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冥府令嬢の天秤2 〜傲慢な悪魔は丸裸(フォーマット)ですわ!元・奪衣婆令嬢、二人の最凶イケメンに溺愛されて現世を無双する〜  作者: たくみふじ
第四章 見えざる手と匿名の狂気

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電脳の海の強制シャットダウン㈡

傲慢な悪魔の嘘、天秤で丸裸(フォーマット)にしますわ!元・奪衣婆令嬢の華麗なる無双劇

 ドドォォォォォンッ!!


 大気を震わせる轟音と共に、サマエルの放った無数のケーブルと高出力の精神干渉レーザーが、マウトの展開した霊力の壁に激突した。

 サーバー区画の床がめくれ上がり、巨大なラックが次々とひしゃげて吹き飛ばされていく。現世とサイバー空間の境界が融け合ったこの異質な領域では、物理的な破壊と霊的な破壊が同時に進行していた。


「――シールド出力、最大を維持。しかし、ビル自体の構造強度が限界に達しつつあります。このままでは、あと百八十秒で最上階のフロア全体が崩落します」


 激しい閃光(せんこう)と衝撃の嵐の中で、マウトは表情一つ変えることなく、正確なカウントダウンを告げた。彼の漆黒のタキシードは、強烈な瘴気の摩擦によって微かに焦げ付いているが、その鉄壁の防御姿勢には一ミリの揺らぎもない。


『ハハハハハッ! 無駄だ、無駄だ! 我が魂はすでにこのメインフレームを離れ、ネットワークの海へと拡散し始めている! 物理的なサーバーをいくら攻撃しようとも、データとなった我を殺すことなど不可能だ!』


 無数のモニターから響くサマエルの合成音声が、勝利を確信したように大音量で鳴り響く。


「……随分と、おめでたい脳味噌ですこと。悪魔の分際で、現世のテクノロジーを過信しすぎですわ」


 新子はマウトの背後に守られながら、紫色の光を放つ天冥石の杖を静かに下段に構えた。彼女の瞳には、荒れ狂うレーザーやケーブルなど全く映っていない。ただ一点、メインフレームの最深部に隠された『たった一つの真実』だけを見透かしていた。


「データになった? ネットワークに拡散した? ……笑わせないでくださいませ。魂というものは、決して分割などできない。あなたがネットワークにばら撒いているのは、ただの『呪いの残りコピー』に過ぎませんわ」


『なに……?』


「あなたの本質コアは、今もその鉄の箱の中で、怯えながら震えていますわよ。……顔も名前も明かさず、安全な匿名の壁の向こう側からでしか他者を攻撃できない、どうしようもない『臆病者』。それが、あなたの本当の姿でしょう?」


 新子の冷たく、そして絶対的な響きを持つ声が、轟音を切り裂いてサマエルのシステムに直接突き刺さった。


「自分が傷つくことを恐れ、若者たちの弱みにつけ込んで手駒として使い捨てる。現世の愚かさを嘲笑(あざわら)いながら、誰よりも現世のシステムに依存している。……あなたの着ているそのサイバー空間という名の鎧は、傲慢どころか、ただの『怯懦(きょうだ)』臆病の裏返しですわ!」


『キサマァァァァッ!! 我が崇高なる計画を、単なる臆病などと……!!』


 図星を突かれたサマエルのモニター群が、激しいノイズと共に真っ赤に染まった。

 怒りと屈辱(くつじょく)。ホストである悪魔自身の感情が激しく揺さぶられたことで、完璧だったはずのサイバー空間との同化プロセスに、致命的なバグ(亀裂)が生じ始めたのだ。


「今ですわ、マウト! 道を切り開きなさい!」


「――了解。メインフレームへの物理的アクセスルートを強制開通します」


 マウトが霊力の壁を解除した瞬間、彼は砲弾のような速度で前方へと跳躍した。

 迫り来るケーブルの群れを、マウトはタキシードの袖に仕込まれた特殊素材の手刀で次々と両断していく。一切の無駄を省いた死神の連撃が、サマエルの物理的な防衛ラインを瞬く間に粉砕し、巨大なメインフレームの正面にぽっかりと一直線の空間を作り出した。


「0と1で作られたデジタルデータなど、わたくしにとってはただの『衣服』と同じですわ。……その分厚い匿名の衣、一枚残らず剥ぎ取って差し上げます!」


 新子がヒールの音を響かせ、開かれた道を一直線に駆け抜けた。

 彼女が天冥石の杖を高く掲げると、先端から放たれた紫色の光が、巨大な刃となってメインフレームへと振り下ろされた。


『バカな……! サイバー空間の防壁が、物理的な攻撃で……!』


「物理ではありませんわ。これは、魂の罪を量る絶対の裁き。……剥き出しになりなさいな!!」


 ズバァァァァァァンッ!!!


 紫色の閃光が、巨大なサーバーの強固な装甲と、その内部に構築されていた悪魔の論理防壁ファイアウォールを、文字通り『紙を切り裂くように』一刀両断した。

 メリメリという、世界そのものが剥がれ落ちるようなおぞましい音。

 モニターの画面が次々と爆け飛び、無数の電子コードが衣服の糸のように解れ、剥ぎ取られていく。


『アギャァァァァァァァッ!!』


 サイバー空間という無敵の(よろい)を強制的に剥がされたサマエルの本体――ドロドロとした黒いヘドロのような醜いコアが、スパークを散らすメインフレームの奥から、ついに現世の空気に引きずり出された。


「ゲームオーバーですわ、引きこもりの王様」


 新子が杖の先端をその核へと突きつける。

 紫色の浄化の炎が、凄まじい勢いでサマエルの核を包み込んだ。


『おのれ……おのれぇぇぇっ! 現世の闇は……人間の欲望がある限り、我らは何度でも……!』


「ええ、知っていますわ。だから、その度にわたくしが、こうして丸裸フォーマットにして差し上げるのです」


 新子が杖の石突きで床を強く叩くと、紫色の炎が爆発的に膨れ上がり、サマエルの核を完全に焼き尽くした。

 パチン、というガラスが割れるような澄んだ音が響き、悪魔の王は無数の光の粒子となって、電脳の海から完全に消滅した。

 浄化完了。

 その瞬間、サーバー区画を満たしていた息苦しい瘴気と、毒々しい赤紫色の光が嘘のように消え去った。火災報知器のけたたましいベルの音と、スプリンクラーから降り注ぐ水しぶきだけが、そこが現世の物理空間であることを告げている。


『エバさん! エバさん、応答してください!』


 インカムから、セトの弾んだ声が飛び込んできた。


『やりました! 異常なネットワークのトラフィックが、完全に正常値へと戻りました! サマエルの同化プロセスは完全に停止し、ばら撒かれかけていた呪いのコードもすべて自壊しました! 我々の完全勝利です!』


『ははっ、さすがはあたしたちのお姫様だ! 最高のシャットダウンだったよ!』


 サラの歓喜の笑い声も聞こえ、新子はふう、と長く息を吐き出して杖を消滅させた。


「……当然ですわ。レディの辞書に、敗北という文字はありませんもの」


 強がりを言ったものの、超高位の悪魔の王を相手に絶大な霊力を行使した反動は大きく、新子の足からガクンと力が抜けた。

 しかし、冷たい床に倒れ込むよりも早く、漆黒の腕が彼女の華奢な身体をしっかりと抱き止めた。


「お嬢様。バイタルサインの低下と、極度のエネルギー枯渇を確認しました。直ちに安全圏へ退避し、十分な休息と糖分の補給を推奨します」


 スプリンクラーの水を浴びて濡れそぼりながらも、マウトは相変わらず感情の一切こもらない氷のような瞳で新子を見下ろしていた。


「……ありがとう、マウト。あなた、少しはエスコートの仕方が上手くなりましたわね。でも、タキシードが台無しですわよ」


「衣服の損傷は任務の想定内です。それよりも、お嬢様のドレスが汚れることの方が、菱倉家の損害となります」


 マウトはそう言うと、新子を軽々と横抱き(お姫様抱っこ)に抱え上げた。


「ちょっと! 降ろしなさいな、自分で歩けますわ!」


「――お嬢様の身体機能の回復まで、歩行は非効率的と判断します。このまま脱出ルートへ移行します」


 マウトは新子の抗議を完全に無視し、破壊されたサーバー区画から、音もなく滑るような足取りでVIP専用エレベーターへと向かった。

 彼の無機質で強引な腕の中で、新子は諦めたように小さくため息をつき、その広い胸にそっと頭を預けた。


「……まったく。本当に可愛げのない、最高の盾ですこと」


 数日後。

 連続強盗事件の実行犯たちは「急に呪縛(じゅばく)が解けた」と供述を始め、トクリュウの首魁(しゅかい)との通信記録もすべて白紙に戻っていた。警察は全容解明に苦慮していたが、サイバー空間を通じた『匿名の狂気』は、確かにこの現世から姿を消した。

 朱鳥女子大学の中庭。

 冬の柔らかな日差しの中、新子は夕子や沙耶香、そしていつの間にか乱入してきた真喜と共に、(にぎ)やかなランチタイムを楽しんでいた。


「新子! 今日も俺の愛妻弁当を作ってきたぞ! ハンバーグの形、全部ハートにしておいたからな!」


「真喜さん、それは愛妻弁当とは呼びませんわ。それに、そのドギツイ赤色のケチャップは食欲を減退させますのよ」


 騒ぎ立てる真喜の背後には、今日も変わらず漆黒のスーツ姿のマウトが直立し、無言の圧力を放っている。


「……対象者『太田真喜』の持ち込んだ物体に、過剰な塩分とコレステロールを検知。お嬢様の健康を害する恐れがあるため、廃棄を推奨します」


「廃棄すんな! お前、また俺と新子の愛の邪魔をする気か!」


 キャンパスに響き渡る、いつもと変わらない騒がしくも愛おしい喧騒。

 人間の心に強欲や怠惰(たいだ)がある限り、悪魔は形を変えて何度でも現世に忍び寄るだろう。

 しかし、新子に迷いはなかった。


(どんな見えざる悪意が()い寄ろうとも、わたくしがすべて、天秤にかけて裁いてみせますわ)


 元・奪衣婆であるエバの、平和な日常を守り抜くための華麗なる悪魔狩りは、これからも密かに、そして優雅に続いていくのだ。

 彼女の背後に立つ、寡黙で絶対的な漆黒の盾と共に。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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