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冥府令嬢の天秤2 〜傲慢な悪魔は丸裸(フォーマット)ですわ!元・奪衣婆令嬢、二人の最凶イケメンに溺愛されて現世を無双する〜  作者: たくみふじ
第一章 心を操る影と寡黙な盾

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死神ボディガード、土出真羽人㈡

傲慢な悪魔の嘘、天秤で丸裸(フォーマット)にしますわ!元・奪衣婆令嬢の華麗なる無双劇

 新子が杖を高く掲げると、先端の天冥石から放たれた紫色の光が、部屋中を埋め尽くす黒い靄を容赦なく射抜いた。


『ギィィィィィアアアアッ!』


 悪魔が鼓膜を破るような断末魔の叫びを上げた。

 新子によって自らの()り所であった「宿主の欲望の本質」を完全に暴かれたことで、悪魔と神代零を繋いでいた不可視の契約の鎖が、音を立てて砕け散っていく。現世の(ことわり)から弾き出されかけた悪魔は、必死に神代の魂にすがりつこうと無数の触手を伸ばした。


「往生際が極めて悪いですわね。……そんなに現世の居心地がよろしいのかしら?」


 新子は氷のような冷ややかな視線を向け、杖の石突きで床を鋭く叩いた。

 その瞬間、神代の足元に、燃え盛るような紫色の魔法陣が展開された。新子の『奪衣婆』としての絶対的な権能が、空間そのものを冥界の裁き場へと変質させていく。


「他人の心を覗き見し、己のちっぽけな優越感と支配欲を満たすために無実の人間を破滅に導いた罪。……その傲慢の衣、一枚残らず剥ぎ取りますわ!」


 新子が杖を水平に()ぎ払うと、紫色の瘴気(しょうき)が鋭い刃となって悪魔の巨体を切り裂いた。

 メリメリと、何かが根こそぎ引き剥がされるような不気味な音が部屋に響き渡る。神代の背中にべったりと張り付いていた黒い靄が、まるで汚れた衣服を乱暴に脱がされるように、彼の肉体から強制的に分離させられていく。


『バカな……! 我々は、高位の存在……! こんな人間の小娘ごときに……!』


「黙りなさい。あなたはただの、醜い寄生虫ですわ」


 新子の冷酷な宣告と共に、悪魔の思念体は完全に神代の魂から剥ぎ取られた。空中に引きずり出された黒いヘドロのようなコアは、紫色の炎に包まれ、バチバチと激しい音を立てて燃え上がっていく。

 やがて、光の粒子が爆発的に弾け飛び、悪魔の存在は現世から完全に消滅した。

 浄化の光が収まると、部屋には静寂だけが残された。

 ()き物が落ちた神代零は、白目を()いて床に崩れ落ち、そのまま糸の切れた操り人形のようにピクリとも動かなくなった。彼の魂を(むしば)んでいた悪意は消え去り、同時にここ数週間の異常なカウンセリングに関する記憶も、悪魔の消滅と共に綺麗に消去されているはずだ。


「……ふう。これで一丁上がり、ですわね」


 新子は小さく息を吐き、手元の杖を光の粒子に変えて消滅させた。

 激しい霊力の行使により、人間の肉体はひどく疲労していた。膝が微かに震え、胃の奥底から猛烈な空腹感が込み上げてくる。しかし、新子は令嬢としての矜持(きょうじ)を保ち、背筋を伸ばして荒れた室内を見渡した。


「お見事な手際でした、お嬢様」


 部屋の隅で、ずっと友枝希海を押さえつけていたマウトが、淡々とした声で称賛の言葉を述べた。彼の声には相変わらず一切の感情が含まれていないが、その無機質さが今の新子には妙に心地よかった。


「ええ、ありがとうマウト。あなたがいなければ、白檀の香りに当てられて私が先に倒れていたかもしれませんわ。……希海先輩の様子はどう?」


 新子が歩み寄ると、マウトは希海の身体を拘束していた腕を静かに解いた。

 希海は床に倒れたまま、数度ゆっくりと瞬きを繰り返し、やがて焦点の合っていなかった瞳に本来の理性の光が戻ってきた。


「あれ……? 私、どうしてこんなところに……? ここは、神代先生のクリニック……?」


 希海が困惑したように身を起こし、破壊された巨大なガラス窓と、床に倒れている神代の姿を見て息を呑んだ。


「きゃあっ! せ、先生!? それに、窓が……! 一体何が起きたの!?」


「落ち着いてくださいませ、希海先輩」


 新子は優しく微笑みかけ、希海の前に膝をついて彼女の震える手を握った。


「先ほど、神代先生のクリニックに不審者が押し入ったのです。先生はあなたを(かば)って怪我をされてしまいましたが、命に別状はありませんわ。私のボディガードであるマウトが、不審者を追い払ってくれましたの」


 新子は流れるように美しい嘘を紡ぎ出した。

 悪魔狩人としての存在は完全に秘匿しなければならない。ましてや、希海自身が悪魔の催眠に操られ、無意識のうちに自殺を図ろうとしていた事実など、彼女の精神衛生上絶対に知らせるべきではなかった。


「不審者……? そうだったの……。私、カウンセリングの途中で急に強い眠気に襲われて、何も覚えていなくて……」


「ええ、怖い思いをさせてしまいましたわね。でも、もう大丈夫ですわ。私が責任を持って、先輩を大学までお送りいたします」


 新子が微笑みかけると、希海は安堵の涙をポロポロとこぼし、新子の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。

 その様子を、マウトは一歩引いた場所から氷のような瞳で静かに観察していた。彼の脳内では「対象者の保護完了。お嬢様の精神的安定を優先し、現場の速やかな撤収を推奨」という冷徹な計算だけが弾き出されている。

 そこへ、開け放たれたままの扉から、セトとサラが足早に飛び込んできた。

 二人は破壊された窓と、床に転がる神代を一瞥(いちべつ)し、すべてが終わったことを瞬時に悟った。


「結界の気配が完全に消えたから突入したけれど……。随分と派手にやったね、エバ」


 サラが呆れたようにため息をついた。


「私のせいではありませんわ。そこの無骨なボディガードが、力任せに窓を粉砕したのです。……ですが、おかげで厄介な香りは吹き飛びましたけれどね」


 新子がマウトを顎でしゃくると、セトは驚いたように目を丸くした。


「ボディガード……? エバさん、彼はまさか……」


「ええ。お祖父様に……いえ、閻魔大王様に勝手に派遣された、冥界の死神ですわ。名前は土出真羽人。これからは、私の専属ボディガードとして菱倉家に常駐することになりましたの」


 新子の紹介に、マウトはセトとサラに向かって深く、そして機械的なお辞儀をした。


「土出真羽人と申します。お嬢様の安全を脅かすあらゆる障害は、私が物理的に排除いたします。以後、お見知りおきを」


「……死神を現世のボディガードにするなんて、あの閻魔大王も相変わらず無茶苦茶をやるねえ。まあ、感情のバグがない死神なら、悪魔の精神攻撃の盾としてはこれ以上ないほど優秀だろうけどさ」


 サラが肩をすくめて苦笑した。

 悪魔狩人の掟において、他者と利害関係を超えた信頼を築くことは禁じられている。しかし、マウトという存在はそもそも「感情」を持たない完全な道具であるため、掟のグレーゾーンを突いた絶妙な配置とも言えた。


「セト、サラ。後の現場の処理はお任せしてもよろしくて? 私は希海先輩を連れて、この場を離れますわ」


「ええ、承知しました。神代の記憶処理と、警察への適当なカモフラージュはこちらで手配しておきます。エバさんは先輩を連れて、安全な場所へ」


 セトが頷くと、新子は希海を優しく支えながら立ち上がった。


「行きましょう、先輩。夕子が大学で心配して待っていますわ」


「うん……。ありがとう、新子ちゃん。なんだか私、長い悪い夢から覚めたみたいな気分だわ」


 希海はまだふらつく足取りながらも、憑き物が落ちたような晴れやかな表情で微笑んだ。

 その笑顔を見て、新子の胸の奥に温かいものが広がる。冥界の無機質なシステムの中では決して味わうことのなかった、誰かを救い、誰かに感謝されるという人間らしい喜び。

 この感情こそが、宇宙の調和を乱す不確かな『愛』なのだとわかっていても、新子はこの温もりを手放すことなど絶対にできなかった。

 洋館を出て、冷たい冬の夜風に吹かれながら、新子はマウトと共に元町の通りを歩いていた。

 希海はすでに、手配した菱倉家の黒塗りのベンツに乗せて大学へと送り出している。


「お嬢様。本日の任務、ご苦労様でした。エネルギーレベルが低下していると推測されます。速やかな栄養補給を推奨いたします」


 マウトが背後から、相変わらず抑揚のない声で進言してきた。


「ええ、わかっていますわ。……ねえ、マウト。あなた、少しは人間の感情というものを学習する気はないのかしら? せっかく現世に来たのに、それではロボットと同じですわよ」


 新子が振り返ってからかうように言うと、マウトは(わず)かに首を傾げた。


「私に感情は不要です。冥府の秩序を維持し、お嬢様をお守りする。それが私の存在意義のすべてであり、それ以上の変数エラーは任務の妨げとなります」


「……可愛げのない男ですこと。まあいいわ、その鉄壁の無表情が、今の私には丁度良い盾になりますからね」


 新子はふっと微笑み、再び前を向いて歩き出した。

 心優しい友人たち、冷徹な死神の盾、そして、自分を狂おしいほどに溺愛してくる二人のイケメン。現世での生活は、ますます騒がしく、そして予測不可能な混沌へと向かっている。

 しかし、元・奪衣婆のエバは、その混沌を誰よりも優雅に、そして強かに楽しんでいた。


「さあ、帰りますわよマウト。夕子と真喜さんが、駅前のカフェでパンケーキを山積みにして待っているはずですからね。悪魔狩りですり減ったカロリーは、完璧に補給しなければなりませんわ!」


 新子はヒールの音を軽やかに響かせながら、夜の街へと消えていった。

 彼女の華麗なる暗躍により、元町を覆っていた悪意の影は一つ取り払われた。だが、これはこれから始まる壮大な事件簿の、ほんの序章に過ぎないことを、彼女はまだ知る由もなかった。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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