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冥府令嬢の天秤2 〜傲慢な悪魔は丸裸(フォーマット)ですわ!元・奪衣婆令嬢、二人の最凶イケメンに溺愛されて現世を無双する〜  作者: たくみふじ
第三章 朱き鳥の檻と女王の傲慢

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裏口入学と渦巻く欲望㈠

傲慢な悪魔の嘘、天秤で丸裸(フォーマット)にしますわ!元・奪衣婆令嬢の華麗なる無双劇

 忌部薫子の絶対王政が崩壊してから数日が経過した。

 朱鳥女子大学のキャンパスは、長年続いた重苦しい支配の空気が嘘のように晴れ渡り、学生たちの顔には本来の明るい笑顔が戻っていた。

 最寄り駅前にあるお気に入りのカフェ『ル・ポワソン』。

 その一番奥のボックス席で、新子はそびえ立つような特大のチョコレートパフェを前に、うっとりとしたため息を漏らしていた。


「まあ……! 何度見ても、この地層のように積み重なったチョコレートムースとブラウニーの断層は芸術的ですわ。現世のパティシエは、まさに甘味の錬金術師ですわね」


 新子は銀色の長いスプーンを手に取り、パフェの頂上に鎮座する濃厚なチョコアイスをすくい取って口に運んだ。カカオの芳醇(ほうじゅん)な香りと冷たい甘さが舌の上で溶け合い、悪魔祓い(エクソシズム)で消耗した魂のエネルギーを優しく満たしていく。


「新子ちゃん、本当にパフェを食べている時は幸せそうだね」


 対面に座る夕子が、自分のショートケーキをフォークで切り分けながら微笑んだ。


「ええ、もちろんですわ。レディにとって、良質な糖分は美しさと心の平穏を保つための必須アイテムですからね。……それで、夕子。大学の様子はどうかしら?」


 新子が尋ねると、夕子は少し声を(ひそ)めて身を乗り出した。


「それがね、すごい騒ぎになっているの。忌部薫子会長が、あの大講堂での集会の直後に体調不良を理由に突然の『休学』を発表して、実家に引きこもっちゃったらしいのよ」


「あら、体調不良ですって。随分と都合の良い病ですこと」


 新子はパフェを食べ進めながら、フンと鼻を鳴らした。

 悪魔との契約を強制解除された薫子は、精神的な虚脱状態に陥っているはずだ。それに加え、新子がセトを通じて警察やマスコミの各所に匿名で送りつけた『黒いUSBメモリ』のデータが、すでに彼女の周囲を包囲し始めている。


「それだけじゃないの。昨日から、警察の捜査車両が大学に何台も出入りしていて……。噂によると、過去の裏口入学や、学生会の不正な資金運用について、本格的な捜査が始まったみたい」


「自業自得ですわ。他人の弱みにつけ込み、恐怖で支配してきた女王の、惨めな末路ですわね」


 新子が冷ややかに言い放った、まさにその時だった。


「おーい! 新子ォォォッ!!」


 カフェの自動ドアが開き、周囲の客がギョッとして振り向くほどの大声が響き渡った。

 現れたのは、玄武大学の太田真喜だった。彼はなぜか、両手いっぱいにカラフルな風船と、巨大なクマのぬいぐるみを抱え込んでいる。


「新子! クレーンゲームで特大のクマが取れたんだ! 新子の部屋に飾ってくれよ!」


 真喜が犬のように尻尾を振って突進してきた瞬間。

 新子の背後に直立していた漆黒のスーツ姿の死神、マウトが音もなく動き出した。


「対象者『太田真喜』の突進、および視界を(さえぎ)る巨大な綿状の物体を確認。お嬢様の食事環境を脅かす障害と判定し、物理的排除を実行します」


 マウトが冷徹な声と共に真喜の前に立ちはだかり、飛んできた巨大なクマのぬいぐるみを片手でガシッと受け止めた。


「おいっ! またお前かよ、無愛想な番犬! それは俺から新子への愛の結晶だぞ、離せ!」


「愛という不確定要素バグの結晶化は確認できません。これはただのポリエステルとアクリル繊維の集合体に過ぎません。即時廃棄を推奨します」


「廃棄すんな! 俺の苦労をなんだと思ってんだ!」


 真喜とマウトが、巨大なクマのぬいぐるみを挟んで綱引きを始めた。

 カフェの店内に、何とも言えないシュールな光景が展開される。


「……もう、二人ともいい加減になさって! わたくしの美しいティータイムを台無しにするおつもり!?」


 新子がスプーンを皿にカンッと打ち鳴らすと、二人はピタリと動きを止めた。


「真喜さん。あなたのお気持ちとクマさんはありがたく頂戴いたしますわ。ですが、ここは公共の場ですのよ。あまり騒ぐと、本当に出入り禁止になりますわよ」


「うっ……わかったよ。新子がそう言うなら、大人しくするぜ」


 真喜はシュンとしてぬいぐるみをマウトに押し付け、新子の隣の席にドカッと座り込んだ。マウトは渡された巨大なクマを無表情のまま小脇に抱え、再び新子の背後へと戻っていく。漆黒の死神と可愛らしいクマの組み合わせは、周囲の客たちの視線を釘付けにしていた。


「まったく、騒がしいゴールデンレトリバーですこと。……夕子、ごめんなさいね、いつもお騒がせして」


「ふふっ、いいよ。新子ちゃんがいつもみんなに愛されている証拠だもん。私、先に行くね。午後のゼミの準備があるから」


 夕子がクスクスと笑いながら立ち上がり、カフェを後にした。

 新子もパフェを平らげると、スマートフォンが震えているのに気がついた。画面には『油江颯』の名前が表示されている。


『エバ。講義の空き時間だろう? 私の研究室へ来なさい。君の送った「プレゼント」について、少し面白い話があるんだ』


 油江からの短いメッセージ。

 プレゼントとは間違いなく、あのUSBメモリのデータのことだ。


「真喜さん。わたくし、これから油江教授の研究室へ行かなければなりませんの。あなたはこのクマさんと一緒に、大人しく大学へ戻っていなさいな」


「えっ!? あのいけ好かない油江のところへ!? 俺も行くぞ、あいつ絶対に新子に変なこと企んでるに決まってる!」


「あなたは来なくてよろしいですわ。あの教授の理屈っぽい話を聞いても、あなたの脳細胞では知恵熱を出すだけですからね。……マウト、クマさんを真喜さんに渡して、出発しますわよ」


 新子は有無を言わさぬ令嬢のオーラで真喜を押し留め、カフェを後にした。


 朱鳥女子大学、旧館最上階。

 犯罪心理学研究室の重厚な扉を開けると、油江颯はすでに最高級のダージリンティーを淹れて待ち構えていた。


「いらっしゃい、エバ。……今日も番犬を連れているようだね」


 油江はソファに優雅に腰掛けながら、新子の背後に立つマウトへと鋭い視線を向けた。


「ええ。最近は学内も物騒ですからね。この無愛想な盾がいないと、落ち着いてキャンパスも歩けませんのよ」


 新子はマウトを背後に控えさせたまま、油江の対面のソファへと腰を下ろした。


「それで? 面白い話とは何かしら。わたくしの送った『プレゼント』が、警察やマスコミで大活躍しているという報告ですの?」


 新子がカップを手に取りながら微笑むと、油江はふっと口角を怪しく吊り上げた。


「君のハッキング技術と情報収集能力には、本当に感服するよ。……忌部薫子の裏口入学、学生会の資金横領、そして教団との癒着(ゆちゃく)。あのUSBメモリのデータは、警察の捜査を決定的に進展させる完璧な証拠だった」


「当然ですわ。わたくしの天秤は、いかなる罪も見逃しませんもの」


「だがね、エバ」


 油江はタブレット端末を操作し、新子の前のローテーブルへと滑らせた。

 画面には、朱鳥女子大学の実質的トップである学長・忌部義人と、理事長・忌部泉月の顔写真が表示されている。


「警察が忌部薫子への本格的な聴取に踏み切ろうとした矢先……見えない『上からの圧力』がかかったんだ」


「圧力、ですって?」


 新子はティーカップを置き、眉をひそめた。


「そうだ。捜査の指揮を執っていた県警の幹部が突然更迭(こうてつ)され、マスコミ各社も一斉にこの事件の報道をトーンダウンさせた。……忌部薫子の個人的なスキャンダルは握り潰され、『一部の不良学生による暴走』という、ごく小さな問題にすり替えられようとしている」


「……馬鹿な。あれほど決定的な証拠があるのに、現世の警察がそこまで簡単に丸め込まれるなんて」


「それが『朱鳥会』の真の力だよ、エバ」


 油江は立ち上がり、新子の隣へと音もなく滑り込むように座った。彼の冷たい指先が、新子の肩にかかった黒髪をそっと撫でる。

 マウトが一歩前に出ようとしたが、新子はそれを視線で制止した。


「朱鳥会の中枢にいる忌部義人学長と、泉月理事長。彼らは長年、政財界の大物たちに『極上の愛人』を斡旋(あっせん)することで、強固な癒着(ゆちゃく)関係を築き上げてきた。彼らの手には、日本のトップクラスの政治家や官僚たちの弱みが、ごっそりと握られているんだ。……警察組織など、彼らにとっては簡単に捻り潰せる小さな組織に過ぎない」


 油江の言葉に、新子の瞳の奥で冷たい怒りの炎が燃え上がった。


「つまり、忌部薫子は単なるトカゲの尻尾。本丸の義人学長たちは、自分たちの権力と悪事をもみ消すために、彼女を切り捨てて逃げ切ろうとしているというわけですわね」


「その通りだ。他人の欲望と弱みを掌握し、絶対的な権力を振るう。彼らの心の中には、倫理も道徳もない。あるのは底なしの『権力欲』と『貪欲』だけだ。……エバ。君の裁きは、まだ終わっていないんじゃないのかな?」


 油江の瞳が、狂気的なまでの探求心で新子を覗き込んでくる。

 新子はこの男が、単なる正義感ではなく、自分という存在がどう動くのかを観察し、楽しんでいるだけだということを痛いほど理解していた。


「……ええ、終わっていませんわ」


 新子は油江の顔を真っ直ぐに見据え、不敵な笑みを返した。


「現世の法で裁けないのなら、わたくしが直接、その醜い傲慢の皮を剥ぎ取って差し上げるまでです。……油江教授、貴重な情報提供に感謝いたしますわ。ですが、ここから先はレディの『神聖な私用』ですの。殿方は引っ込んでいてくださる?」


 新子は立ち上がり、令嬢としての完璧なオーラを纏って研究室の扉へと向かった。

 朱鳥会の真の中枢、忌部義人学長。

 そして、その背後に潜む『悪魔の王』の気配。

 元・奪衣婆エバの華麗なる神罰は、いよいよ学園の最も深い闇へと切り込んでいく。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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