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第十一章 思想の衝突


 EDFが隠蔽艦隊を無力化した。第三次侵攻、終結。


 しかし問題が残った。


「EDF解析チームが研究センターのプロトコル痕跡解析を本格化させた」と白峰が言った。「「アマテラス」学術区域に在籍する高度な量子技術者。リストには現在十八名が入っている」


「白峰さんの保護指定申請は?」


「今週中に申請できる。でも——却下される可能性がある。内閣府の上層部に、難色を示す評議官がいる」


「その評議官は——」


「バロス連合と繋がっている可能性を今調べてる」


「时間をくれ」と駿は言った。「クロス少佐に別のルートを当たる」



 その日の夕方、アルカディアが三人に話しかけてきた。


「一つ、聞かせてください」


 駿を見ていた。


「あなたはヒーローに憧れている、と聞きました。なぜですか?」


「ヒーローは強いから全員を守れる」と駿は言った。「それが理想だ」


「守れなかった時は?」


「ある。第一次侵攻の時、間に合わなかった場面が一度や二度じゃない」


「それはあなたのせいではない」


「そうかもしれない。でも——引きずることをやめようとは思わない。引きずりながら、次を守ればいい」


「完璧に守れなくても、守り続けることがヒーローだ、と」


「そうだ」


「守れない時に——選別しようとは思いませんか? 守れる者とそうでない者を分けて、確率を上げる」


「しない」と駿は即座に言った。


「なぜ?」


「選別した瞬間に——俺はヒーローじゃなくなるから」


「感情的な理由です」


「そうだ。でも——それが俺の定義だ。全員を守ろうとし続けること。守れない時がある。でも守ろうとすることをやめない。それだけだ」


「君は」とアルカディアは言った。「守りたいのではない。見捨てる覚悟がないだけだ」


 駿が止まった。


「……その通りかもしれない」


「そうでしょう?」


「でも」と駿は言った。「見捨てる覚悟を持つことをヒーローの条件にするつもりはない。俺のヒーローには、その覚悟は要らない。見捨てないで傷つくことを——選ぶ」


「傷つく方を選ぶことが合理的だと思いますか?」


「合理的じゃない」


「ならなぜ?」


「それが——俺が守りたい、人間の生き方だからだ」



 長い沈黙の後、アルカディアが言った。


「Ω-17の高知性個体は——文明を出ることを選びました。私が提示した選択肢を選んだ。でも——」


「彼女は残ることを選べなかった?」とヨーコが言った。


「私が提示したのが選択肢ではなく——誘導だったと、今は思います。私の計算上の最善を、彼女は信じた。でも彼女の感情は——残ることを望んでいた」


「見捨てる覚悟を、彼女に持たせた」


「……そうかもしれません」


 アルカディアが、初めて——目を閉じた。


「私は——ずっとそれを計算の誤りだと思っていました。でも今は——人間の誤りだったかもしれない、と思います」


「人間と言うのは合ってるかどうか分からないけど」と甚之助が言った。「お前も、感情がある」


「……そうですね。あると——思います。今、初めてそう思いました」



 夜、駿が一人で展望デッキにいた。


 ヨーコが来た。


「頑固さでもいいのか、という話だ」と駿は言った。「守れないのに守ろうとするのは、ただの頑固さかもしれない」


「いい」とヨーコは即座に言った。


「なぜ?」


「その頑固さが俺たちを動かしてきた。駿が守ろうとし続けるから、私も甚之助も守りたいと思える。感染するんだよ、そういうの」


「感染か」と駿は笑った。


「悪い言い方だったか?」


「いや。お前らしい」


 二人で地球を見た。


「ヨーコ」


「なんだ」


「アルカディアと話した時——行こうと思ったか?」


「思わなかった」


「本当に?」


「本当に。でも——アルカディアのことは、気になってる」


「どういう意味で?」


「数千の文明を見て、一人でいた。後悔を持ちながら続けている。そういう存在が——少し、かわいそうだと思った」


「かわいそう?」


「私には、駿と甚之助がいる。それで十分だ。それを手放してまで行く理由はない」


 駿が少し——息を吐いた。


「そうか」


「そうだ」


「……ありがとう」


「何に礼を言ってる?」


「わからない。でも言いたかった」


「バカだ」とヨーコは言った。


「そうかもしれない」


 ヨーコが——駿の横に、少し近づいた。


 距離で言えば十センチも変わらない。でも——それで十分だった。


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