第十二章 選別委員会の亀裂
「選別委員会の通信記録の中に——バロス連合の暗号プロトコルと一致するパターンが三件あった」とヨーコが言った。「発信者は委員会の評議員の一人だ。名前は——ドーン・ヴィアルカ」
「どんな立場の評議員だ?」とアルカディアが言った。
全員がアルカディアを見た。今日の対話に白峰奈緒も同席していた。
「外惑星文明の代表評議員。でも通信の内容を見ると、バロス連合から定期的に情報を受け取り、見返りに特定の文明への選別判断を操作していた形跡がある」
「地球への選別判断にも関与しているか?」
「している。バロス連合が地球を狙い続けた理由の一部に——この評議員が地球を低評価の方向で圧力をかけていた可能性がある」
「証拠として使えるか?」とアルカディア。
「使える。宇宙連合への申立に必要な証拠水準は、これで十分だ」
◆
「この証拠を——宇宙連合の独立監査機関に提出します」とアルカディアは言った。「受理されれば、ヴィアルカの評議員資格が停止される。それによって地球への選別判断に異議申立が可能になります」
「申立が認められるまでどれくらいかかる?」
「早くて二ヶ月。その間、バロス連合が独断で動くリスクは残りますが——委員会の承認なしでは本格的な侵略規模には至らない」
「二ヶ月間で体制を整えられる」と駿は言った。
「そうなります。ただし——」
「ただし?」
「選別委員会の内部に、バロス連合と繋がっているのはヴィアルカだけとは限りません。今回の申立が通ることで、残りのエージェントが動く可能性がある」
「俺たちへの直接の攻撃も?」
「あります。気をつけてください」
◆
アルカディアが一人で格納庫に向かうのをヨーコが追った。
「一つ聞く」と言った。「申立が通って選別が一時停止になったとして——あなたは次にどうする?」
「評価を続けます。でも——方法を変える」
「どう変える?」
「文明と対話することをやめない。でもそれを材料として一方的に使うのではなく、対話そのものを評価の中心に置く」
「今まであなたがしてきたことと、根本的に違う」
「難しいです。でも——あなた方と話して、それが可能だと思えた」
「あなたは変われる存在だ」とヨーコは言った。
「そう思えますか?」
「私も、三年前の自分とは違う。変わる。だから——あなたも変われる」
アルカディアが、静かに微笑んだ。
今度は——前と少し違う微笑みに見えた。
◆
その夜、クロス少佐から連絡が来た。
「防衛省経由の国家機密指定の申請——通った。白坂陽子の情報は最高機密扱いになった。EDF解析チームへの情報共有は当面停止される」
「ありがとうございます」
「礼はいい。ただし——これは永続的な措置ではない。来年の防衛予算審議で見直しが入る可能性がある。その前に別の方法を考えておけ」
「わかりました」
「あと——アルカディア・ゼロという存在は信用できるか?」
「百パーセントは、まだわからない」と駿は言った。
「わかった。俺も個人的に動向を見る」
少佐の通信が切れた後、甚之助が言った。
「少佐は——本当に味方だな」
「そうだ」と駿は言った。「でもいつまでも少佐に頼ってはいられない。俺たちが自分の足で立つ方法を、考えていかないといけない」




