X^4 4 憎みながら愛し
その時、彼女から解放されるかのように、電車はスピードを落とした。駅に着く。彼女は、俺か視線を外すと、ぼんやりとした顔で外を眺めた。
……俺と、彼女との久しぶりの再会は終わる。そして、もう、二度と……出会うことは無いだろう。
「それじゃあ……」
立ち上がる。
がッ!
と、手首を掴まれた。
彼女に。
潤んだ瞳で、俺を睨みつけていた。その瞬間だけ、彼女の全てが過去に戻ったかのような錯覚を受ける。当時、高校生のクセに中学生に間違えられるような童顔で、人を狂わせる可愛さを秘めた、俺が、心の底から愛していた人間で……初めて彼女の手を握り、必死に前へと突き進んだ記憶が、ごぼごぼと不気味な音を醸しながら俺の中で暴れていた。
「ど、どうした?」
「い……ぁ……」
「おい……」俺は絞り出すように声を出した。これ以上、俺は彼女と空間を共にしたくなかった。以前の俺は、彼女を憎みながら愛していた。
だから、彼女に狂わされることは無かった。
そして、気づけなかった。
俺の、彼女への想いに……。
他人に盗られて、俺の元から彼女が忽然と消え去ったことで、俺は初めて彼女を心の底から愛していると知った。
好き、だった。
愛していた。
――愛、なんて言葉で言い表せないほど、彼女を俺は求めていた。
行かないでくれ、と願った。信じていた。戻ってくると。絶対に、俺の元へ……。
数年過ぎて、彼女の作る料理の味を思い出せなくなった辺りで、俺はやっと、彼女がもう二度と俺の前には現れないと、悟った。
もしも、もう一度世界をやり直せるのなら、次は、絶対に俺の元から離さないと……馬鹿なことを想った。
だけど、今は、もう……憎しみなんて感情は消えている。薄れ、もう憎んでいるのか愛しているのかすら、わからない。
と、思っていた。
だけど、今、彼女と出会い、彼女に腕を掴まれたことで……理解してしまう。
俺の元を去り、悔しくて辛くて体を切り刻まれるような痛みで苦しんだが、それをぶち壊すくらい、彼女を愛している。
理屈じゃなかった。
俺から去る彼女を俺は俺自身に対し無数の理由を考えて俺を納得させようとしていただけどそんなモノ無意味で俺はずっと彼女に告白を受けた時から……好きだったんだ。
――これ以上、彼女に見つめられていると……「やめてくれ」
俺の喉を絞り上げるようにして、やっとそう言えた。額を大粒の汗が流れ、動機もおかしい。
その声で、彼女は笑顔に戻る。と同時に、彼女の顔は、また化粧で彩られた女性の形へ戻る。指を離す。「あ、あはははは、ごめんね、急にスピードが落ちたから、バランス崩して、疲れていたから、眠りそうになって……」
「な、なんだ、驚いたよ……」
「本当に、疲れていて、辛いよー」
語尾を伸ばして、ふざけて彼女は言った。
笑う。
――笑顔、という表情を模ったようで、不気味だった。




