表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冥府令嬢の天秤2 〜傲慢な悪魔は丸裸(フォーマット)ですわ!元・奪衣婆令嬢、二人の最凶イケメンに溺愛されて現世を無双する〜  作者: たくみふじ
第二章 偽りの救済と暴走する信仰

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/49

信者たちの狂気㈡

傲慢な悪魔の嘘、天秤で丸裸(フォーマット)にしますわ!元・奪衣婆令嬢の華麗なる無双劇

 狂乱する信者たちをマウトが一人で制圧し続ける中、新子は悪魔の瘴気が渦巻く祭壇へと歩みを進めた。

 教祖・鏡悟は、自らの信者たちが次々と床に転がされていく様を見下ろしながらも、その顔には冷酷な薄笑いを張り付かせている。


「無駄な足掻(あが)きです。彼らの心はすでに私のもの。あなたがいくら物理的に彼らを押さえ込もうと、彼らの魂が私に捧げる信仰のエネルギーは絶えることがない」


 鏡悟が両手を広げると、背後にそびえ立つ高位悪魔の巨体が、さらに禍々(まがまが)しい紫色に発光し始めた。


「信仰、ですって? 都合の良い言葉で彼らの弱さを搾取(さくしゅ)しているだけのくせに」


 新子は祭壇の数歩手前で立ち止まり、冷ややかな視線で鏡悟を見据えた。

 悪魔の力を削ぐためには、宿主である鏡悟の魂の根源に隠された『真の欲望』を白日の下に(さら)さなければならない。新子は、油江教授の講義で学んだ犯罪心理学の知識と、元・奪衣婆としての審美眼を研ぎ澄ませた。


「鏡悟。あなたは、彼らの孤独や絶望に寄り添うふりをして、実は誰よりも彼らを見下していますわね。……いいえ、見下すことでしか、自分自身の価値を見出せないのですわ」


「……何が言いたいのです?」


 鏡悟の薄笑いが、ピクリと不自然に引きつった。


「あなたは現世の競争社会で、誰からも認められなかった。特別な才能も、人を惹きつける真の魅力も持っていなかった。……だから、社会に疲弊して判断力を失った(もろ)い若者たちを集め、閉鎖されたこの小さな地下室で『神』を気取るしかなかったのですわ」


 新子の言葉は、氷の刃のように鋭く、そして容赦がなかった。


「彼らがあなたに依存すればするほど、あなたのそのちっぽけで惨めな『劣等感』が満たされていく。他人の人生をコントロールしているという『支配欲』と『自己顕示欲』。……彼らを救済するためではありませんわ。あなたが自分の空っぽな魂を埋めるために、彼らを餌として貪っているだけです!」


『グガァァァァァッ! やめろ……! その口を閉じろォォォッ!』


 鏡悟の背後の高位悪魔が、苦痛に満ちた叫び声を上げた。

 宿主がひた隠しにしてきた醜い真実を暴かれたことで、悪魔と鏡悟を繋いでいた強固な契約の鎖に、ピキピキと致命的な亀裂(きれつ)が入り始めたのだ。


「黙れ! 私は選ばれた存在だ! 現世の愚か者どもを導く、真の救済者だ!」


 鏡悟が血走った目で叫び、祭壇の上の装飾品を新子に向かって投げつけた。

 しかし、それは新子に届くよりも前に、音もなく背後から跳躍してきたマウトの手によって軽々と叩き落とされた。


「お嬢様に対する飛来物を迎撃。対象者の精神的動揺がピークに達していると推測されます。……お嬢様、今です」


 マウトが静かに告げると同時に、信者たちの動きがピタリと止まった。

 悪魔とのリンクが揺らいだことで、鏡悟の放っていた強力な催眠の力が急激に弱まったのだ。信者たちは糸の切れた操り人形のように、次々とその場に崩れ落ちていく。


「ええ、わかっていますわ。……よくやってくれました、マウト」


 新子はトートバッグから手を引き抜いた。

 悪魔の瘴気が薄れた今、冥界の異能を引き出すパイプは完全に開通している。新子の右手に紫色の光の粒子が収束し、天冥石が埋め込まれた鈍色の杖が、圧倒的な威圧感を伴って実体化した。


「なっ……!? その杖は……!」


 鏡悟が後ずさりし、恐怖に顔を歪めた。


「他者の弱さにつけ込み、その人生を喰い物にした傲慢と自己顕示欲。……それが、あなたがこの悪魔に着せられている罪の衣の正体ですわ!」


 新子が杖を高く掲げると、先端の天冥石がまばゆい浄化の光を放ち、地下ホール全体を真昼のように照らし出した。


『アギャァァァァァッ! 私の……私の極上のディナーがぁぁぁっ!』


 高位悪魔が断末魔の叫びを上げ、鏡悟の魂に必死にしがみつこうとする。しかし、契約のアンカーを破壊された悪魔に、もはや現世に留まる力は残されていなかった。


「さあ、見苦しい悪あがきはそこまでにしていただきましょう。……元・奪衣婆の名にかけて、その傲慢な悪魔の皮、一枚残らず丸裸フォーマットにして差し上げますわ!」


 新子が杖を鋭く横に振り抜いた。

 凄まじい紫色の瘴気の刃が、鏡悟と悪魔の間を正確に切り裂く。

 メリメリッという、魂が引き剥がされるような不気味な音と共に、巨大な黒い靄が鏡悟の背中から完全に分離された。空中に放り出された悪魔のコアは、新子の放った紫色の炎に包まれ、一瞬にしてチリチリと燃え上がっていく。


『人間ごときが……! このままでは終わらん……! 我らが王が、必ずやお前たちを……!』


「地獄の底で、永遠に懺悔(ざんげ)していなさいな」


 新子が杖の石突きで床を強く叩くと、悪魔の核はパチンと弾け飛び、無数の光の粒子となって完全に霧散した。

 高位悪魔の浄化完了。

 地下ホールを覆っていた異様な重圧と、思考を麻痺させる甘い香りが、嘘のように消え去った。


「あ……ああ……。私の……私の光が……」


 悪魔という絶対的な力の拠り所を失った鏡悟は、祭壇の上にへたり込み、子供のように顔を覆って泣き崩れた。

 カリスマ性も、人を操る話術も、すべては悪魔が与えていた虚飾に過ぎなかった。残されたのは、社会に適合できず、ただ承認欲求だけを肥大化させた、一人の惨めな男の姿だけだった。


「お嬢様。対象者の完全な無力化を確認。周囲の信者たちの生命活動にも異常は見られません。全員、催眠状態から深い睡眠へと移行したようです」


 マウトが周囲を見渡し、淡々と報告した。

 彼の漆黒のスーツには埃一つついておらず、十数人の狂信者を相手にしていたとは思えないほど涼しい顔をしている。


「ご苦労様でした、マウト。あなたが信者たちを傷つけずに持ち堪えてくれたおかげですわ」


 新子は杖を消滅させ、深く息を吐き出した。

 今回は相手が高位悪魔だったこともあり、霊力の消耗が激しい。立っているのがやっとの状態だったが、令嬢としての矜持(きょうじ)でなんとか背筋を伸ばし、スマートフォンを取り出した。


「セト、聞こえますかしら。……ええ、清掃作業は完了しましたわ。あとは、この哀れな教祖の記憶処理と、信者たちを自宅へ帰す手配をお願いします」


『了解しました、エバさん。見事な手際ですね。すぐにサラと突入し、現場の事後処理を引き継ぎます』


 通信を終えると、新子は床に倒れてスヤスヤと眠っている信者たちを見下ろした。

 その中には、夕子の友人である沙耶香の姿もある。彼女が目を覚ました時、教団での記憶は曖昧になり、ただの『悪い夢』として処理されるだろう。

 彼らはまた、現世の重圧や人間関係の悩みに直面することになる。しかし、それは悪魔に魂を搾取される仮初(かりそ)めの平穏よりも、はるかに尊く、人間らしい生き方なのだ。


「さあ、帰りましょうマウト。こんな安っぽい服、一秒でも早く脱ぎ捨てて、お風呂に入りたいですわ。それから、失われたエネルギーを補給するために、最高級の和牛ステーキを焼いてちょうだい」


「了承いたしました。お嬢様の帰還ルートを確保し、調理の準備プロセスに移行します」


 マウトは静かに一礼し、新子の前を歩いて地下室への階段を上り始めた。

 新子は、泣き崩れる鏡悟を一瞥(いちべつ)し、フンと鼻を鳴らしてその場を後にした。

 偽りの救済を掲げた新興宗教の闇は、悪魔狩人の手によって密かに葬り去られた。

 しかし、浄化される直前、あの高位悪魔が残した『我らが王』という不吉な言葉が、新子の胸の奥に微かな(とげ)として残っていた。


(人間の欲望がある限り、悪魔は次から次へと湧いてくる……。油断はできませんわね)


 夜の横浜の冷たい風に吹かれながら、新子は改めて決意を固めた。

 現世の平和な日常と、彼女を不器用に溺愛する愛おしい人々。この世界を守り抜くためならば、何度でも地獄の刃を振るい、どんな強大な悪意でも丸裸にして見せると。

 ――次なる標的は、絶対的な権力で学園を支配する『女王』。

 朱き鳥の檻の中で(うごめ)く、新たなる傲慢と嫉妬のパズルが、エバの華麗なる介入を待ち受けていた。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ