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三十五話 シンプルシステム

 

 ▲極立ぴかリ▲


 時間を少し遡ります。

 アマネに絶交を宣言し、一人項垂れていると、誰かが私の前に立ちはだかりました。それは、クレナさんです。チャラチャラした雰囲気を纏わせながらも、寸分の狂いなく綺麗に整っている姿には、毎回驚きます。

「果たせるかな、屋上に居た」

「あの、何ですか?」

「あんたに、これをあげようと思ったの」

 クレナさんが差し出す物体は……あのカラスミで披露した、スタンガンでした。クレナさんがスイッチを押すと、バチバチと真っ赤な閃光を放ちます。「ひゃあ!」「当てないから、驚くなって」

 私は後ずさりましたが、それよりも速くクレナさんは私の懐に入り込むと、私の左手を掴み、スタンガンを押し付けてきます。

「これは、あの……」

「私の話聞いてない? あげる、って言ってるの」

「それは、何故です?」

「ん、私はもういらないんだよね。重いだけだしさ」

「私も、必要無いかと思いますけど」

「あぁ? 冗談言わないで。必ず使うよ。まるで物語の展開が収まらずご都合主義で無理やり収めるように、役に立つ。そのために、私はわざわざここまで来たのよ」

 クレナさんはそこでケータイ(今では珍しい折り畳みケータイです)を取り出すと、画面をパチパチと弄ります。

「その、ありがとう、ございます。しかし、本当に貰ってもいいのですか?」

「……そんなに一方的に貰うの嫌なら、その人形と交換でいいよ」

 クレナさんは、私の鞄に括り付けられた、アマネと一緒に買った羊の人形を指さします。「これ、ですか?」「なかなか可愛いじゃん。交換しましょ」私は、人形を掴み、そっと糸に指を掛けました。……瞬間、アマネとの思い出が、走馬灯のように私の中を駆け巡りました。指が、動かなくなります。

「駄目だったら、いいよ」とクレナさんは私から離れます。「殺されないように、頑張ってね」

「あ、ありがとうございます」

 私が頭を下げ、顔を上げると、もうそこにはクレナさんの姿がありませんでした。


 そのようなことがあり、スタンガンで私はアマネを打ち取ることが出来ました。バチッという音の後、アマネは崩れ落ちるように私に凭れ掛かってきました。意識はありません。私はアマネを持ち上げて這い出て、やっと自由な身になることが出来ました。スタンガンは電池が切れたのか、もう動きません。

 しかし、扉は依然開きません。アマネが蘇った場合、再度襲われる可能性もあります。

 ……私はアマネのポケットを探り、ケータイを見つけると、電話帳を開きました。目当ての名前、大正儀セセラギを見つけます。アマネに先ほどフラれたのですから、まだ近くに居るはずです。そう思い、電話をかけようとして、私は、番号を自分のケータイに登録しました。……メルアドも登録します。早速私のケータイで電話を掛けます。

「もしもし? セセギです」というセセギ君の声です。あぁ、耳元から響くセセギ君の声に、胸が高鳴ります。「どなたですか?」

「セセギ君!」

「え、なんで、お前が電話を?」

「それは、その……」私が言いよどむと、セセギ君は先に口を開きました。

「あのさ、リン。この前は、ごめんね」

「え?」

「お前の弁当喰って、不味いって言って。本当は、凄い美味かった」

「え、え?」

「キト、笑うな!」

 ふっと、一瞬意識が吹き飛びました。私は、思考が定まらず、現状について語ります。

「あ、その、セセギ君……あの、今、私とアマネで屋上にいます」

「で?」

「そのアマネを……返り討ちにしてしまいまして……」

「ごめん、意味がわからない」

「ですから、そのアマネが気絶して、そして私達は閉じ込められて」

「はぁ!? お前、今……アマネが気絶してる? おい、何したんだよ!」

「違います、アマネが先に、私は、正当防衛で……」

「待ってろ! お前、アマネを傷つけたら、ただじゃおかねぇからな!」

 そこで電話が切れました。

 あれ、セセギ君、アマネにフラれましたよね? それでも、アマネを守るのですか? ただじゃおかない、とは一体どうなるのでしょうか……。痛いのはあまり好きではないです。精神的に貶められるのなら、大丈夫なのですけど。

 それに、え、美味しいって、言っていましたよね? セセギ君! 私の聞き間違い、ではありませんよね?

「ん……う~ん、痛い……痛いな」

 ギクっとして振り返ると、アマネがもう立ち上がろうとしていました。私を、真っ黒な瞳で見つめています。あ、あ、セセギ君、早く来てください。……あ! しかし、現在、セセギ君は明らかに勘違いした様子で、ここに……。

 ガシッ! と首を掴まれました。声が……息が、出来ま、せん。

「もう逃がさないから」

「ア、アマネ……」

「大丈夫、私、リンのこと、愛しているから」

 ニコリと微笑み「ぶっ殺したいくらいにねぇ……」とアマネは呟きました。

 天使のような笑みを浮かべ、極悪非道な行為を仕掛けるアマネに、私は、立ち向かう術は、もう残っていません。


 や、やッーん!


 【終】

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