朱鳥女子大学と絶対女王㈡
傲慢な悪魔の嘘、天秤で丸裸にしますわ!元・奪衣婆令嬢の華麗なる無双劇
三千人を超える生徒たちの視線が、一斉に講堂のほぼ中央に立つ新子へと集中した。
水を打ったような静寂の中、新子はただ一人、凛とした佇まいでステージ上の女王を見据えている。隣に座る夕子と沙耶香は、新子のあまりにも大胆な行動に顔を青ざめさせ、声も出せずにその袖を強く握りしめていた。
「……今、何と言いましたの? そこの身の程知らずなネズミさん」
ステージ中央、マイクの前に立つ忌部薫子の美しい顔が、侮蔑と不快感でピキピキと凍りついた。
彼女の背後にそびえ立つ、六つの瞳を持つ巨大な堕天使のごとき超高位悪魔が、新子を値踏みするように赤い目をギョロギョロと動かし、おぞましい笑い声を大講堂の空間全体に響かせる。もちろん、その姿は一般の生徒たちには見えていないが、悪魔が放つ強烈な威圧感は瘴気となって講堂内をさらに冷え込ませていった。
「聞こえませんでしたの? 耳まで贅肉で塞がっているのかしら。わたくしは、あなたのその独裁者気取りの茶番劇が、あまりにも悪趣味で退屈だと言いましたのよ、薫子さん」
新子はツンと顎を上げ、講堂全体に響き渡る明瞭な声で言い放った。
お嬢様特有の優雅さと、元・奪衣婆としての絶対的な冷徹さを孕んだその声に、生徒たちの間から引き裂くような驚愕のどよめきが沸き起こる。これまで忌部薫子の絶対的な権力に対して、これほど真っ向から異を唱えた者など、この大学の歴史上ただの一人も存在しなかったからだ。
「無礼な……! わたくしは忌部一族の直系であり、この朱鳥の庭を統べる絶対の女王ですわよ!? 名もなき下賤な者が、わたくしの神聖な舞台に泥を塗るなど、万死に値しますわ!」
薫子が激昂し、ステージの床をヒールで激しく踏み鳴らした。
「風紀委員! 何をボサッとしていますの! その不届き者を今すぐ捕らえ、特別指導室へ連行しなさい! 二度と光を見られないよう、徹底的に『浄化』して差し上げるのですわ!」
薫子の鋭い命令に、講堂の四方に配置されていた風紀委員たちが一斉に動き出した。
彼女たちの腕に巻かれた『赤い鳥』の腕章が、悪魔の力に呼応して禍々(まがまが)しい赤紫色の光を放ち始める。悪魔の力によって理性を狂わされ、異常なまでの攻撃性を注入された十数人の風紀委員たちが、新子を包囲するように座席の通路を猛烈な勢いで突き進んできた。
「新子ちゃん、逃げて……!」
夕子が悲鳴のような声を上げた。
しかし、新子は一歩も動かない。ただ、トートバッグを片手で優雅に持ち直し、フンと鼻を鳴らしただけだった。
「マウト。レディの周囲に、これほど品性の欠けた野蛮な方々を近づけないでくださる?」
新子が静かに呟いた、その瞬間。
ドォォォンッ!!
大講堂の後方、完全に施錠されていたはずの重厚な扉が、凄まじい衝撃音と共に内側へとへし折れた。
あまりの衝撃に、入り口近くにいた生徒たちが悲鳴を上げて避難する。砂煙と木片が舞い散る中から、静かに、しかし絶対的な『死の気配』を纏った漆黒の影が現れた。
「――お嬢様の平穏を乱す障害物を確認。これより、物理的排除のフェーズに移行します」
感情の欠落した無機質な声が大講堂に響き渡る。
漆黒のスーツを隙なく着こなした死神、土出真羽人は、目にも留まらぬ圧倒的な速度で通路を駆け抜けた。彼の移動に伴って発生した強烈な風圧が、座席の生徒たちの髪を激しくなびかせる。
「な、何者だお前は!? ここは男子禁制……ぶっ!?」
新子に最も近づいていた風紀委員の女生徒が、叫び声を上げようとした瞬間、彼女の視界から世界が消えた。
マウトは彼女の懐に一瞬で潜り込み、その衣服の襟元を掴むと、流れるような動作で一本背負いのように石畳の床へと叩きつけたのだ。衝撃で床にめり込むような音が響いたが、マウトの正確無比な力加減により、女生徒は怪我をすることなく、ただ衝撃で一瞬にして意識を失い、泥のように崩れ落ちた。
「き、貴様ぁッ!!」
残りの風紀委員たちが、悪魔のブーストによる人間離れした腕力で、一斉にマウトへと躍りかかった。金属製の特殊警棒や、鋭い爪がマウトの顔面や胸元へと迫る。
しかし、マウトにとって彼らの動きは、停止しているも同然だった。
マウトは一歩も退くことなく、向かってくる警棒を素手で掴み取ると、そのまま力任せに奪い取り、周囲の風紀委員たちの足を払うように一閃した。
ガキン、ドカッ、バキッ!!
打撃の音が連続して響き渡るたび、悪魔の腕章を巻いた風紀委員たちが、面白いように宙を舞い、次々と通路や床へと転がされていく。彼らは起き上がろうとするが、マウトによって的確に関節の神経を圧迫され、身体に力が入らずにもがくことしかできない。
三千人の生徒たちが、その現実離れした圧倒的な格闘能力を前に、恐怖を忘れて呆然と見入っていた。
「ば、馬鹿な……! わたくしの精鋭たる風紀委員が、たった一人の男に……!?」
ステージ上の薫子が、信じられないといった様子で後ずさりし、その美しい顔を驚愕に歪めた。
「特別製のボディガードと言ったでしょう? あなたのような、他人の力を借りてしか威張れない偽物の女王とは、背負っている『格』が違いますのよ」
新子はマウトが瞬く間に風紀委員たちを全滅させるのを確認すると、ゆっくりと座席から通路へと歩み出た。
コツン、コツンと、新子の黒いローファーが静まり返った講堂に心地よいリズムを刻む。彼女の歩みに合わせて、大講堂を埋め尽くしていたどす黒い悪魔の瘴気が、まるでモーセの海割りのように左右へと弾き飛ばされ、新子の周囲だけが完全に清浄な空間へと変わっていった。
「くっ……! おのれ、おのれネズミ風情がぁッ!!」
薫子がヒステリックに叫ぶと、彼女の背後にいる超高位悪魔が、新子に向かって無数の赤い糸のような触手を一斉に放った。生徒たちの魂を縛り付け、マインドコントロールしていた呪いの糸だ。
「無駄ですわ」
新子は歩みを止めず、トートバッグの中から、昨日手に入れた黒いUSBメモリを指先でつまみ上げ、薫子に向けて高く掲げた。
「鏡悟の新興宗教から流出した、朱鳥会の裏帳簿。裏口入学のリスト。そして、学生たちを権力者の愛人として斡旋した密約の全データ。……これらがすべて現世の警察やマスコミに流れた時、あなたのその傲慢な王座がどうなるか、想像がつかなくて?」
その言葉が講堂内に響いた瞬間、今度は生徒たちの中から、真の恐怖と驚愕に満ちた騒然たる波紋が広がった。
「裏口入学……?」
「愛人斡旋って、まさか先輩たちが急にいなくなったのって……」
「静かにしなさい! すべてはデタラメですわ! そんな根拠のない絵空事、誰も信じませんわよ!」
薫子は顔を真っ赤にして否定したが、その瞳は完全に泳いでいた。
新子はついにステージの最前列まで到達し、階段を一段ずつ上り始めた。彼女の右手には、紫色の光の粒子が集束し始め、天冥石が埋め込まれた鈍色の杖が、圧倒的な神威を伴って実体化しつつあった。
「さあ、忌部薫子。あなたの魂の重さを、わたくしの天秤で量らせていただきますわ。……あなたがその悪魔と契約し、この美しい学舎を汚した本当の理由、すべて白日の下に晒してご覧にいれますことよ!」
反逆の令嬢がステージへと足を踏み入れる。
絶対女王の虚飾を剥ぎ取り、その背後に潜む超高位悪魔を丸裸にするための、エバの容赦なき神罰の執行が、今ここに始まった。
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魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。




