X^4 6 叫び声が聞こえ
はっとして、俺は起き上がった。
「やーっと起きたか!」
顔を上げると、目の前には……駅員が居た。寒そうに、ジャンパーを着込み、忙しなく俺を見つめていた。
「え?」
「もう終電は終わったよ」
「こ、ここは?」
「お客さん、ずっと寝ていたんだよ。起きなくてさ、困るよ。家近いの?」
ホームのベンチに俺は座っていた。スーツに、鞄を持ち……会社の帰り、だ。
駅名を覗いて、俺は首を横へ振った。ここで、乗り換えるはずだった。
この駅に、俺は降りた途端に、彼女が狂った……。
「だったら、ほら、近くにカプセルホテルあるからさ、そこへ向かいな。こんなところで寝ていたら、凍死すんぞ」
俺は、追い出されるかのように、駅を後にした。
夢、だったのか? 彼女と出会ったのは、俺の、妄想? あの匂いや表情、声、それが全て俺の脳内で作られた偽物なのか? あんな生々しい夢を見ていたのか?
そう考えながらケータイを覗くと……妻からメールと電話の嵐が来襲していた。即座にかける。
「ごめん、駅のホームで眠ってさ……あぁ、うん、近くにカプセルホテルあるから、うん、そこで今日は眠るよ。いや、本当に悪い! え? 浮気? 俺にそんな勇気は無い。はい、はいはい、本当にごめんなさい。俺だって、今日は帰ってチビの顔と……もちろん、君の顔も見たくてさ」
――俺の必死の説得に、妻はやっと了承してくれた。
途端に、先ほどの光景が脳裏に出現した。心臓がおかしく震え、全身から汗が噴き出て、吐き気もした。
だが、
夢だった、のかもしれない。とその映像に対し宣言すると、途端に、その映像にボカしが入ったかのように滲んだ。
悪夢、という奴だ。
ケータイをポケットに突っ込み、自動販売機で暖かい飲み物を購入し、それを口に運びながら、俺は強い確信を胸に刻んでいた。今日は疲れ、そしてホームで寝てしまった。その時、昔の記憶が蘇り、脳内で勝手にストーリーが作られてしまった。
やれやれ、とんだ災難だ。近頃、やっと彼女の記憶を忘れてきたはずなのに、思い出してしまった。
――だが、その災難は再び俺に襲いかかった。手に痛みを感じ、持っていたホット飲料を落し、零してしまったのだ。しかも、ネクタイに綺麗に降りかかった。次の休みに、本気で新しいスーツを購入しよう、と俺は胸に誓う。
ほとんど中身が零れた缶を拾った。
瞬間、全身の鳥肌が立つ……。
何故なら、俺の手首に、まるで獣が齧り付いたかのように、青々とした跡がついてあったからだ。
車内で、彼女に、手首を掴まれた。爪を逆立て、俺を目の前に押し止めるかのように。
現実。
どこからか、彼女の叫び声が聞こえてくる気がした。




