窓の外に「アマテラス」の人工夜明けが広がっていく。十億人が暮らすステーションの普通の朝。


「動き方を変える」と駿は言った。「迎え撃つだけじゃなく、こちらから選別委員会の実体を掴みに行く」


「白峰さんに会うのが先だ」とヨーコ。「彼女の研究と俺たちの情報が一致してる。今が合流のタイミングだ」



 白峰奈緒の個人研究室に、三人が押しかけた。


 扉を開けた白峰の顔に、隈があった。彼女も眠れていない。


「来ると思っていた」


「選別委員会」と駿は単刀直入に言った。「知っているか」


 白峰の目が、わずかに揺れた。


「名前だけは。三年前に解析したオムニアの通信記録の断片に出てきた。でも当時は実体のある組織とは思えなかった——宇宙的規模の都市伝説のようなものだと、研究チームは結論づけた」


「都市伝説じゃなかった」


「……そうなるか」白峰が椅子に腰を落とした。「カーツが本物のデータを持っていたとすれば、選別委員会は実在する。そして地球の生命多様性を評価している」


「評価の結果は何だ?」と甚之助。


「文明の存続を許可されるか、されないか」


 白峰は短く、はっきりと答えた。


「二択だ」



 作業室に戻って、三人がテーブルを囲んだ。


「俺たちの敵は宇宙規模の機関だったのか」と甚之助がため息をついた。


「倒す、という概念が合うかどうかも分からない」とヨーコ。


「だったら何をする?」


「まず顔を見る」と駿は言った。「選別委員会のトップ——あるいはその代理人を特定する。カーツのデータに、もう一つ名前があった。ヨーコ」


 端末を操作する。一つの名前が浮かんだ。甚之助が眉をひそめる。「読めないな」


「オムニアの記録ではこの存在を——『調整者』と呼んでいた」とヨーコは言った。「複数の宇宙文明にわたって活動記録がある。でも実在を直接確認した者はいない」


「探す」と駿は言った。


 ヨーコが小さくうなずいた。甚之助が立ち上がる。


「俺は装備を作り直す。今まで想定してた相手より、格上と戦う可能性が出た」


 三人それぞれが動き出した。


 その日、「アマテラス」の外の宇宙を——誰も知らない視線が、静かに通り過ぎていた。


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