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超一方通行トライアングルッ!  作者: 八澤
アディッショナル3
67/69

A3 その19 『クレナ』 大

「あらあらあらセセラギじゃん。どしたの? 顔色悪いよ?」

「疲れているから……あと」

「あと?」

 ――クレナに出会ってしまったから気分が悪い、とは流石に言えない。「いや、なんでもない」

「そう。私みたいな美少女に出会えたんだから、普通は元気になるはずなのに、あんたおかしいよ」

「自分で言うか……。それじゃ」

 俺はクレナの横を通り抜けようとしたが、案の定、クレナは横へズレて道を塞ぐ。――その行動は読んでいたので、跳ねるように反対側へ飛んだが、「セセラギは単純だねぇ」と行動を更に読まれ、笑いながら俺の前にクレナはまた立ちふさがる。

「何だよ」

「暇なのよ。彼は今日予備校で必死に勉強しているし、友達は都合つかないしで……。あんたも暇でしょ?」

「いや、俺はアマネに用があるから」

 これは本当だった。「ふーん、セセラギ君は告白を受けて了承したその足で、他の女の元へ向かう、とね。流石大変態セセラギ!」

 意地悪い目で俺を睨みつけながらクレナは答える。

 ってか、何で知ってんだよ……。

「……そうだね、はい、そこどけ」

「反応薄いね、つまらないよ、セセラギ」

「お前と遊んでいる暇無いから。ってかお前だって今日学校に居ただろ? あのカスタトロフィに巻き込まれたよな?」

「はぁ? カスタトロフィ? 何突然漫画の中みたいなこと言いだして……。頭大丈夫ですか?」

「大丈夫も何も、実際に……」

「あー、私、今日の授業がつまらなかったから、生理と言って抜け出したんだわ。だからその、カ、カスタトロフィ?」とクレナは小馬鹿にしたように笑った。「を知らないの。まぁ、どうせあんたがぴかりちゃんと付き合って、世界が色々と変わっちゃったんでしょ。よくあるよ、うん」

「だったら、どいてくれよ」

「まぁまぁそう邪見に扱わないでよ。流石に傷つく……」

 ニヤニヤ顔で言うクレナからは、一欠けらも傷ついた様子は無い。クレナは俺を舐めるように見つめると、俺が持っているクリアファイルに眼が向かってしまった。

「何それ?」

「お前には関係ないよ」

「優しい声で拒否らないでよ。何、私に知られるとヤバいモノ?」

「だから関係無いって、言ってんだろ!」俺は声を荒げたが、依然クレナは笑顔を崩さない。ってか、これは笑顔じゃないな。まるで威嚇だ。

 俺に対して、前にカラスミで対峙した時のように、悪意をぶつけようとしている……。

「わかった、ド非導に渡すモノでしょ。アイツ今日仮病で休んでいるからね」

「え、仮病?」

「あ、違うの。前みたいにカマかけてみたんだけど、なんだ、本当に病気なんだ、つまらない。仮病だったら、またド非導は非、合法的な世界を彷徨っているよ、とセセラギを揄うつもりだったのに……」

 やれやれ、とクレナは首を振る。この女、一度殴ってもいいよね?

「お前はマジで何が目的なの?」

「暇潰し。平和過ぎるんだもの。さっきのカスタトロフィ、だっけ? そっちに居たほうが楽しかったかもねぇ。学校抜けて、あの今にも潰れそうな商店街に新しく出来た喫茶店に行かなきゃよかったよ」

 そう言えば、クレナは小さな紙袋を右手に持っていた。洒落た文字が綴られたそれは、確か、前にリンとアマネが言っていた、喫茶店の?

「あそこ行ったんだ。女子は皆行ってるよな」

「そりゃ、女の子にとって、可愛いモノや甘いお菓子を食べるのって、一種のステータスだから。たまに馬鹿にする奴ら居るけど、そういう奴って大抵カーストの低い野暮ったいボケばっかり。可愛いモノ好きな私は可愛いアピールでもしてんだろ? って自信満々に唱える奴も居るけど、それで可愛いんだから文句ないだろって。まぁ、外見腐っている奴がこれ可愛い~! って叫ぶ姿を見てしまった方々の心中察しますけどねぇ」

 もう少しで女子って可愛いモノ好きな自分可愛い! って思っているんだろ、と言うところだった……。ただ、ギャル入っているクレナに、そのガーリーな紙袋はどこかチグハグしている気がしたが、そんなこと口に出すわけにもいかないので胸に隠しておく。

「でもアマネのお見舞いに、持ってくのそれだけ?」

「……そうだけど?」

「え、えぇ~!」とクレナはわざとらしく驚いて見せた。「お菓子の一つでも持って行ってあげればぁ~?」

「あー、そうだな、確かに。この先にコンビニは無いか……」

 すると、クレナは頭の上に電球を光らせながら、「この喫茶店のシュークリーム買えば? 私みたいに。お土産として売っているんだよ。美味しいって聞いたから、私、買ったんだけど……」

 そこでクレナは笑い始めた。くひひひ、と頬を歪め、腹を抑えるようにして、不気味な笑い方だった。

「あの、どうしたの?」

「ごめんごめん、商店街の姿思い出したら、笑い止まらなくて」

「いや、笑えないだろ」

「私さぁ、あのシャッターが閉まりまくって絶望の淵に立たされた世界って、あまり体験したことが無いから、今日行って感動したのよー」

 コイツは……また人の不幸を楽しんでいる……。

「感動はしないだろ」

「だってこの喫茶店だって、そんな商店街の現状を知って、それでも必死に立ち向かおうとして建てられたんでしょ。まぁ、今は物珍しさで人は入っているようだけど、いつまで続くんだか」

「人気あるんだろ? お前が行くくらいだぞ」

 クレナは両手を持ち上げ、さぁ? と首を傾げる。

「知ってる? 今駅の付近を工事しているでしょ? 今度近くに巨大なモールが作られるの。近代的で、中にはトレンドの店が閉め、開放的に広い。ありとあらゆる商品が全て揃う……。街は全力で応援して、一気に人を集めて街の増幅を謀っている、らしい。もちろん地元でわびしく商売を続けている方々なんて、一瞬で蒸発しちゃう規模だってね。あはははは、もちろん、あの安っぽい喫茶店も、消えてなくなるだろうねぇ」

「商店街の人だって、頑張ってんだから、そう馬鹿にすんなよ」

「ただ事実を述べただけだから。あははは、まぁ私には関係無いし。あ、あとね、もうこの時間の喫茶店は女子高生に包囲されて中なんか入れないよ。シュークリームも売り切れだと思うし」

「そ、そんな……」

 戻ってコンビニのプリンやら何やらアマネが満足する分だけ買っておくか、そう思って踵を返そうとすると、クレナは俺の眼前に喫茶店の紙包みをぶら下げた。

「欲しい?」

 人間が、これほど憎ったらしい顔をできるのか、と感動するほどの表情をクレナを模っている。

「ください・・・・・・と言って素直に渡してくれるはずかないし、さて、どうしよう」

「条件を一つクリアしたら、セセラギにただで渡そう」

「いや、大丈夫ですコンビニで適当にアマネの好みそうなお菓子を大量に購入するから」

 嫌な予感を全力で感じた。これ以上コイツの前に居ると自分のペースが保てないので、逃げようと身構える。

 が、俺の逃げ道を塞ぐように、上手く間合いを詰めてくる。

「簡単な条件だから、そう身構えないでよ」

「いいって、別にそんなにシュークリーム欲しくないから」

「あんたはいらないと思うけど、ド非導には必須かもよ」

「だから、意味わかんねぇ、って」

「もしも、だよ。もしも、ド非導がセセラギとぴかりんちゃんの間柄を、良く無く思っていたら、どうする?」

「いや、それは知ってるから」

「違う違う、セセラギが頭狂っちゃうくらいの小っちゃい話じゃなくてさ、最終手段に向おうと、覚悟を完了させていたら、どうするって話」

「最終手段?」

「ぴかりんちゃんはセセラギに奪われちゃう、本当なら、二人を応援したいけど、本音は嫌がっている私がいる。で、その本音は結構タフでしつこくてやる気がって、どうすりゃセセラギとリンの関係をぶっ壊すのか、考えちゃうのよ」

「アマネならやりかねない……か」

「そこで、きっとこのシュークリームが必要になるの。熱で頭やられている最中、まともな思考なんて持ち合わせちゃいないよ。変な幻覚でも見て、わけのわからない自己満足な作戦を練っている。で、そこにのこのこ現れたセセラギ君を……以下略、と。セセラギよりも、ド非導はぴかりんちゃんのこと理解しているから、どうすりゃぴかりんちゃんが極限まで悲しむのか、わかっているはずよ。でも、そこであんたがこのシュークリームを差し出せば、多分それは防げる」

「いやいや何で? 話が飛躍しすぎて無い?」

「ド非導は、『このシュークリームはリンちゃんが私のために買ってくれたんだ!』とおめでたい勘違いを犯す、から。で、一瞬だけ正気に戻る。そうすると、セセラギは特に変なことされずに帰宅できるよ」

 ヘラヘラと言うコイツの言葉には、何一つ信憑性が無い。

 そんなこと、起こるはずがない、と俺はアマネを信じているはずだった。

 だけど、何だろうこの妙な胸騒ぎは……。リンに告白され、了承してから、気分が優れない。……まるで、この後訪れる危機に対して、それを知り得る能力に芽生えたかのように……。

 何故だ?

 もしかして……「きっとぴかりんちゃんパワーでしょうね。今はそう言っておけば大体の問題は解決すると思うよ」

「そ、そうなの?」

「今セセラギが感じているドキドキも、ぴかりんちゃんがセセラギだけは絶対におかしな世界に引きずり込まないように、と強い願いをかけているからだろうねぇ。愛されているね、セセラギ! もしかしたら裏切られちゃうかもしれな……ううん、何でもない!」

「意味深なこと言うのやめろよ、マジで……。それで、何だっけ、そのシュークリーム、くれるの、くれないの?」

「欲しい?」

「断っても、くださるのでしょう?」

「で、その条件だけど、どうしよっかな、もっと非道いのが良かったんだけど、そんな暇が消えてねぇ、それに、もしもぴかりんちゃんが望まない条件とかかざすと、私に不幸が訪れそうだし……」

「ブツブツ何言ってるの?」

「じゃあ、こうしよう。この先、色々な困難が待ち受けていると思うわけ。特にぴかりんちゃんとド非導は二人とも頭悪いから、これからも今みたいな世界が広がっていくから。もしかして、おかしな世界に迷い込んでしまうかも、しれない。でもね、そんな時でも、セセラギは、大丈夫? 迷わない?」

「はぁ?」「私、今結構真面目モードでさ、真剣に聞けよ。いい? ぴかりんちゃんを不幸にしたら、駄目だよ? 守ってあげなよ、ずっと」

「……ずっと、って、早くね?」

「へぇ、無理なんだ……」

「今は……わからないよ。まだ先のことだから」

「私は、今『わかった! 俺が守る!』と格好良く凄んで欲しかったんだけど、セセラギはそう答えない、か」

「何が起こるかわからないから、そう簡単に頷けないよ。しかも唐突に! お前も一体どうした? リンにやられたの?」

「かもね、今はぴかりんちゃんをどうやって笑顔で生きながらえさせるしか考えていないから」

 と、言いながらもクレナの瞳は妙に輝いていた。リンに惑わされていはいない、のかな。

「さて、それじゃあ、このシュークリームなんだけど、あげるよ」

「……え?」

「どうせ上げるつもりだったし、私は甘いのあまり好きじゃないし……。それに、もう疲れたから……」

 クレナはそう答えると、溜息を残して、俺から離れていく。振り返らず、ふと瞬きをした瞬間、姿は消えていた。

 俺の手に、冷たいシュークリームだけが残っている。

 















0721

クレナとセセギの会話は前話から独立させました。


1014

完了。



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