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二十四話 湯たんぽ

 ▲極立ぴかリ▲


「セセギ君、ごめんなさい、逸れてしまって……」

 セセギ君は、先ほどまでと変わり、私が再び逸れないようにと、早歩き程度で進んでくれます。

「ホント迷惑。余計な心配ごと増やさないでよ」

「ごめんなさい……」

「お前が行方不明にでもなったら、責任を追及されるのは俺なんだからさ……。あそこにクレナが居て助かったよ」

 苦虫を噛み潰したかのように、セセギ君は顔をしかめて言いました。それは、私に対しての怒りクレナへの怒りに見えました。私も、窮地から救って頂き、感謝の念で一杯のはずなのに、それを押し退けて恐怖が、淀んでいます。クレナさんは、まるで別世界の生物のように(非道い比喩です)、何か箍が外れていました。進もうと思えば、遥か先まで走り抜けるリミッターとブレーキが無い車のように。


 一直線の道を抜けると、今度は開けた商店街に出ました。華やかな雰囲気を醸してはいますが、依然チグハグな印象を受けます。お店のほとんどが水商売や半壊しかけた風貌だからかもしれませんが、とにかくおかしいです。更に、道行く人々が、私を睨むのです。普段とは違い、生々しい生理的嫌悪感を滲ませながら、です。恐くて、あ、足が……震えてしまいます……。

「おい、リンッ!」

 はっ、として見上げるとセセギ君が私を覗き込んでいました。また、私は歩みを止めていたのです。

「あ、ご、ごめんなさい……」

「すぐに泣くなめんどくさい。ってか、今日はお前のその……狂わせる力、役に立たないんだな。いつもなら周りで魑魅魍魎な世界が広がっているはずなのにさ」

「皆さん、普段と違い、私に強く注目します……。こんなこと、初めてです」

 セセギは、私を上から下まで頭の頂点からつま先まで、撫でるように見ます。恥ずかしくて、顔が赤くなるのがわかり、視線をどこへ向ければいいのかわかりません!

「もしかして、変装したからかな。この前、俺の友達(変態(キト))がお前の能力について、その姿が偶然人を狂わすようになっている、と解釈していた。それが崩れたから、周りの奴らも本能的にまた別の部分が刺激されて近づいてくるのかもしれない」

「そ、それはわかりませんけど、確かに、私は髪形を大きく弄ることはありませんでした。しかし、それだけで?」

「……まぁ、いいか。そろそろ歩ける? この道を抜ければ、外に出られるから」

「あの、脱出して、大丈夫なのですか?」

「アマネが外に出るのを、今見たから」

 すっと、セセギ君の瞳から光が消えます。覚悟を下し、決心を示したことで、その姿には、先ほどまでの焦りは微塵も感じさせず、静寂を纏っています。全てのエネルギーをある一点へ、注いでいるのです。

 アマネのために。

 アマネが、どのような姿で現れても、絶対に負けないように、と声が聞こえてくる気がします。

「あ……あの、まだ、足が……動かな、い、です」

 嘘です。足は、動きます。しっかりと歩けます。走ることだって、出来ます。

「そろそろヤバい。人が集まって、お前を見ている……。ほら、引っ張るから」

 ぎゅっと、手を握られます。セセギ君の手は、湯たんぽのように暖かく、その熱と共に、ゆったりとした心拍が響いてきます。合わせて、私の心臓も、音を消すかのように、小さく鳴ります。

 もう涙は止まりました。何故なら、私の中でしぶとく燻っていた炎が、全て消え去ったからです。しかし、私は嘘をつきます。せめて、この道だけでも……セセギ君と、手を繋いで歩きたかったからです。本当は、恋人が行き交うようなお洒落な道を、セセギ君と笑顔で並んで歩きたいです。別に大統領になりたいや宇宙飛行士になりたいなど夢を目指しているわけでもないのに、私に、その未来は不可能なのでしょう。ですので、ここだけ……。


 ――セセギ君、大好きです。


 また転校したいな、と思います。何故なら、今後、セセギ君とアマネが仲睦ましい姿を見るたびに、二人を殺したくなるほどの嫉妬に悩まされるはずですから……。転校を願うのは、生まれて初めてでした。



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