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冥府令嬢の天秤2 〜傲慢な悪魔は丸裸(フォーマット)ですわ!元・奪衣婆令嬢、二人の最凶イケメンに溺愛されて現世を無双する〜  作者: たくみふじ
第三章 朱き鳥の檻と女王の傲慢

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裁かれる傲慢の衣㈡

傲慢な悪魔の嘘、天秤で丸裸(フォーマット)にしますわ!元・奪衣婆令嬢の華麗なる無双劇

 豪華客船のメインホールは、一瞬にして阿鼻叫喚(あびきょうかん)坩堝(るつぼ)と化した。

 政財界のVIPたちは、突如として乱入してきた漆黒の死神が放つ圧倒的な暴力の前に、顔を青ざめさせて蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っている。


「ひぃぃっ! なんだこの化け物は!」


「撃て! 撃ち殺せ!」


 会場の警備を任されていた傭兵や黒服の男たちが、マウトに向けて一斉に拳銃の銃口を向け、引き金を引いた。

 乾いた銃声が連続して響き渡り、火線がマウトへと集中する。

 しかし。


「――弾道の予測完了。物理的脅威度、ゼロ」


 マウトは表情一つ変えることなく、飛来する銃弾の雨を、まるで散歩でもするかのような滑らかな足捌(あしさば)きで完全に回避してみせた。彼の身体は漆黒の残像だけを残し、一瞬にして銃を構えていた傭兵たちの懐へと潜り込んでいく。


「なっ……!?」


 傭兵が驚愕の声を上げる間もなく、マウトの手刀が的確に彼らの首筋や手首の神経を打ち据えた。

 打撃音と共に、屈強な男たちが次々と糸の切れた操り人形のように床へと崩れ落ちていく。骨を折ることすらなく、ただ意識だけを強制的に刈り取る絶対的な制圧術。悪魔の力で狂暴化している風紀委員たちでさえ、マウトの無機質な戦闘アルゴリズムの前には赤子同然だった。


「マウト! 手加減は必要ありませんけれど、決して命は奪ってはなりませんわよ! 後の処理が面倒になりますからね!」


 新子がステージの上から優雅に指示を飛ばすと、マウトは複数の警備員を同時に投げ飛ばしながら淡々と応じた。


「了承いたしました。全対象の生命維持機能を保護しつつ、無力化プロセスを継続します」


 圧倒的な蹂躙(じゅうりん)劇を前に、ステージ上で新子と対峙していた忌部義人の顔は、恐怖と屈辱でどす黒く染まっていた。


「おのれ……! たかが小娘一匹に、わたくしが築き上げた朱鳥会の夜が……! ええい、何をしている! 奴らを殺しなさい!」


 義人が絶叫すると、ホールの奥から、豪奢なイブニングドレスを身に纏った初老の女性が姿を現した。朱鳥女子大学理事長、忌部泉月(いんべ いつき)である。

 彼女の全身からは、義人以上のドロドロとした欲望の瘴気(しょうき)が立ち上っている。そして、義人と泉月の背後にへばりついていた超高位の悪魔が、二人の怒りと恐怖を餌にして、ついに実体を持った怪物としてその姿を現した。


『オオオオオオオッ!!』


 悪魔の咆哮が、船の分厚い鋼鉄の壁を内側からビリビリと震わせた。

 天井を突き破らんばかりに巨大化したその悪魔は、漆黒の翼を広げ、山羊(やぎ)のようなねじれた角を持っていた。堕天使サマエルの魔力を色濃く受け継ぐ、超高位の眷属(けんぞく)である。

 悪魔は無数の鋭い爪を持った腕を振り上げ、新子を真っ二つに引き裂こうと襲いかかってきた。


「危ない、お嬢様!」


 マウトが新子の前に跳躍しようとしたが、新子はそれを手で制し、不敵な笑みを浮かべて一歩前に出た。


「この程度の小手調べ、レディの(たしな)みで十分防いでみせますわ」


 新子の右手に、紫色の光の粒子が収束し、天冥石が埋め込まれた鈍色の杖が実体化した。

 彼女が杖の石突きでステージの床を強く叩くと、瞬時に紫色の強固な結界がドーム状に展開される。


 ガガガガガンッ!!


 悪魔の巨大な爪が結界に激突し、火花が激しく散り、凄まじい衝撃波がホールを吹き荒れた。

 しかし、新子の展開した結界は、ヒビ一つ入ることなく悪魔の一撃を完全に弾き返した。


「な、なんだと……!? 悪魔の力が、防がれた……!?」


 義人と泉月が驚愕に目を見開いた。


「見苦しいですわね。あなたたちが(すが)っているその悪魔の力など、わたくしの天秤の前では児戯に等しいのですわ」


 新子は結界を解除し、杖の先端を義人と泉月の二人へと向けた。

 彼らを悪魔から引き剥がすためには、その醜い欲望を的確に暴露し、魂の契約を破壊しなければならない。


「忌部義人、忌部泉月。あなたたちは長年、自らの権力を維持するために、未来ある学生たちを道具として使い捨ててきましたわね。……美しく教養のある少女たちを権力者の愛人として斡旋し、その見返りに得た裏金と情報で、日本を裏から支配している気になっていた」


 新子の冷たく、そして絶対的な響きを持つ声が、騒然としていたホールに響き渡る。

 逃げ遅れていたVIPたちも、新子の糾弾(きゅうだん)の言葉に顔を青ざめさせ、息を呑んで立ち尽くしていた。


「黙りなさい! わたくしたち忌部一族は、この国のエリートを育む崇高な義務を負っているのです! 愚かな民草を指導するためには、多少の犠牲など当然の対価ですわ!」


 泉月が顔を歪めて金切り声を上げた。


「崇高、ですって? 笑わせないでくださいませ。あなたたちの本質は、ただ自分たちが一番高いところに立っていなければ気が済まない『自己顕示欲』と『傲慢』。そして、他人の若さや美しさ、幸福を自分の手で握り潰さなければ満たされない、醜悪な『嫉妬』ですわ!」


 新子が一歩踏み出すごとに、杖から放たれる紫色の光が強さを増し、悪魔の瘴気をチリチリと焼き払っていく。


「それだけではありませんわ。あなたたちはすでに十分な金と権力を得ているにもかかわらず、まだ足りないとばかりに他者の人生を搾取し続けた。……底なしの『貪欲』。そして、自分たちの地位を少しでも脅かす者たちへの『権力欲』。その五つの罪こそが、あなたたちが悪魔に着せられている衣の正体ですわ!」


『ギャァァァァァァッ!!』


 新子に欲望の本質をすべて言い当てられた瞬間、義人と泉月の背後の悪魔が、身を焼かれるような苦悶(くもん)の絶叫を上げた。

 二人の魂と悪魔を繋いでいた不可視の鎖に、致命的な亀裂が入り始める。


「さあ、ご自身の醜い姿を、その目でしっかりと確認なさいな。……イイジャーマジャアニウム!」


 新子がアラビア語の呪文を唱えると、彼女の頭上に巨大な鏡が実体化した。

 閻魔大王の裁きにおいて、亡者の生前の罪をすべて映し出す恐るべき神具――『浄玻璃鏡じょうはりのかがみ』である。


 鏡の表面がまばゆい光を放ち、そこに義人と泉月の魂の真の姿が映し出された。

 そこにいたのは、豪華な衣服を着た気品ある教育者などではなかった。権力にしがみつき、金貨の山に埋もれながら、学生たちの流す血の涙を(すす)って醜く肥え太った、薄汚い豚のような姿だった。


「ひぃぃっ……! な、なんだこれは! これはわたくしではない!」


「嫌ぁぁっ! 見ないで、そんな醜い姿、わたくしではないわ!」


 二人は鏡に映る自分たちの真の姿に耐えきれず、顔を覆って絶叫した。

 自らの虚栄心を粉々に砕かれたことで、悪魔の拠り所は完全に消失した。


『オノレ……オノレェェェッ! 我らが王、サマエル様が、必ずや貴様を地獄の業火で……!』


 悪魔が最後の力を振り絞り、呪詛(じゅそ)の言葉を吐きながら新子に突進しようとする。


「地獄の底で、わたくしの元夫にでもよろしくお伝えなさいな」


 新子が杖を横に一閃(いっせん)した。

 凄まじい紫色の刃が、悪魔の巨体を真っ二つに切り裂いた。

 魂を剥がされた悪魔のコアが空中に露出した瞬間、新子は浄玻璃鏡から放たれた強烈な浄化の光をそこに集中させた。


 パシィィィィンッ!!


 ガラスが砕け散るような澄んだ音と共に、超高位悪魔の核は完全に粉砕され、光の粒子となって船内の空気の中へと霧散していった。

 悪魔の浄化完了。

 その瞬間、船内を満たしていた息苦しい悪臭や瘴気は嘘のように消え去り、ただの静寂が降りてきた。

 悪魔という絶対の力を失った忌部義人と泉月は、もはやただの惨めな老人に戻っていた。彼らは床にへたり込み、焦点の合わない目で虚空を見つめながら、力なく震えている。


「……終わりましたわね」


 新子は神具と杖を消滅させ、ふうと小さく息を吐いた。

 激しい霊力の行使で額には汗が浮かんでいたが、彼女は真紅のドレスの裾を優雅に直し、令嬢としての完璧な(たたず)まいを崩さなかった。


「お嬢様。船内の全敵対勢力の無力化を完了しました。洗脳されていた学生たちのバイタルサインも安定しています」


 マウトが音もなく新子の傍らに戻り、無機質な声で報告した。

 彼の周囲には、気絶した警備員やVIPたちが足の踏み場もないほどに転がっているが、その漆黒のスーツには埃一つ付いていなかった。


「ご苦労様でした、マウト。見事な掃除ぶりですわ。……セト、サラ、聞こえますかしら?」


 新子がインカムに呼びかけると、すぐにセトの声が返ってきた。


『ええ、聞こえています。エバさん、素晴らしい手際です。こちらのハッキングで、船の操舵システムと通信設備は完全に掌握しました。現在、この船は警察の海上警備艇が待機するポイントに向けて自動航行中です』


『VIPどもの脱出用ボートも全部破壊しといたよ。あの連中、一晩中船酔いと恐怖に震えながら、警察のお縄を待つことになるね』


 サラの楽しげな笑い声が聞こえ、新子もふっと口角を上げた。

 これで、朱鳥会という巨大な権力機構は完全に崩壊する。洗脳されていた生徒たちは保護され、忌部義人たちが行ってきた数々の悪事は、逃げ場のない洋上で警察に引き渡されるのだ。


「これで、わたくしの愛するキャンパスにも、本当の平穏が戻りますわね」


 新子は、気を失ったままソファに並んで眠っている女子大生たちを優しく見つめた。

 しかし。

 事件が解決したというのに、新子の魂の奥底には、まだ微かな悪寒が残っていた。


(サマエル……。悪魔の王。朱鳥会に巣くっていた眷属は浄化しましたけれど、王そのものの本体は、まだこの現世のどこかに潜んでいる……)


 今回の事件は、あくまでサマエルが張り巡らした巨大な欲望のネットワークの一部を破壊したに過ぎない。

 スマートフォンやサイバー空間といった、現代の匿名性と欲望が渦巻く電脳の海。そこには、トクリュウや闇バイトといった、より形のない、そしてより底なしの悪意が広がっている。

 もし、悪魔の王がそれらのシステムと同化し、現世全体をターゲットに動き出したとしたら。


「……お嬢様。微細な体温の低下を検知しました。海上の夜風は冷えます。速やかな保温と、温かい紅茶の摂取を推奨します」


 マウトが、自らのスーツの上着を脱ぎ、新子の華奢な肩にそっと掛けた。

 彼のその無機質で不器用な気遣いに、新子は少しだけ毒気を抜かれたように微笑んだ。


「ありがとう、マウト。……そうね、早く帰りましょう。油江教授の淹れる紅茶も悪くありませんけれど、今夜はわたくしのペントハウスで、最高級のハーブティーをいただきたい気分ですわ」


 反逆の令嬢と漆黒の死神は、眠れる生徒たちを守るように静かに寄り添い、船が港へと到着するのを待った。

 豪華客船での華麗なる裁きは終わりを告げた。

 だが、見えざる手によるサイバー空間の狂気と、舞い降りる堕天使との真の死闘は、すでに次の幕を開けようとしていたのである。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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