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愚かな君に、花束を  作者: ヤマネ狐
第二章【女子大生連続殺人事件】

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夢の残滓のようなもの

 智たちが立ち去った後、俺は最後の力を振り絞って、二人の墓石の前まで這ってきた。

 そして片方に背中を預けた。


「まったく……智はあんなにも往生際が悪かったか?」


 いやこれでも遺伝なんだろうな。

 なあ、そうだろ?

 問いかけても当然、返事は返ってこない。

「時間まで懐かし話でもするか……」

 例えば、怪しげな洋館で起こった密室殺人の話。

 例えば、ハワイ島に行くまでに遭遇した航空機ジャックの話。

 例えば、フランスで演じられた大怪盗との追走劇。

 俺は思いつく限りの話を語った。


「足が竦むような経験を何度もした……だけど、お前たちと一緒だったから俺は無事に乗り越えられた……」


 あの日の後悔を思い出す。


「すまなかった」


 その言葉が何も意味をなさないのは身に染みている。染み込みすぎて心が崩れ落ちそうなほどわからされている。

 だけどつい口をついて出てしまうんだから、仕方ないだろ?


「あぁ……俺はお前たちの隣に立てる人間でありたかった」


 多くを潰した。多くを葬り、多くを無くした。

 いつだって他者のために奔走していたあの二人とは違う––––俺は全ては己のために、自己の利益のために。

 だからせめて人生の最後くらいはお前たちの隣に立てるように……、俺は警察官の責務を全うするとしよう。

 あいつならきっと気づいてくれる。智……お前ならやってくれると俺は信じてる。

 墓石の根本の地面を撫でて俺はそう確信する。

 少し……疲れたな。

 気怠そうに頭を傾けると、そこには憎いくらいの青空が広がっていた。

 海猫は呑気に笑ってる。遠くの海で轟く船の面影が揺蕩った。

 そうしていると、ゾロゾロと人の気配が集まってくる。

 智たちじゃない、ゴタゴタの装備に包まれた怪しげな連中。その中の白衣の裾を靡かせる男が一際目を引いた。


「おやおや、随分な有様ですね。助かる見込みはありませんが……どうでしょう、もう一度私の研究に付き合ってみませんか?」


 あなたが望む願いを叶えて差し上げますと、男は手を差し伸べてくる。


「お断りだ」


 振り払うことはできないから、強い言葉を吐きつけた。

 男はしばし悩んだ挙句、


「残念です、あなたは優秀だったんですがね……」


 長年付き添った道具を躊躇いがちに捨てる時ような瞳で俺を見つめ返した。

 この男からしたら俺たちはどれも道具のようなものだ。よくて自分が生み出した研究成果。人間としてみられることは一片もない。

 それは俺が手を下した富川だってそう……。

 再利用が効かないとわかった道具に興味さえも失った男は、そそくさと踵を翻すと、後ろ手に片手を振ってこう言った。


「そいつの頭以外はいらないから。それに目障りだし、輪郭さえも残らないように消しちゃって……」


 俺を取り囲んでいた集団は指示通り、頭以外のこの身体が原型をなくすまで弾を吐き出し続ける。

 四肢は捥がれ、内臓が外界に漏れ出し、骨が露出した。

 それらの存在一つさえ存続することを認めず、弾丸の雨は止むところを知らない。

 至る所で血飛沫が上がる。芝生の緑を澱んだ赤が侵していく。

 そのまますべてがアカにソマればイイ。

 そうスレば、ヤツらはゼッタイにキヅかない。

 この身が肉片一つに成り果てようと、智に貢献できることが出来て、俺はとても嬉しかった。

 後悔はない。

 ……ないはずだった。

 智の泣き腫らすあの表情を見るまでは……。

 少しだけ未練ができてしまったようだ。

 あいつの我儘、最後に一度くらいは叶えてやりたかった。

 親友の息子に優しいだけの、ただのおじさんとして……、

 最後くらいは……、

 あぁ、これは夢の残滓だ。

 現実じゃない、走馬灯に似た白昼夢。

 娘がいて、俺がいて、智がいて、二人がいて。全員が仲睦まじく笑い合っている。

 信子が智に駆け寄った。またぞろ無理難題を吹っかけているらしい、その横では俺が二人から難題を押し付けられている。

 まったく、困った幻想だ。

 だが、例え夢であったとしても、最後に見れた光景がこれで、本当に、よかった。


 最後までお付き合いいただきありがとうございます。

 これからも応援してくださると嬉しいです。


 現在、『宵星館』という作品を執筆中です。

 ぜひ、こちらも一緒に、お楽しみください。むしろ、『宵星館』の方に意見やコメントしていただけるとありがたいです。

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