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冥府令嬢の天秤2 〜傲慢な悪魔は丸裸(フォーマット)ですわ!元・奪衣婆令嬢、二人の最凶イケメンに溺愛されて現世を無双する〜  作者: たくみふじ
第四章 見えざる手と匿名の狂気

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トクリュウの影㈡

傲慢な悪魔の嘘、天秤で丸裸(フォーマット)にしますわ!元・奪衣婆令嬢の華麗なる無双劇

 朱鳥女子大学の旧館最上階。

 犯罪心理学研究室の重厚な扉を開けると、そこには淹れたてのブラックコーヒーのほろ苦い香りと共に、ホワイトボードの前に立つ油江颯の姿があった。

 ボードには、横浜市内の地図と、数枚の現場写真、そして見知らぬ若者たちの顔写真が複雑な相関図のように()り出されている。


「お待ちしていましたわよ、教授。随分と物騒なパズルを広げていらっしゃるのね」


 新子がソファに優雅に腰を下ろすと、背後のマウトは油江を『潜在的な危険要素』として視線でロックオンし、静かに直立した。


「いらっしゃい、エバ。……今日の君は、一段と研ぎ澄まされた美しい目をしているね。まるで、見えない敵の匂いを嗅ぎつけた猟犬のようだ」


 油江は眼鏡の位置を中指で押し上げ、知的な瞳を(あや)しく光らせた。


「レディを猟犬呼ばわりするなんて、相変わらずデリカシーというものが欠如(けつじょ)していますわね。……それで? 連続強盗事件の実行犯たちが、スマートフォンから『逆らえない声』を聞いたというのは本当ですの?」


「ああ。県警の知人から特別に回してもらった調書の内容だ」


 油江はタブレット端末を操作し、実行犯たちの顔写真をモニターに拡大表示した。どこにでもいるような、ごく普通の大学生やフリーターの若者たちだ。


「昨夜、横浜市内の高級住宅街で立て続けに発生した三件の強盗事件。犯人たちは防犯カメラの存在など一切気にせず、窓ガラスを叩き割り、住人を力任せに縛り上げて金庫を奪っていった。……まるで、恐怖心や躊躇(ためら)いといった『人間としてのブレーキ』が完全に外れているかのようにね」


「素人の若者が、そこまで凶悪な犯行を? いくらお金に困っていたとしても、異常ですわね」


 新子が眉をひそめると、油江は深く頷いた。


「そこなんだよ、エバ。彼らは逮捕された後も、罪悪感や恐怖を一切見せていない。ただ虚ろな目で『スマホの画面から、絶対に逆らえない声が聞こえた』『頭の中に直接、やれという命令が響いた』と繰り返している。……これは、君が以前に関わったメンタルクリニックの事件や、新興宗教の信者たちと全く同じ、異常な『精神の空洞化』状態だ」


 油江の指摘に、新子は心の中でギリッと奥歯を噛み締めた。

 やはり、間違いない。

 教団や学生会を失った悪魔の王サマエルは、今度はサイバー空間の匿名性を隠れ蓑にし、SNSを通じて若者たちに直接『呪い』をばら撒いているのだ。スマートフォンの画面を見るだけで、人間の心に潜む小さな強欲や怠惰を強制的にブーストさせ、理性を焼き切って凶悪犯罪の駒として使い捨てる。


(なんという悪辣(あくらつ)で、そして合理的な手法……! 直接姿を見せない分、以前の事件よりも遥かにタチが悪いですわ!)


「教授。その指示を出している黒幕……トクリュウの首魁(しゅかい)は、全く足取りを掴ませていないのですね?」


「ああ。指示はすべて海外のサーバーを経由した匿名通信アプリで行われ、実行犯同士も全く面識がない。任務が終わればアカウントは即座に消去される。……見事なまでの『見えざる手』だよ。警察のサイバー犯罪対策課も、完全に後手に回っている」


 油江はソファの背もたれに寄りかかり、新子をじっと見つめた。


「だが、私にはわかる。ただの心理的誘導や洗脳で、普通の若者をここまで即席の『怪物』に変えることは不可能だ。この事件の背後には、人間の精神構造を根本から書き換えるような、未知の……そう、オカルトめいた『力』が働いている。……君なら、その正体に心当たりがあるんじゃないのかな、エバ?」


 油江の瞳には、犯罪心理学者としての狂気的なまでの探求心が渦巻いていた。彼に真実を語るわけにはいかない。


「……オカルトめいた力だなんて、教授らしくない非科学的な推論ですこと」


 新子は完璧な令嬢の仮面を被り、フンと鼻を鳴らした。


「彼らはただ、匿名の集団心理と、スマートフォンの画面という狭い世界に依存しすぎたことで、現実とゲームの区別がつかなくなっているだけですわ。……人間の心は、環境次第でいとも簡単に怪物に成り下がる。教授がいつも教えてくださる心理学の基本でしょう?」


 新子の流れるような嘘に、油江は数秒間沈黙し、やがて喉の奥で低く笑った。


「くくっ……。君のその完璧な論理の防壁(ぼうへき)、いつ見ても惚れ惚れするよ。だが、君のその目は『私がすべてを裁いてやる』と語っている。……エバ。現世の法で裁けない相手に、君がどう立ち向かうのか、特等席で見せてもらうとしよう」


「ご自由にどうぞ。……では、わたくしはこれで失礼いたしますわ。レディには、野蛮な強盗よりも優先すべき『私用』がありますので」


 新子は立ち上がり、マウトを引き連れて研究室を後にした。

 旧館を出て、人目のない中庭の裏手へと回ると、新子はすぐにスマートフォンを取り出し、セトへの暗号化通信を繋いだ。


『はい、セトです。エバさん、油江教授との面会は終わりましたか?』


「ええ。やはり連続強盗事件の背後には、悪魔の王サマエルの気配が濃厚ですわ。……それよりセト、先ほど送った夕子の後輩のアカウント情報、解析は進んでいまして?」


『……ちょうど今、結果が出たところです』


 セトの声が、いつになく緊張感を帯びていた。


『エバさんの霊視の通り、彼女のスマートフォンに送られてきたメッセージには、極めて高密度の精神干渉エネルギー……悪魔の呪いがエンコードされていました。そして、彼女のスマートフォンのGPSシグナルを追跡した結果、現在、横浜港近くの工業地帯にある、廃倉庫群の一つで信号が途絶えています』


「廃倉庫……。間違いなく、闇バイトの『受け子』や実行犯たちを集めるアジトですわね」


 新子の瞳に、冷徹な執行官としての青い炎が燃え上がった。


『エバさん。その廃倉庫周辺の防犯カメラの映像をハッキングしましたが、複数の不審なワンボックスカーが出入りしています。おそらく、今夜も新たな犯行グループがそこから送り出されるはずです』


「相手はただのチンピラではありませんわ。悪魔の呪いで恐怖を完全に奪われた、狂暴な操り人形の群れ……」


 新子は背後を振り返り、彫像のように控える漆黒の死神を見上げた。


「マウト。今夜は少し、激しい運動になりそうですわよ」


「――対象の脅威度を再計算。お嬢様の命令とあれば、いかなる狂気も物理的に粉砕します」


 マウトの氷のような声に、新子は満足げに微笑んだ。


「セト、サラにも伝えてちょうだい。これより、元・奪衣婆エバと専属ボディガードは、トクリュウのアジトへと単独潜入を開始します。……匿名の陰に隠れて若者を使い捨てる臆病な王様の尻尾、わたくしが力ずくで引きずり出して差し上げますわ!」


 平和な現世の裏側で、電脳の海を通じて蔓延(まんえん)する新たな悪意。

 姿なきトクリュウのネットワークを破壊し、友人の後輩を救い出すための、華麗で危険な夜のミッションが、今幕を開けようとしていた。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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