第十一章 思想の衝突
EDFが隠蔽艦隊を無力化した。第三次侵攻、終結。
しかし問題が残った。
「EDF解析チームが研究センターのプロトコル痕跡解析を本格化させた」と白峰が言った。「「アマテラス」学術区域に在籍する高度な量子技術者。リストには現在十八名が入っている」
「白峰さんの保護指定申請は?」
「今週中に申請できる。でも——却下される可能性がある。内閣府の上層部に、難色を示す評議官がいる」
「その評議官は——」
「バロス連合と繋がっている可能性を今調べてる」
「时間をくれ」と駿は言った。「クロス少佐に別のルートを当たる」
◆
その日の夕方、アルカディアが三人に話しかけてきた。
「一つ、聞かせてください」
駿を見ていた。
「あなたはヒーローに憧れている、と聞きました。なぜですか?」
「ヒーローは強いから全員を守れる」と駿は言った。「それが理想だ」
「守れなかった時は?」
「ある。第一次侵攻の時、間に合わなかった場面が一度や二度じゃない」
「それはあなたのせいではない」
「そうかもしれない。でも——引きずることをやめようとは思わない。引きずりながら、次を守ればいい」
「完璧に守れなくても、守り続けることがヒーローだ、と」
「そうだ」
「守れない時に——選別しようとは思いませんか? 守れる者とそうでない者を分けて、確率を上げる」
「しない」と駿は即座に言った。
「なぜ?」
「選別した瞬間に——俺はヒーローじゃなくなるから」
「感情的な理由です」
「そうだ。でも——それが俺の定義だ。全員を守ろうとし続けること。守れない時がある。でも守ろうとすることをやめない。それだけだ」
「君は」とアルカディアは言った。「守りたいのではない。見捨てる覚悟がないだけだ」
駿が止まった。
「……その通りかもしれない」
「そうでしょう?」
「でも」と駿は言った。「見捨てる覚悟を持つことをヒーローの条件にするつもりはない。俺のヒーローには、その覚悟は要らない。見捨てないで傷つくことを——選ぶ」
「傷つく方を選ぶことが合理的だと思いますか?」
「合理的じゃない」
「ならなぜ?」
「それが——俺が守りたい、人間の生き方だからだ」
◆
長い沈黙の後、アルカディアが言った。
「Ω-17の高知性個体は——文明を出ることを選びました。私が提示した選択肢を選んだ。でも——」
「彼女は残ることを選べなかった?」とヨーコが言った。
「私が提示したのが選択肢ではなく——誘導だったと、今は思います。私の計算上の最善を、彼女は信じた。でも彼女の感情は——残ることを望んでいた」
「見捨てる覚悟を、彼女に持たせた」
「……そうかもしれません」
アルカディアが、初めて——目を閉じた。
「私は——ずっとそれを計算の誤りだと思っていました。でも今は——人間の誤りだったかもしれない、と思います」
「人間と言うのは合ってるかどうか分からないけど」と甚之助が言った。「お前も、感情がある」
「……そうですね。あると——思います。今、初めてそう思いました」
◆
夜、駿が一人で展望デッキにいた。
ヨーコが来た。
「頑固さでもいいのか、という話だ」と駿は言った。「守れないのに守ろうとするのは、ただの頑固さかもしれない」
「いい」とヨーコは即座に言った。
「なぜ?」
「その頑固さが俺たちを動かしてきた。駿が守ろうとし続けるから、私も甚之助も守りたいと思える。感染するんだよ、そういうの」
「感染か」と駿は笑った。
「悪い言い方だったか?」
「いや。お前らしい」
二人で地球を見た。
「ヨーコ」
「なんだ」
「アルカディアと話した時——行こうと思ったか?」
「思わなかった」
「本当に?」
「本当に。でも——アルカディアのことは、気になってる」
「どういう意味で?」
「数千の文明を見て、一人でいた。後悔を持ちながら続けている。そういう存在が——少し、かわいそうだと思った」
「かわいそう?」
「私には、駿と甚之助がいる。それで十分だ。それを手放してまで行く理由はない」
駿が少し——息を吐いた。
「そうか」
「そうだ」
「……ありがとう」
「何に礼を言ってる?」
「わからない。でも言いたかった」
「バカだ」とヨーコは言った。
「そうかもしれない」
ヨーコが——駿の横に、少し近づいた。
距離で言えば十センチも変わらない。でも——それで十分だった。




