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冥府令嬢の天秤2 〜傲慢な悪魔は丸裸(フォーマット)ですわ!元・奪衣婆令嬢、二人の最凶イケメンに溺愛されて現世を無双する〜  作者: たくみふじ
第二章 偽りの救済と暴走する信仰

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教祖の背後に潜む影㈠

傲慢な悪魔の嘘、天秤で丸裸(フォーマット)にしますわ!元・奪衣婆令嬢の華麗なる無双劇

 翌日の朱鳥女子大学は、雲一つない透き通るような冬の青空に包まれていた。

 冷たい風がレンガ造りの学舎を撫でていくが、キャンパスを行き交う学生たちの声はどこか晴れやかで、平和な日常の空気が満ちている。


「新子ちゃん、本当にありがとう! 沙耶香、すっかり元の明るい子に戻ったの!」


 中庭のベンチで、親友の大崎夕子が新子の両手を取って、満面の笑みを浮かべていた。


「教団の施設に泊まり込んでた間の記憶がすっぽり抜け落ちているみたいなんだけど、本人は『すごく長くて嫌な夢を見ていた気がする』って笑ってて。新子ちゃんが、何か裏で手を回して助け出してくれたんでしょ?」


「あら、私は大したことはしていませんわ。ただ、菱倉家の顧問弁護士を通じて、少しばかりその怪しい施設に『法的な指導』を入れてもらっただけですの」


 新子は優雅に微笑み、さらりと(よど)みない嘘をついた。

 昨夜の地下ホールでの凄惨(せいさん)悪魔祓(あくまばら)いなど、現世の住人である夕子には絶対に知られてはならない。信者たちの記憶処理と警察への引き渡しは、セトとサラが手際よくカモフラージュしてくれたおかげで、表向きは『悪質な霊感商法による摘発』として処理されていた。


「それでもすごいよ! やっぱり新子ちゃんは頼りになるお嬢様だね!」


 夕子がホッと胸を撫で下ろして立ち上がった。


「私、これから次の講義があるから行くね。新子ちゃんも気をつけてね、後ろの『怖いボディガード』さんにもよろしく!」


 夕子が小走りで去っていくのを見送りながら、新子は背後を振り返った。

 そこには、今日も変わらず漆黒のスーツを隙なく着こなし、彫像のように直立して控えている死神マウトの姿があった。彼の放つ無機質で冷徹な気配は、この華やかな女子大のキャンパスにおいては強烈な違和感を放っている。


「マウト。夕子があなたのことを怖いと言っていましたわよ。少しは口角を上げて、人間らしい愛想笑いでも練習したらどうかしら?」


「お嬢様。私の機能に『愛想笑い』というアルゴリズムは搭載されていません。周囲の人間からの好感度低下は、護衛任務の遂行において何ら支障をきたすものではないと判断します」


「……本当に、可愛げのない盾ですこと」


 新子は呆れたようにため息をつき、お気に入りのトートバッグを肩にかけ直した。


「さあ、行きますわよ。あの理屈っぽい教授が、また私を呼び出していますからね」


 向かった先は、旧館の最上階にある犯罪心理学研究室だ。

 重厚なマホガニーの扉をノックして開けると、部屋の中には挽きたてのコーヒーの香ばしい匂いが漂っていた。デスクの奥では、若き天才犯罪心理学者である油江颯が、仕立ての良いスリーピーススーツ姿で書類に目を通している。


「お待ちしていましたわよ、教授。今日の呼び出しは、一体どのようなご用件かしら?」


 新子がソファに優雅に腰を下ろすと、油江はゆっくりと顔を上げ、眼鏡の奥で知的な瞳を妖しく光らせた。


「いらっしゃい、エバ。……今日の君は、一段と美しいオーラを纏っているね。まるで、大仕事を終えて充実感に満ちた執行官のようだ」


「ふふっ、レディはお肌の調子が良いだけで輝いて見えるものですわ。教授の深読みしすぎる癖は、相変わらずですわね」


 新子はツンと顎を上げ、用意されていたロータスビスケットを一口かじった。

 油江はふっと口角を上げると、手元にあった一冊の黒いファイルをローテーブルの上に放り出した。


「昨夜、横浜郊外で摘発された新興宗教『浄化の光』。……教祖の鏡悟という男は、精神を完全に崩壊させた状態で警察に保護されたそうだね。彼は取り調べで『紫色の炎に焼かれた』『悪魔が剥がされた』と、意味不明なうわ言を繰り返しているらしい」


 油江の言葉に、新子の心臓が(かす)かに跳ねた。

 しかし、令嬢の完璧な仮面は微塵(みじん)も揺るがない。


「あら、恐ろしい。新興宗教の教祖が自ら発狂するなんて、皮肉な結末ですわね。それが私と何か関係があるとおっしゃりたいの?」


「関係がないとは言わせないよ。君の周囲で起きる事件には、必ず『異常な精神の破壊』という共通点がある。……だが、今日君を呼んだのは、君の秘密を追及するためじゃない」


 油江は立ち上がり、新子の隣のスペースへと音もなく滑り込むように座った。

 彼のほろ苦いコーヒーの香りが、新子の鼻腔をくすぐる。背後のマウトがピクリと反応したが、新子は手で制して待機させた。


「追及するためではない? では、何ですの?」


「この事件の『裏の構造』について、君の意見を聞きたくてね」


 油江はファイルを開き、そこにある資金の流れを示す複雑なチャート図を指差した。


「教祖の鏡悟は、確かに信者たちを洗脳し、巨額の資金を巻き上げていた。だが、私のプロファイリングによれば、彼のような小物の男に、あれほど大規模な教団を短期間で構築・運営するほどの知能や手腕はない。彼は、何者かに『操られていた操り人形』に過ぎないんだよ」


「……操り人形?」


 新子は眉をひそめた。

 昨夜、鏡悟の魂から剥ぎ取ったあの高位悪魔。確かに悪魔は、消滅する直前に『我らが王が必ずやお前たちを』という不吉な言葉を残していた。


「そうだ。警察の調べで、教団が集めた資金の大半が、あるダミー会社を経由して別の組織へと流出していたことが判明した。……その金の行き先がどこか、わかるかい?」


 油江の冷たい指先が、チャート図の終着点にある組織名をとんとんと叩いた。

 そこに記されていた名前に、新子は息を呑んだ。


『後援会・朱鳥会(あかみとりかい)


「朱鳥会……。私たちの大学を裏で支援している、あの巨大な後援組織ですわね」


「その通りだ。朱鳥女子大学は、忌部一族が創設し、現在もその絶対的な権力で支配されている。そして、その裏の資金源であり、政財界の黒幕とも噂されているのが『朱鳥会』だ。……どうやら、あの安っぽい新興宗教は、朱鳥会の集金システムの一つに過ぎなかったらしい」


 油江の眼鏡の奥の瞳が、狩人のように鋭く光った。


「エバ。君が退治したのが『幽霊』なのか『悪魔』なのかは知らないが、君はただのトカゲの尻尾を切ったに過ぎない。本当の闇は、この平和な学園の最深部に巣くっているんだよ」


 新子は背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 高位悪魔を配下に置き、人間の魂と金銭を組織的に搾取している黒幕。それが、自分の通うこの大学の中枢に存在しているというのか。


(『我らが王』……。朱鳥会に潜む存在が、この現世を裏で操る悪魔の元凶(げんきょう)だというのですか)


 新子が事態の深刻さに思考を巡らせていた、まさにその時だった。


 バァァァンッ!!


 研究室の重厚な扉が、またしても凄まじい音を立てて蹴り開けられた。


「新子ォォォッ!! 油江教授! また新子を二人きりで密室に連れ込んでるのかよ!」


 玄武大学の太田真喜が、両手に熱々のフライドチキンが入った紙袋を抱えながら、怒り心頭の様子で乱入してきた。彼の猪突猛進なエネルギーは、研究室のシリアスな空気を一瞬にして粉砕していく。


「真喜さん! あなた、何度言えばわかるのですか! ここは大学の研究室ですのよ!」


 新子が立ち上がって叱りつけようとしたが、それよりも早く、漆黒の死神が動いた。


「対象者『太田真喜』の無許可侵入を確認。所持している高温の油分を含む物体フライドチキンが、お嬢様の衣服を汚損(おそん)するリスクを検知。物理的排除を実行します」


 マウトが音もなく真喜の背後に回り込み、彼の首根っこをガシッと掴んだ。


「痛ぇっ! おい、離せよこの無愛想な番犬! 俺は新子と一緒にチキンを食べようと思って……!」


「お嬢様のカロリー摂取計画に、外部からの未承認な脂質の追加は許可されていません」


「うるせえ! 新子は俺のチキンが好きなんだよ!」


 真喜とマウトが、研究室の入り口でドタバタと不毛な小競り合いを始める。

 油江はその様子を見ながら、やれやれと肩をすくめ、優雅にコーヒーカップを傾けた。


「君の番犬と野良犬は、今日も元気に縄張り争いをしているようだね、エバ」


「……ええ。本当に、頭が痛くなりますわ」


 新子は額に手を当てながらも、油江の言葉と朱鳥会の存在を心に深く刻み込んでいた。

 平和な日常と騒がしい恋模様の裏側で、現世を支配しようとする強大な悪意の足音が、確実に近づいてきている。元・奪衣婆のエバの次なる闘いは、この美しい学舎の闇を切り裂くことだと、彼女の魂が静かに告げていた。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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