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第十五章 ヒーローの定義


「アルカディアが選別委員会に騙されていたとしたら——」と甚之助が言った。


「構造が変わる」とヨーコ。「調整者と対話することが——委員会への対抗手段になりうる」


「どういうことだ?」


「アルカディアは選別委員会の代理人として来た。でも委員会の計画の全容を知らされていなかった。その事実をアルカディア自身が確認できれば——申立の内容を変えられる。ヴィアルカの不正だけじゃなく、委員会の計画そのものの正当性を問える」


「証拠が必要だ」


「ライのデータがある。委員会の通信記録がある。あとは——アルカディア自身が、委員会に疑問を持つかどうか、だ」


「疑問は持ち始めてる」と駿は言った。「さっきの顔を見た。あれは本物だった」



 その日の午後、アルカディアが駿に話しかけてきた。


「一つ、お礼を言いたい」


「何が?」


「あなたが言ったことを——ずっと考えていました」


「俺が言ったこと?」


「見捨てる覚悟がない、でも、それを選ぶ——という言葉です。Ω-17の時、私は彼女に計算上の最善を提示した。でも——彼女の感情は残ることを望んでいた。私はそれを計算として処理した」


「見捨てる覚悟を、彼女に持たせた」


「そうです。あなたはそれを選ばない。見捨てないで傷つくことを選ぶ。私はずっとそれを——合理的でないと思っていた」


「今も?」


「今は——わかりません」とアルカディアは言った。「でも——少なくとも、間違いではないかもしれない、と思えるようになった」



「だとすれば」と駿は言った。「お前の選別の論理も——見直せる余地がある」


「……そうかもしれません」


「お前が言っていた。守る価値のある者だけを残す。でも——価値は誰が決める? 計算が完璧でないなら——価値の判定も完璧でないはずだ」


「その通りです」


「なら——選別そのものが、誤りを含む可能性がある」


「……含みます」


「誤りを含む判断で、文明の存続を決める。それは——お前が最も避けたいことじゃないか? Ω-17のように」


 アルカディアが、長く——黙った。


「……藤堂駿」


「なんだ」


「あなたは私に——考えることを強制する」


「悪か?」


「悪くはありません」とアルカディアは言った。「ただ——長い時間、考えることをやめていたので。不慣れです」


「慣れろ」と駿は言った。「俺たちは毎日それをやってる」


「……そうですね」



 夕方、ヨーコが一人でデータを整理していると——甚之助が隣に座った。


「お前、最近アルカディアに優しいな」


「優しくしてるつもりはない」


「そう見える」


「……あの存在は孤独だ」とヨーコは言った。「数千の文明を見て、全部の終わりを見届けて——仲間はいない。そういう存在を、無下には扱えない」


「感情か?」


「事実だ」


「事実と感情は、お前の中でどっちが強いんだ」


「どちらも同じくらい」とヨーコは言った。「だから私は——どちらかだけで動く人間より、複雑だ」


「それがお前のいいところだ」と甚之助は言った。


「……甚之助は褒め方が下手だ」


「そうか?」


「そうだ。でも——ありがとう」


 廊下に、二人の足音だけが響いた。



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