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冥府令嬢の天秤2 〜傲慢な悪魔は丸裸(フォーマット)ですわ!元・奪衣婆令嬢、二人の最凶イケメンに溺愛されて現世を無双する〜  作者: たくみふじ
第二章 偽りの救済と暴走する信仰

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甘い誘惑と新興宗教㈡

傲慢な悪魔の嘘、天秤で丸裸(フォーマット)にしますわ!元・奪衣婆令嬢の華麗なる無双劇

「……うーん。実はね、新子ちゃん。同じ文学部の友達のことで、ちょっと気になることがあって」


「お友達のことで? いじめやストーカーの類でしたら、菱倉家の力で弁護士でも何でも手配いたしますわよ」


「ううん、そういうのじゃないんだけど……。沙耶香さやかっていう子なんだけどね。最近、すごく様子がおかしいの」


 夕子は声を潜め、周囲を気にしながら身を乗り出した。


「沙耶香、元々はファッションが大好きで、いつも明るい子だったの。でもここ一週間くらい、急に地味な服ばかり着るようになって、ブランド物のバッグとかアクセサリーを、全部周りの人にタダで配り始めちゃったんだよ。私も、彼女が一番お気に入りだった時計を無理やり押し付けられて……」


「持ち物を手放す……。随分と極端な心境の変化ですわね。何か、ショックなことでもあったのかしら?」


 新子が眉をひそめると、夕子は首を横に振った。


「それが、本人はすごく幸せそうに笑ってるの。『物質的な執着は、魂を(けが)す重い鎖に過ぎない。私はついに、真の救済の光を見つけたの』って。……まるで、何かに取り()かれているみたいで、少し怖くて」


「真の救済の光、ですか……」


 新子の背筋に、ピリッとした微かな電流が走った。

 人間の心に生じる極端な執着の放棄。それは一見すると悟りを開いたかのように見えるが、その実、特定の思想や存在に完全に精神を『依存』させられているだけのことが多い。

 そして、その『依存心』という名の(もろ)い心を最も好んで貪るのが、見えざる悪魔たちだ。


「沙耶香さんは、その救済の光とやらを、どこで見つけたのか言っていましたか?」


「うん。最近、就活や恋愛に悩んでる学生の間で密かに流行ってる、『浄化の光』っていう自己啓発のサークルみたいなのがあるらしいの。そこで、鏡悟きょうごっていうすごくカリスマ性のある先生の瞑想セミナーを受けたら、心がすーっと軽くなったって……」


「浄化の光……。鏡悟……」


 新子は手元のティーカップを見つめた。

 その時、彼女の鋭い『奪衣婆』としての直感が、この平和なキャンパスの空気の中に混じる、微細な不協和音を捉えた。

 夕子の服から、ほんの(わず)かに漂ってくる異臭。それは、彼女の友人である沙耶香が押し付けたという時計から発せられている、あの甘く腐った『悪魔の残穢(ざんえ)』の匂いだった。


(……間違いないわ。この『浄化の光』という集団の背後には、間違いなく悪魔が潜んでいる。それも、以前の神代零に憑いていたものと同等か、それ以上の高位の思念体が)


 新子の瞳の奥に、冷徹な執行官としての絶対零度の青い炎が静かに灯った。


「夕子。その沙耶香さんから貰ったという時計、少し見せていただいてもよろしくて?」


「え? うん、これなんだけど……」


 夕子が戸惑いながらも、バッグの中から高級ブランドの腕時計を取り出し、テーブルの上に置いた。

 新子がそれに手をかざした瞬間、マウトが(わず)かに反応し、新子の前に進み出ようとした。新子はそれを片手で制し、霊力で時計の表面を()でるように解析する。

 時計には、沙耶香の『狂信』という名の強い執着がこびりついており、それが悪魔のエネルギーとリンクするアンカーの役割を果たしていた。


「……夕子。この時計は、私が預かっておきますわ。少し、調べたいことがありますの」


「え? 別にいいけど……新子ちゃん、どうしたの? なんだか顔が怖いよ?」


「いいえ、なんでもありませんわ。ただのレディの好奇心ですの」


 新子は完璧な微笑みを作り、時計を自分のバッグへと収めた。


「真喜さん。あなた、今日の午後は暇かしら?」


 突然話を振られた真喜は、「お、おう! 新子のためなら、いつだって二十四時間三百六十五日暇だぜ!」と嬉しそうに尻尾を振った。


「では、夕子を家まで送り届けて差し上げて。寄り道は禁止ですわよ。……マウト、私たちは急ぎの『私用』ができましたわ」


 新子は立ち上がり、冷たくなった紅茶を一息に飲み干した。

 教団『浄化の光』。偽りの救済を餌にして、人間の魂を貪る新たな悪魔の巣窟(そうくつ)

 この甘い誘惑を断ち切り、傲慢な教祖の化けの皮を剥ぎ取るための、悪魔狩人としての次なる闘いの火蓋(ひぶた)が、今静かに切って落とされた。


 その日の夕刻。

 横浜中華街の裏路地に(たたず)む中華飯店『鳳凰(ほうおう)』のVIPルームには、いつにも増して重苦しい緊張感が漂っていた。

 円卓の中央には、セトが独自の情報網で集めた『浄化の光』に関する数枚の資料と隠し撮りされた写真が並べられている。

 写真に写っているのは、純白の法衣を身に(まと)い、穏やかな微笑みを浮かべる長髪の男――教祖の鏡悟だ。そして、彼の周囲にひざまずき、熱狂的な眼差しを向ける無数の信者たちの姿。


「これが、ターゲットの『浄化の光』か。……写真を見ただけで、反吐(へど)が出そうなほどの悪意の匂いがプンプンしやがるね」


 サラが嫌悪感を(あら)わにし、愛用の鈍色の杖で円卓の縁をコツコツと叩いた。


「ええ。エバさんが持ち込んだ時計に付着していた残穢の波長を解析した結果、この教団の背後に潜む悪魔は、間違いなく高位の存在だと判明しました」


 セトがタブレット端末を操作し、教団の資金の流れや信者の行動パターンをモニターに表示させた。


「彼らの手口は極めて悪質です。最初は、就職活動のストレスや人間関係の悩みを抱えた若者たちをターゲットに、無料の『瞑想セミナー』と称して接近します。そこで教祖の鏡悟が、見事な心理誘導と悪魔の催眠能力を使って、彼らの心に深く寄り添う素振りを見せるのです」


「人間の弱みにつけ込む、常套(じょうとう)手段ですわね」


 新子は腕を組み、冷ややかな視線で鏡悟の写真を睨みつけた。彼女の背後には、マウトが周囲を警戒するように静かに立っている。


「問題はここからです。一度鏡悟の『救済』を味わった信者たちは、現世の価値観をすべて否定されるようになります。家族との縁を切り、財産や私物をすべて教団に寄付(お布施)し、最終的には教団の施設内で共同生活を送るようになる。……彼らは、自らの意志で全てを捨てたと思い込まされていますが、実際には悪魔によって思考能力を完全に奪われ、ただの『依存の奴隷』にされているのです」


 セトの言葉に、新子はギリッと奥歯を噛み締めた。


「他人の人生を思い通りに支配し、その魂を搾取する……。神代零の時と同じ、醜い傲慢さですわ。ですが、規模が違いますわね。これだけの人間を同時に操るとなると、悪魔の力も相当なものですわよ」


「その通りです。高位悪魔は、信者たちから吸い上げた『狂信』と『依存』のエネルギーを糧に、現世での実体をより強固なものにしています。力任せに結界を破ったり、教祖を物理的に攻撃したりすれば、信者たちが一斉に暴徒と化し、自傷行為に走る危険性が極めて高い」


「……人質を取られているようなものだね。厄介な連中だよ、本当に」


 サラが舌打ちをした。

 悪魔狩人の執行規定、第一条。人間のカルマへの不干渉。

 信者たちが自らの意志で財産を寄付している以上、表面的にはこれはただの宗教活動であり、人間の法律で裁くことは非常に困難だ。そして第五条の絶対的剥奪(はくだつ)。器である人間を壊さずに悪魔だけを剥ぎ取るためには、教祖の鏡悟と悪魔を結びつけている『真の欲望』を突き止め、それを信者たちの前で完全に暴き出さなければならない。


「教祖の鏡悟と直接接触し、彼の魂の奥底にある欲望を解析するしかありませんわね」


 新子が凛とした声で言うと、セトは深く頷いた。


「ええ。幸いなことに、明日の夜、彼らの教団施設で、新規入信者を対象とした『特別浄化の儀式』が行われるという情報を掴みました。ここへ潜入し、教祖の化けの皮を剥ぐ隙を(うかが)うのです」


「潜入、ねえ……。あたしみたいなガラじゃないし、セトが行っても警戒されるだけだ。となると……」


 サラの視線が、新子へと向けられた。


「可憐で、純真無垢で、いかにも現世の悩みに押し潰されそうな令嬢……。適任ですわね」


 新子は不敵な笑みを浮かべ、自らの胸に手を当てた。


「私にお任せなさい。その傲慢な偽りの救世主、元・奪衣婆のエバが、地獄の底まで真っ逆さまに叩き落として差し上げますわ!」


 かくして、新子は自ら『浄化の光』の罠へと飛び込むことを決意した。

 狂気と依存が渦巻く新興宗教の闇。その深淵に潜む高位悪魔との、危険な心理戦の幕開けであった。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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