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第十章 甚之助の過去

 翌日、甚之助が作業台に向かって無言で何かを組み立てていた。


「何を作ってる?」と駿が声をかけた。


「考えてることがあって」と手を止めずに言った。


「アルカディアのことか?」


「違う。昔のことを考えてた」


「昔?」


「俺が武器を作り始めた理由だ」



 甚之助は高校二年の時、親友を失った。


 話したことはなかった。駿もヨーコも知らない。


 その親友——竹内誠一は、バックパッカーで地球の各地を旅するのが好きな、どこにでもいる普通の少年だった。特別な能力も特別な目標もなかった。でも——笑い方だけは、誰より豊かだった。


 彼が死んだのは、ガラン族の第一次地球侵攻の時だ。政府もEDFも対応が遅れた。誠一はたまたまその地域にいた。


 甚之助は何もできなかった。


「武器があれば、と思った」と甚之助は言った。「力があれば、守れたかもしれないと」


「だから発明を始めたのか」


「作ることが止められなかった。手を動かしていれば——考えずに済む」


「今も同じか?」


「今は違う」と甚之助は言った。「今は——お前たちのために作ってる」


「何かあったのか?」


「アルカディアが言ってた。俺の力を評価しているが、感情で動く点を欠陥と見ると」


「欠陥じゃない」と駿は言った。


「俺もそう思う。感情で動くから、俺は誠一のことを忘れない。忘れないから、守ることに本気になれる。欠陥じゃなくて——動力だ」


「そうだ」


「でもアルカディアにそれを言い返せなかった」


「お前は今、自分の動機を正直に話せた。それが思想の話だ」


 甚之助が少し止まった。


「……そうか」



「今日作ってるのは——量子周波数スキャナーの改修版だ」と甚之助は言った。「バロス連合が使う量子位相ステルスの艦隊がある。あれは量子痕跡スキャナーでも捉えにくい。でも——位相ステルスには特定の周波数帯に干渉パターンが出る。それを広域スキャンすれば、隠れている艦隊の位置が分かる」


「エリアは?」


「「アマテラス」周辺、半径一万キロ」


「副作用は?」


「スキャン時に膨大な量子情報を処理するから——起動中は俺の意識が飛ぶかもしれない。脳に直接接続する設計だ」


「危険だ」と駿。


「俺が一番この装置を理解してるから、俺がやる方が安全だ」


「ヨーコに相談する」


「結果は同じになるが、聞いてくれ」



 ヨーコの条件は一つだった。


「起動中に何かあったら、私がシステムを強制終了できる回路を追加する。それが条件だ」


「構わない」と甚之助は言った。「安全弁がいれば安心して飛べる」


「安心するな」とヨーコ。「気をつけて飛べ」



 翌日、改修版量子周波数スキャナーが完成した。


 甚之助が神経直結インターフェースを装着した。起動した。


 目が——白目になった。


「甚之助!」


「……見える」と三秒後に言った。「量子の層が全部見える。位相ステルスの干渉パターンが——あちこちに」


「バロス連合か?」


「識別する——いる」


「どこだ」


「「アマテラス」から三千キロ。位相ステルスをかけた中型艦隊。数は十四隻」


「隠れていたのか」と駿が言った。


「四十八時間以上前から待機していた。昨日の侵攻が失敗した後も、ここに残ってた。一部だけ退いて見せた」


 ヨーコが即座に動いた。「通信を遮断する。五分間止めれば——EDFが位置を掴んで対応できる」


「使えるか?」と駿。


「作ってある。意図的通信妨害器だ。でも——スキャナーとの同時起動は俺の処理が追いつかないかもしれない。誰かが妨害器の操作をやれるか?」


「俺がやる」と駿。


「少佐への連絡は妨害開始から」とヨーコ。「五分で全情報を伝えて、位置を確認してもらう」


「始めるか」


「頼む。二人とも」



 妨害器が起動した。バロス連合の通信が途絶した。


 少佐に通報。座標を伝達。EDFの精密スキャナーが隠蔽艦隊を捉えた。


 その時——甚之助が突然、床に倒れた。


「甚之助!」


 ヨーコが強制終了回路を起動した。神経直結インターフェースが切れた。


「聞こえるか!」


「……聞こえる」と床から言った。「少し飛んだ」


「怪我は?」


「頭が痛い。それだけだ」


「馬鹿」とヨーコが言った。


「そうかもしれない」


「でも隠蔽艦隊は特定できた」と駿が言った。「EDFが対処してる。お前のスキャナーが機能した」


 甚之助が床から天井を見たまま言った。


「誠一の分まで守る。それだけだ」


 駿が肩を掴んで起こした。


 何も言わなかった。


 ただ——少し強く、握った。


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