生徒会長・忌部薫子の野望㈠
傲慢な悪魔の嘘、天秤で丸裸にしますわ!元・奪衣婆令嬢の華麗なる無双劇
大講堂のステージへと続く数段の階段を、新子はまるで舞踏会の会場にでも足を踏み入れるかのような優雅さで上りきった。
彼女の右手に握られた天冥石の杖が、鈍くも圧倒的な紫色の光を放ち、講堂内を覆い尽くしていた悪魔の瘴気をチリチリと焼き払っていく。
「来ないで……! わたくしの神聖なステージに、下賤なネズミが上がることは許しませんわ!」
忌部薫子は、マイクスタンドを盾にするように後ずさりした。
先ほどまでの絶対的な女王の威厳は見る影もなく、その美しい顔は恐怖と屈辱で青ざめ、プラチナブロンドの髪が乱れるのも構わずに叫び声を上げている。
彼女の背後にそびえ立つ六つの瞳を持つ超高位悪魔もまた、新子の持つ『奪衣婆』としての絶対的な権能と神具の光に本能的な脅威を感じたのか、威嚇するように無数の赤い触手をうねらせていた。
「神聖、ですって? 笑わせないでくださいませ」
新子はマイクの前に立つ薫子まで数歩の距離に迫り、ピタリと足を止めた。
そして、手にした黒いUSBメモリを薫子の目の前で軽く揺らしてみせた。
「この小さなメモリの中には、あなたが『神聖なステージ』を維持するために重ねてきた、泥に塗れた悪事のすべてが記録されていますわ。……忌部薫子。あなたは幼少期から、忌部一族の支配階級として英才教育を受けてきましたわね」
新子の冷たく澄んだ声が、マイクを通さずとも大講堂の隅々にまで響き渡る。三千人の生徒たちは、息を呑んで二人の対峙を見守っていた。
「小学四年生で生徒会長に就任して以来、あなたは常にトップに君臨し続けてきた。誰もがあなたの才能とカリスマ性を疑わなかった。……でも、それはすべて『作られた虚像』でしたのよ」
「黙りなさい! わたくしは選ばれた特別な存在ですわ! 愚かな民草を導くのが、わたくしの宿命なのです!」
「選ばれた存在が、大学に入学するために『一千万円の裏口入学』などという浅ましい手段を使いますの?」
新子の口から放たれた決定的な一言が、静まり返った大講堂に爆弾のように投下された。
「え……?」
「裏口入学……忌部会長が?」
生徒たちの間で、信じられないものを見るようなざわめきが瞬く間に広がっていく。
絶対的な実力と血筋で大学を統べていると信じられていた女王が、実は金で椅子を買った偽物だった。その事実は、生徒たちが薫子に対して抱いていた『畏怖』という名の呪縛を、根底から揺るがすには十分すぎた。
「嘘よ……嘘ですわ! わたくしは完璧な忌部の人間です! そんなデータ、あなたが捏造したに決まっていますわ!」
薫子が狂乱したように頭を抱え、叫び声を上げた。
「捏造ではありませんわ。朱鳥会の裏帳簿には、あなたの裏口入学の条件として、あなたが彼らに対して『絶対服従』を誓った誓約書のコピーまでご丁寧に保存されていましたもの」
新子は冷酷なまでの事実を、容赦なく突きつけていく。
「あなたは女王なんかじゃない。忌部一族のプレッシャーに押し潰されそうになりながら、朱鳥会という巨大な権力にひれ伏し、資金回収のための操り人形として働かされているだけの、哀れなピエロですわ。……そして、その惨めな『劣等感』から目を背けるために、この悪魔と契約した」
『ギギギ……ッ! 小娘が、我が極上のディナーを……!』
薫子の秘密が暴露され、生徒たちの畏怖が『失望』と『軽蔑』へと反転していくにつれ、悪魔と薫子を繋いでいた支配のアンカーが激しく揺らぎ始めた。
生徒たちを縛り付けていた赤い触手が、ボロボロと音を立ててちぎれ、講堂の空気が急激に正常なものへと戻っていく。
「あなたは、自分自身の力では何も成し遂げられないという真実を、誰よりも恐れていた。だから、他人の弱みにつけ込み、風紀委員を洗脳して恐怖で学園を支配した。自分よりも才能のある者、幸せそうに笑っている生徒たちへの、醜い『嫉妬』と『傲慢』。……そして、何よりも自分を特別だと思い込みたいという『自己顕示欲』!」
新子の言葉が、奪衣婆の絶対的な天秤として、薫子の魂の罪を次々と量り、暴いていく。
「やめて……やめてぇっ! わたくしは……わたくしは女王よ! みんな、わたくしを敬いなさい! ひれ伏しなさい!」
薫子が耳を塞いで絶叫した瞬間、彼女の背後にいた超高位悪魔が、限界を迎えたように巨大な咆哮を上げた。
これ以上、宿主の虚栄心が破壊されれば、悪魔自身も現世に留まることができなくなる。悪魔は薫子の魂から強制的に主導権を奪い、自らの巨大な赤い翼を広げて講堂の天井を破壊せんばかりに膨れ上がった。
『ならば……ならばこの小娘から先に喰い殺してやる! 現世の理ごと、すべてを我が胃袋に収めてくれるわ!』
悪魔の六つの瞳が血走ったように赤く発光し、新子に向けて、無数の鋭い棘を持った触手を津波のように放った。それは、精神攻撃ではない。完全に物理的な破壊力を持った、超高位悪魔の直接攻撃だ。
「新子ちゃん!」
最前列にいた夕子が、悲鳴を上げて立ち上がった。
しかし、新子は一歩も退くことなく、目前に迫る触手の群れを冷ややかな瞳で見据えていた。
「……マウト。私の前にゴミを散らかさないでちょうだい」
新子が静かに命じた瞬間。
「――お嬢様の安全圏内への物理的干渉を確認。迎撃します」
ステージの下から、弾丸のような速度で漆黒の影が跳躍した。
マウトだ。彼は空中で身体を捻りながら、悪魔の放った無数の触手の軌道上に完璧に割り込んだ。
感情を持たない死神の瞳が、無機質に標的をロックオンする。マウトは両腕を交差させ、そこに死神としての莫大な霊圧を集中させた。
ドゴォォォォンッ!!
悪魔の触手とマウトの防壁が激突し、凄まじい衝撃波が大講堂を吹き荒れた。
ステージの床板がめくれ上がり、巨大なシャンデリアが激しく揺れ動く。三千人の生徒たちが悲鳴を上げて伏せる中、マウトは空中でピタリと制止したまま、悪魔の物理攻撃をただの一撃も新子に届かせることなく、すべてその身で受け止めて弾き返した。
『バカな……! 我が渾身の殺意を、感情も持たぬ人形ごときが防ぐというのか!』
悪魔が驚愕の声を上げた。
マウトは音もなくステージに着地し、漆黒のスーツの埃を軽く払いながら、新子の斜め前に直立した。
「対象の攻撃パターンの解析を完了。霊的エネルギーによる物理破壊行動と断定。お嬢様、これより障害の完全排除を支援します」
「ええ、ありがとうマウト。本当に、可愛げはないけれど最高の盾ですわ」
新子は不敵な笑みを浮かべ、杖を高く掲げた。
天冥石の紫色の光が、悪魔の巨体を逃げ場のない檻のように包み込んでいく。
「さあ、超高位の悪魔さん。あなたの極上のディナーの時間は終わりですわ。……これより、その見苦しい傲慢の衣を、一枚残らず引き剥がして差し上げますわ!」
悪魔の王の眷属と、冥府の執行官。
朱き鳥の檻の中での最大の死闘が、いよいよ最終局面へと突入しようとしていた。
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魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。




