ファンタシィ・フェイダ・ウェイ/四
ユウリはマサヤに会いたくなかった。
顔を合わせたくない。
あいつはユウリの前の席の住人だ。だから学校に行けば必然的にマサヤの近くに行かなくちゃいけなくなる。
それがなんだか。
絶対に嫌なのです。
「はあ、」ユウリは大きく溜息を吐き額に手を乗せ囁いた。「明日学校に行きたくないな」
日曜日のベッドの中でユウリは今日も強い力でアオに抱き締められていた。BGMはミスター・チルドレンの旅人。
安直だけど純粋さが胸を撃つのです、とユウリは回転するCDに合わせて歌った。
「さぼっちゃえばいいよ、」アオはユウリの耳元で囁く。息が当たってくすぐったい。そのくすぐったさがユウリの脳ミソを溶かしているような気がしていた。「学校に意味なんてないもの」
「……アオちゃんは学校が嫌い?」
「嫌いよ、すっごく嫌い」
「私も嫌い、人間の数が多過ぎる」
「気が合うね、」アオは言って笑顔を見せる。「そう、人間の数が多過ぎる」
ユウリはその笑顔を見て目を瞑った。
鼻で大きく息を吸って、口をだらしなく開いて息を吐き出す。
依存しているな。
ユウリは思った。
アオの笑顔に依存している。
機械的、というか。
無機質、というか。
退廃的、というか。
なんていうか、屈託のない、冷たい笑顔にユウリは依存している。
これが近くにないと、安らげないって思う。
アオの笑顔を見ていれば、安らいでいるって思う。
ずっと安らぎを求めていたのでしょうか。
分かりません。
でも天井を見ながら強く思うのは。
どうか月曜日にならないで下さい。
なんて神頼み。
日曜日、朝からアオはずっとユウリの家にいた。二人でとっても楽しいことをしたり、少し政治の話をしたり、天体史の話をしたりした。
誰にも邪魔されずに二人は同じ空間で、同じ時間を過ごした。
ユキコはアオがユウリの家に入り浸るようになってからあまり出現しなくなった。
ユキコは多分、空気を読んでくれている。ユキコには何も言ってないけれどきっと、アオがユウリの彼女になったって分かってるのだろう。
だから来なくなったんだと思う。
それには感謝していた。
それには感謝していて、そのことでそう言えば、ユキコはいつも敵じゃなかったな。
味方に近い存在。
まさに叔母、という存在なのでした。
それには感謝している。
そして少し寂しいな、とも思ったりもする。ユキコの前では絶対に言ってやらないけれど、もしかしたらユウリはユキコに少し依存していたのかもしれない。いなくなって良さが分かる。煙草と一緒。そういう感じ。
とにかくアオと過ごした日曜日はあっという間に時計の針を回して、今の盤面の表示は、錦景市の夜の十時十分だった。おしゃべりしていたらすぐにきっと、月曜日になる時刻。ユウリは時計の盤面を片目を開けてじっと見て口を小さく開いて言った。「ねぇ、アオちゃん、明日、どこかに行こうよ」
「どこかに行こうよ、って、どこに行くの?」
「まだ決めてないけど、どこかに行こうよ」
「いいよ、」アオはユウリの頭を撫でて言う。「考える時間をあげよう」
そう言いながらアオはユウリが考える時間なんてくれなかったんですけどね。




