ファンタシィ・フェイダ・ウェイ/五
錦景市は月曜日の朝の七時。
ユウリは髪を金色に染めてカバの帽子を被って純白の白いワンピースを纏った。ゼプテンバ・モードのユウリを初めて見るアオは掠れた悲鳴を上げた。「……はあぁ、何それ、すごく可愛いっ、はあぁ、金髪、可愛いよぉ」
「じゃーん、ゼプテンバ様に変身しちゃいました」ユウリは上機嫌でアオに答える。
「え、変身?」
「そう、私のゼプテンバ様のコスロテはいかが?」
「え、それってコスロテなの?」
「うん、そうだよ、ゼプテンバ様に見えるでしょ?」
「え、」アオは真顔で言った。「見えないよ、ユウリはユウリにしか見えないよ」
「えー、アオちゃんってば酷いなぁ、嘘でも見えるって言うもんでしょう、」ユウリは口を尖らせて言う。「自覚してるんだから、どうしたってゼプテンバ様そっくりになれないことは分かってるの、人種が違うんだもの、でもゼプテンバ様と同じ色に髪を染めて、同じ服を着て私は少しくらいは幸せになれるんだって、健気でしょ? きちんと私はね、ゼプテンバ様になれないってことは自覚しているんですよ、そんな健気な私にアオちゃんは嘘を付くべきだと思う、そっくりだって、ユウリはユウリに見えないって嘘を付くべきだと思いますよ、本当に」
「そうね、」アオは笑顔を作り流暢に発声する。「ユウリってばユウリに見えない、そっくりよ、ゼプテンバ様にそっくり、あら、もしかして実は本当のゼプテンバ様なの? そうなの?」
「そうそう、そんな感じ、上手よ、」ユウリは両手を組みうんうん、と頷いた。「これからはそんな感じでお願いしますよぉ」
「うん、」アオは小さく頷き、ユウリの目をまっすぐに見て言った。「うん、分かった、でもね、今のユウリはゼプテンバ様よりもずっと素敵だと思う、ゼプテンバ様に擬態する必要なんて全くないのに」
「擬態なんて難しい言葉を言うんだね、」ユウリはクスリと笑って首を傾ける。「それも嘘?」
「ええ、そうよ、何もかも嘘、」アオはユウリの金髪を触ってからカバの帽子の位置を少し後ろにずらし小さく頷きながら冗談っぽく言った。「あ、私も着替えなくっちゃ」
二人は月曜日にそれぞれの制服に袖を通すことなく、それぞれの中学校に向かうつもりもさらさらなかった。
これから二人は旅人になる。
ちょっとした放浪のつもり。
現代社会の暦が生み出す歪んだ拘束からの一時的な脱出を試みる予定である。
消えてなくなりたい、という気分とは程遠い。
簡単なピクニック。海に飛び込んで心中なんかはしないわ。ユキコがもし家に来たときのために置き手紙を書いて、コナツにはメールで月曜日の欠席を伝えた。
少しピクニックに出たい気分なの、としたためた。
月曜日、という時間を無駄に浪費すれば、マサヤに対抗する準備が整うでしょう、という心境だった。今はまだ整っていない。しかし放浪して時間が経過してもう一度ベッドで眠ればきっと整うでしょう。確証はないけれど、少しは強気になれる気がするんだ。それにしてもマサヤのことばかり考えているのって不健康だ。ヒステリックが溜まる。傍にアオがいなかったらきっと何かを壊すために暴力を振るっていたと思う。そしてまた怪我をしたかもしれない。ユウリはまた自分の体を傷つけていたかもしれない。だからマサヤはユウリにとって罪人だし暴力によって粛清されるべき対象なのだと思う。
火曜日は徹底的に、マサヤのことをいろんな意味で爆破してやろう、とは、とりあえずユウリは決めていた。放浪はそのための準備であり、充電であり、装填なのだ。
とってもポジティブ。
前向き。
前しか向いていない。
ストレートなんだよ、いつになくね。
「お待たせ」アオは青い服に着替えた。アオは色んな青い服を持っているけれど、今日は一段と濃いデニム生地のワンピースを着ていた。
群青。
「さ、ユウリは私をどこに連れて行ってくれるのです?」
群青を装う彼女はユウリが座る車椅子を押しながら聞いた。
「塔の遊園って、アオさん、ご存じ?」




