A3 その18 『主人公』 大
0707 途中
0708 追加
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「いやいやいや何コレ……」
「やってしまったな、セセギ……」
リンと付き合うことになり、それをどこからか情報を仕入れたクラスメイトに茶化され、そうだよと肯定した瞬間、……信じられないけど、世界がガラリと入れ替わった。
空は油絵具をぐちゃぐちゃに混ぜたかのように色合いが変化し、北からは竜巻が、西は雷鳴、東は隕石、南は空間がぐにゃっと歪んでいる。
俺の学校を中心に、世界が螺子曲がっていた。なんだこれ。
今は放課後で、時間が経つにつれ、世界が狂っていく……。
「あの、キトさん、何が起こっているの?」
「君は、告白されたな、リンたんに!」
「え、……えぇ、はい」
「そして付き合った。くたばれ。人が同性の人間から尻の穴を狙われているというのに、君は呑気に幸せを謳歌しやがって、クソッタレ!」
「それは知らない。お前もそろそろ諦めて玉の輿に……」
そこでキトは掌を俺に向けてきた。
「僕から振っておいてなんだが、その話はもう勘弁願おう。さて、晴れて彼氏彼女の関係となったリンたんの心境は、今や恐ろしいことになっている」
「恐ろしいって? う、うわッ!」
今度は空の雲が円状に裂けて、そこから眩いほどの光が降り注いできた。あれは……羽っぽい何かを背中から生やした方々が、ゆっくりと空中から降りてきている。
「まさか、僕もここまで非道い状態になるとは予想もしていなかった。もちろん、予知も今回ばかりは役に立たなかったようだ」
「ぎゃああ、今度は地面が裂けて真っ黒な膿みたいな影が浮かび上がってきた……」
「リンたんの次の形態に、以降してしまったんだ」
「もったいぶった解説は良いから、早く教えて!」
俺は足元に忍び寄る黒い影や線から必死に逃げながら、キトに説明を乞う。
キト曰く、リンは今現在、超有頂天になっているらしい。最愛の人から笑顔を貰い、自分の作ったお弁当も美味しく食べて貰った。この上になく、極限まで幸せを噛みしめている、らしい。まぁ、確かに頷いた瞬間、リンはぱっと笑顔になって、くるくる回っていたよ。
「それだけなら何も問題ない。しかし、リンたんはそんじょそこらの常人とはわけが違う。己の周りを狂わせるという神がかり的な能力を秘めているんだぞ。それが、一気に増長されてしまったんだよ。今回のリンたんを『ミラクルフォーム』と呼ぼう!」
今度は校内から怪物の雄叫びが轟き、俺の心臓がバクバクと音を掻き鳴らす。
「えっと、皆がまた狂った、ということ? でも、これはいつもの世界なんか比べものにならないほどヤバくない?」
そう問うと、キトはゆっくりと首を振った。
「ヤバいなんてもんじゃない。リンたんの煌めきが、人間の眠れる力を引き起こすだけに留まらず、この地球はもちろん、宇宙、平行世界、異次元、その他もろもろから全てを引き寄せてしまったんだ!」
「流石にそれはありえないかと……」
その瞬間炸裂音が響き渡る。校内で爆発が起こっている……。閃光が輝き、屋上では何かが華々しく散っていた。
「学校内の人間はその全てが能力者として生まれ変わってしまった。炎を操る者から、夢を現実に置き換えたり、如何なる能力を無効化したり、時を止めたり、空間を曲げたり、主人公補正を持ったりと、キリが無い……。宇宙からは宇宙人、別次元からの征服者、天界からは混乱を鎮めようと天使が現れ、地下奥底からは混沌に乗じて悪魔が出現している。恐ろしい……。この世の魑魅魍魎が集結している」
「流石にやり過ぎじゃない? リンの能力、お前のキモイ能力だけでも微妙なのに、今のこれは」世界観的に合わない気がする……。
「アカシックレコードに介入を施したところ、少し前に一つの物語が終わり、今回は何でもアリ! と記されていた。……むぅ、始まるぞ、カスタトロフィがッッッ!」
そう呟きながらも、キトはニヤリと不気味に微笑んだ。キトはスマートフォンを取り出すと、アプリを起動する。
『JKJKJK』
奥義
タイプ――JK
この世に存在するJKを全て愛する者が発動する。対象の能力を無効化し、使用者を勝利へと導く。その際に対象の能力との間で矛盾が起きた場合、その矛盾を勝利で上書きする。
『――JKが存在するから僕が存在している。僕が存在するからJKも存在している。なるほど、世界は一見複雑に組み合わさっいるかに見えたが、真実はこうもシンプルだったのか。――覚醒する直前のキト』
確か、全てに勝利する力、だった気がする。あぁ、キトはJKが大好きで、JKに危害が加わるものなら、この星を征服にしようとしてきた超科学を備える宇宙人を返り討ちにしていたなぁ……。
キトは悠然と歩み始めた。
混沌とした世界に、”一人”で挑むらしい。
「セセギ、これは貸しだぞ」
「うん、報酬は、俺の娘が成長してJKになったときに記念写真撮らせてあげますので、よろしくね」
キトは満足したのか、振り返らずに頷くと、校内に消えた。こういう俺の関係ない世界の話の場合は、その道のスペシャリストに頼むのが一番。
俺は、リンが出てくるまで校庭の隅で待機することにした。
帰り道。
リンと、並んで歩く。
……笑いすぎだろ、とツッコミたくなるくらいにリンは微笑んでいた。へらへらあははと、こんな顔みたことが無いとビビるくらいに幸せそうだった。
確かにキトの言う通りらしく、今回の騒動はリンが原因だろう。キトが速攻で終わらせたカスタトロフィ? が過ぎ去っても、まだ余波は抜けていなく、周りの人間は狂っている。ホント恐ろしいわ……。
「……ギ君!」
「え?」
「セセギ君! さっきから呼んでいますけど、ぼぉーっとして、どうしました?」
リンが真下から俺の顔を覗き込んでいた。巨大な二つの瞳に俺の顔が映っている。その不思議な威圧感に、思わず身震いをしてしまった。
最近色々と慣れてきたはずなのに、再度異常性を示されて、恐くなる。
「さっき学校で色々あったろ? そのことについて考えていた」
「学校で何かありましたか」
コイツに自覚は無いのか……。あぁ、そうだよね、今もジョギングをしていた中年のおばさんが、どこからか全身にはめ込むギブスを付けて全力疾走して彼方へ消え去ったんだけど、眼中に無い。
ってか、リンの瞳には俺しか映っていない。
俺の一挙一動をその大きな瞳で包み込むかのように、見つめている。ちょっと恥ずかしいが、やめろと凄むと何故か逆に喜ぶのでもう言わない……。
その後、リンとは適当に会話を重ねて、途中で手を握り……気が付けば分かれ道となり、リンは可愛らしく手を振りながら、消えて行った。
異様な倦怠感を覚えつつ、ふと顔を上げた瞬間、俺は深く溜息を付いた。
何故なら、
目の前から、
閃光ヲ壊ス紅キ雷、通称――クレナ、が笑顔で向かってきたから。今一番出会ってはいけない人間の出現に、俺の心が折れそうだった……。