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冥府令嬢の天秤2 〜傲慢な悪魔は丸裸(フォーマット)ですわ!元・奪衣婆令嬢、二人の最凶イケメンに溺愛されて現世を無双する〜  作者: たくみふじ
第三章 朱き鳥の檻と女王の傲慢

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裁かれる傲慢の衣㈠

傲慢な悪魔の嘘、天秤で丸裸(フォーマット)にしますわ!元・奪衣婆令嬢の華麗なる無双劇

 横浜港の沖合を、月明かりを反射しながら静かに進む巨大なシルエットがあった。

 超豪華クルーズ客船『クイーン・オブ・朱鳥』。

 表向きは富裕層向けのナイトクルーズを楽しむための豪奢(ごうしゃ)な船だが、今夜この船を貸し切っているのは、朱鳥女子大学の裏を牛耳る後援組織『朱鳥会』と、彼らに群がる政財界の権力者たちである。

 船の最下層にある、窓のない豪奢な控室。

 そこには、最高級のシルクやベルベットで仕立てられたドレスを着せられた、十数人の若く美しい女子大生たちが、虚ろな瞳でソファに並んで座らされていた。彼女たちは皆、悪魔の瘴気が練り込まれた香を()がされ、自らの意志を完全に奪われた『商品』として出荷の時を待っている。

 その集団の最後尾で、ひときわ異彩を放つ圧倒的な美貌の令嬢が、一人だけ退屈そうに優雅な欠伸(あくび)を噛み殺していた。

 菱倉新子である。

 彼女は、血のように深い真紅のイブニングドレスを身に纏っていた。背中が大きく開き、美しい鎖骨と滑らかな肌を惜しげもなく(さら)すそのデザインは、彼女の令嬢としての気高さと、元・奪衣婆としての妖艶な魅力を完璧に引き出している。


(まったく……。潜入のためにわざと学生会の残党に捕まってあげたというのに、こんな狭くて空気の悪い部屋に押し込めるなんて、レディの扱い方をまるでわかっていませんわね)


 新子は周囲の生徒たちに合わせて虚ろな表情を装いながらも、心の中では不満を爆発させていた。

 ふと、耳の奥に仕込んだ極小の通信用インカムから、ノイズ混じりの無機質な声が届く。


『お嬢様。現在の心拍数に異常はありませんか。間もなく、メインホールでのオークションが開始されると推測されます』


「ええ、問題ありませんわ。そちらの潜入は上手くいっていますの?」


 新子が唇を微かに動かして応答すると、扉の外で警備に立っている男――漆黒のスーツの上に警備員用の防弾ベストを羽織ったマウトから、即座に返答があった。


『警備チームの末端一名を物理的に無力化し、制服とIDを剥奪(はくだつ)して入れ替わりました。周囲の人間は、私の存在に全く違和感を抱いていません』


「当然ですわ。あなたほど無愛想で機械的な人間、末端の警備員に紛れ込ませるには最適の素材ですもの。……それで、ターゲットの姿は確認できまして?」


『はい。メインホールの特設ステージに、忌部義人学長と忌部泉月理事長の姿を確認しました。両名とも、極めて強大な精神干渉エネルギーの発生源と隣接しています』


「やはり、そこにいるのね。……悪魔の王が」


 新子の瞳の奥に、冷たい狩人の光が宿った。

 コンコン、と控室の扉がノックされ、黒服の男たちが数人入ってきた。


「さあ、時間だ。お前たち、立て。お偉方にお前たちの美しい顔を見せてこい」


 男たちの無遠慮な命令に従い、洗脳状態の女生徒たちがフラフラと立ち上がる。新子もそれに混じり、まるで糸で操られる人形のように足取りを合わせて歩き出した。

 控室を出て、豪華なシャンデリアが輝く廊下を進む。

 新子の横を通り過ぎる際、警備員に変装したマウトが、(かす)かに視線だけを動かして新子を捉えた。新子は(まばた)き一つで「いつでも動けるように準備なさい」という合図を送り、そのままメインホールへと向かった。

 メインホールの重厚な扉が開かれた瞬間、新子の鼻腔を強烈な悪臭が襲った。

 最高級の葉巻の匂い、高価な香水、そして何より、会場を埋め尽くす百名近いVIPたちから立ち上る、底なしの『強欲』と『色欲』の腐臭である。

 彼らは皆、現世では誰もが顔を知るような政治家や大企業の重役たちだった。しかし今、彼らの顔に張り付いているのは、理性を脱ぎ捨てた醜い獣の笑みだ。


「さあ、皆様! 今宵も『クイーン・オブ・朱鳥』の特別オークションへようこそお越しくださいました!」


 特設ステージの中央でマイクを握り、芝居がかった身振りで会場を煽っているのは、朱鳥女子大学学長の忌部義人だった。

 五十代半ばの彼は、仕立ての良いタキシードを着こなし、一見すると知的な紳士に見える。しかし、新子の『霊視』の能力は、彼の背後にそびえ立つ、大講堂で見たものとは比べ物にならないほど巨大で禍々しい影をはっきりと捉えていた。


(あれが……堕天使サマエルの本体、あるいはそれに極めて近い超高位の眷属……!)


 義人の背後に張り付いているのは、天井を覆い尽くすほどの巨大な黒い翼を持った、異形の悪魔だった。その姿は実体を持たず、ただ濃密な闇のエネルギーとしてそこに存在している。悪魔は義人の魂と完全に同化し、会場のVIPたちから立ち上る欲望を、見えない管でズズズッと音を立てて(すす)り上げていた。


『ククク……素晴らしい。人間どもの際限のない欲望、他者を支配し(もてあそ)ぶこの醜悪な熱気。これこそが我ら悪魔の至高の(うたげ)よ……!』


 悪魔のノイズ混じりの歓喜の声が、新子の鼓膜を直接震わせる。

 彼らは生徒たちを『商品』として売り(さば)くことで莫大な金銭と裏の権力を得ると同時に、この会場に渦巻く人間の欲望を悪魔への『供物(くもつ)』として捧げていたのだ。


「皆様ご存知の通り、我が朱鳥女子大学の学生たちは、最高の教養と美貌を兼ね備えた極上の芸術品でございます。今宵は特に素晴らしい『商品』を取り揃えました。……さあ、入場しなさい!」


 義人の合図と共に、新子たち女生徒がステージの上へと並ばされた。

 スポットライトが浴びせられ、会場のVIPたちから下卑(げび)た歓声とどよめきが沸き起こる。


「おお……素晴らしい」


「特にあの真紅のドレスの娘……信じられないほどの美しさだ。一体いくら積めば落とせる?」


 VIPたちの視線の多くが、新子へと集まっていた。

 洗脳状態を装って虚空を見つめている新子だったが、その内面では、彼らの醜い欲望に対する嫌悪感と、この傲慢な宴を完膚(かんぷ)なきまでに叩き潰してやるという高揚感が激しく渦巻いていた。


「ご紹介しましょう。本日の目玉商品、菱倉新子くんです。彼女は菱倉商事の令嬢でありながら、実に素直で従順な性質を持っております。彼女をあなたの腕に抱けば、菱倉の莫大な財産とのパイプも……」


 義人が新子の隣に立ち、まるで血統書付きのペットを自慢するかのような口調で紹介を始めた。

 彼の手が、新子の白い肩に触れようと伸びてくる。


(……気安く触らないでくださる? 薄汚い寄生虫の分際で)


 新子の堪忍袋の緒が、完全にブチリと音を立てて切れた。

 義人の指先が新子の肌に触れる寸前。

 虚ろだった新子の瞳に、絶対零度の青い炎がパッと燃え上がった。


「あら。わたくしの価値を、そんな端金と見え透いた権力欲で推し量ろうなんて……。随分と貧相で、傲慢な価値観ですこと」


 静まり返っていたステージに、新子の冷たく、そして凛とした声が響き渡った。

 洗脳されているはずの『商品』が突然口を開き、あろうことか学長を真っ向から嘲笑(ちょうしょう)したのだ。会場のVIPたちは一瞬何が起きたのか理解できず、ざわめきすら忘れて固まった。


「な、なんだと……? お前、洗脳香の効果が……」


 義人が驚愕に目を見開き、後ずさりした。

 新子は真紅のドレスの裾を優雅に翻し、スポットライトの中心へと堂々たる足取りで進み出た。


「あんな安っぽいお香で、わたくしの魂が縛れるとでも思いまして? わたくしはただ、あなたたちのような腐りきった大人たちが、どこまで愚かな底辺に堕ちるのかを見物してあげていたのですわ」


 新子は冷ややかな視線で、義人と、会場のVIPたちをぐるりと見渡した。


「学生を権力者の(なぐさ)み者として売り飛ばし、自分たちは安全な場所から甘い汁を吸う。……教育者という聖職の皮を(かぶ)りながら、あなたの本質は、ただの(いや)しい人身売買の元締めに過ぎませんわね、義人学長」


「だ、黙れ! 警備員! この小娘を取り押さえろ! 香の量を十倍にして、自我を完全に破壊してしまえ!」


 義人が顔を真っ赤にして絶叫した。

 会場の四方に控えていた黒服の警備員たちが、一斉に武器を抜いてステージへと殺到しようとする。


「マウト。不愉快な虫どもを、わたくしの視界から消し去りなさいな」


 新子がパチンと指を鳴らした瞬間。


 ドォォォンッ!!


 メインホールの後方から、警備員たちを吹き飛ばすような凄まじい衝撃波が巻き起こった。

 悲鳴が上がり、重武装の警備員たちが次々と宙を舞って床に叩きつけられる。

 混乱の渦の中心から、漆黒のスーツ姿の死神が、一切の感情を持たない氷の瞳で静かに歩み出てきた。


「――お嬢様の命令を受理。これより、船内の全敵対的障害の物理的排除を実行します」


 豪華客船の特設ステージは、一瞬にして逃げ場のない処刑場へと変貌(へんぼう)を遂げた。

 反逆の令嬢と絶対的な盾。

 悪魔の王を現世から丸裸フォーマットにするための、華麗なる反逆の宴が、今ここに開演したのである。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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