ファンタシィ・フェイダ・ウェイ/十八
華咲いた疑心。
果たして、白か、黒か。
いいえ。
それよりもアオとは、どんなアオか、ユウリは確かめたかった。
コナツが信じられないから、ユウリはアオを信じたい。我ながら単純と再度思う。でも信じることの出来る人に傍にいて欲しいから、ユウリは孤独が嫌だから。信じるためには咲いた疑いの華の色をよく観察して見極めなければいけない。疑いは大したことではないかもしれないのだ。間違いなのかもしれないのだ。アオに殺されると思って恐怖したことなんてその場限りの、錯誤だったかもしれないのだ。
魔女のように何か企む目の真意は、ユウリへの異常な愛情なのかもしれない。
暴力的とさえ思えたアオの強い愛撫もその感情の発露なのかもしれない。
今夜、会える?
何もかも発露してもらおう。
アオの、本当の純粋な色を見せてもらおう。
そんな気持ちでメールを送った。
ユウリは胸の前で、両手でスマートフォンを握り締め、祈るポーズを取った。
こちらからは疑心を全てぶつけたつもりよ。
だからその返事を待っているのよ。
どんな返事だって受け止めてやるつもり。
正直に、素直になってまた、やり直しましょう。
メールはすぐに返って来なかった。ユウリは天体史の概説書を枕元に広げゆっくりと目を通しながら返信を待った。いつの間にか眠っていたようで時計を見れば錦景市は午後の三時だった。一度眠ったおかげで頭は少し重たいけれど体の不快感は消えていた。返信はまだ来ていない。シャワーを浴びて体をごしごし洗った。歯を磨いた、チョコレートによって傷付けられた頬の裏は小さく炎症を起こしていた。ドライヤで髪を乾かし、自分の髪を磨くように入念に櫛を入れた。裸で鏡に映る自分を見てユウリは、なんて綺麗な少女なんだろう、とうっとりした。
昨夜の酒と煙草とチョコレートなんて一抹も連想させない清楚な少女が鏡に映っている。
鏡に真実なんて映らない。
純真はどうしたら見えるのでしょう?
ユウリは紅色のラインが素敵な紺のロンズデールのジャージに着替えてリビングでワイドショーを見ながら熱い珈琲を飲んだ。小腹が空いたので低脂肪の味がないヨーグルトを食べた。返信はまだ来ていない。ワイドショーが気持ち悪い経済評論家のコーナーになったのでテレビを消してラジオを付けた。チャンネルはG-FMで、きっともう出会えないだろうと思ってもファンタシィ・フェイダ・ウェイのメロディをユウリは探している。
いい加減気が済めばいいのに、気が済まない。
それくらいかけがえのないロックンロールなんだ。
今、ラジオからはミスター・チルドレンのサレンダが流れている。
久しぶりに聞いて、こんな曲だったかな、と思う。
なぜかユウリの目からは涙が溢れてきた。
そのとき、ユウリのスマートフォンが震えた。
アオの返信だった。
「会いたいよ」
それだけだった。
なぜか涙が溢れて止まらなくなった。声が漏れて顔の筋肉が言うことを聞かずに歪んでしまうほど。
これって、つまりユウリもずっと。
ずっとアオに会いたかったということなのかな。




