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愚かな君に、花束を  作者: ヤマネ狐
第二章【女子大生連続殺人事件】

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初めまして新たな居場所、さようならつぎはぎの居場所

 行動に移る前にやっておかなければならないことが一つだけあった。

 僕は五日ぶりに屋敷へと帰ってきた。え? 二日じゃないのかって? それは聞かないお約束だ。

 真相を語るとしても、ただ不貞寝をしていたなんて恥ずかしくて言えないでしょう?

 久しぶりに開いた玄関の扉は少し重たく感じた。

 エントランスを抜け奥の扉の先の廊下を渡って、キッチンの扉の前に立った。

 時刻は早朝、本来なら誰も起きていない時間帯だ。

 だが、扉の向こう側からは頻りに物音が絶えない。

 意を決し僕はドアノブに手をかけた。


「よお、智。ちょうど五日ぶりだな」


 台所の前には白髪青目の少年がぶっきらぼうに佇んでいた。


「どうして君がここに?」


 てっきり華車がいるものだと思っていた。あの人、僕がいない間、この屋敷の家事全般は任せろって息巻いていた気がするが……。


「どうしてって見た通り、朝食を作ってるだけだが?」


 そう語る彼の手元には、スクランブルエッグ(?)ににているだけの物体が存在感を放っていた。

 いやいや、そう言うことを聞きたかったんじゃなくて、


「というか君、久しぶりって嘯いているけど、今朝まで僕の家にいたこと、僕が気づいてないとでも思ってるのか?」


「……ぐっ‼︎ バカな完璧に隠れていたはずなのに!」


 確かに伯闇くん並に気配を遮断できてはいたけれど、証拠を残し過ぎた。


「冷蔵庫の中の僕のパフェ勝手に食べただろ? その代わりと言わんばかりにプリンを置きやがって、すげ替えるのだとしてもパック売りの小さいやつじゃなくて、個別売りの大きいやつを買えよ!」


「そうは言うが、あの時美味そうに食ってたじゃないか〜‼︎」

「美味そうに食べて美味過ぎて、四個入りのプリンを三つ食った君には言われたくない」

「見てきたようなことを〜‼︎ 確かにそうだけど」


 確かにそうなんかい! いやまあ、夜光のことだからどうせ、お詫びとしてパックのプリンを買ったものの一個くらいならいいかなって思って手を出したらあと一つを残して全部食べてしまった、なんてことになったことくらいお見通しさ。


「幼馴染舐めんなって話だよ」

「……」

「……」

「……おい、智」

「……なんだよ、意見があるなら言えよ」

「……っ! やっぱ俺たちはいい幼馴染だな」

「勝手に肩を組むな! やめろ暑苦しい!」

「そう言うが本心じゃ喜んでるくせに〜。ほれほれ〜」

「……やめてって」

「ほれほれ〜〜」

「やめろ」

「ほれほれほれほれほれ〜〜〜〜〜」

「……や! め! ろ! って! 言ってんだろうがこの野郎!」


 あまりのしつこさに耐えきれず、僕は思いっきり彼の後頭部に腕を振り下ろした。


「痛っ⁉︎ テメェ! 手出しやがったな!」

「馬鹿丸出しの君がわるい!」

「誰が馬鹿っだって⁉︎」

「誰ってここに相手は一人しかいないでしょうに?」

「はい、俺の硬いと噂の堪忍袋の緒が切れました! プッチーン」

「そんな馬鹿みたいな擬音を使うから馬鹿って言われるんだ」

「何を!」

「これしき!」


 二人して互いに睨み合って、––––どちらともなく破顔した。

 二つの笑い声が早朝の屋敷に木霊する。


「あはは」

「くふふ」


 ほんと、何やってんだか。

 まったく、とことん僕たちってやつは、愚かだ。

  

         ♦︎ 

 

「準備は……もういいのか?」


 手にしていたフライパンを僕に委ね、リビング側のカウンター席に回り込んだ白髪の少年は、五日ぶりにこのキッチンに立った僕を眺めて言った。


「あぁ、この五日間僕を監視していた君ならわかると思うけど。先週、僕だけに挑戦状が送られてきた。内容は……」

「お前の両親を殺した真犯人を見つけろってやつだろ?」

「その通り、だけどここで注意しておきたいのが、期限が秘密と書かれていること。下手したらあと五分後が期限に設定されていたりする可能性がある」

「そりゃ恐ろしい。それで、これから俺たちはどうする?」


 もちろん、そんなのは、この挑戦状を踏破する、一択だ。


「今日この日なら、真犯人がどこにいるか心当たりがあります」


 そこで何をしているのかも。


「そうか……すぐ出るか?」

「いえ、時間には余裕があります。きちんと支度を整えてから全員で向かいましょう」


 そう言って僕は夜光に笑いかける。


「どうせ、隣の暖炉室に皆さん集まってるんでしょ?」


 それは彼の口許にリンクする。


「ご明察!」


 夜光がそう告げると、一思いにリビングの扉が開け放たれる。

 隣の部屋で待機していたと思われる十人がゾロゾロと部屋の中に流れ込んだ。


「お久しぶりっす雨宮さん」

 軽い会釈を交えながら伯闇くん。


「智くん! ようやく帰ってきてくれて私嬉しいです!」

 涙ぐんで喜ぶ門耳さん。


「ふーん、どうやらその様子を見るに蟠っていたもんが取れたっちゅうわけやな、安心したで雨宮クン」

 ひょうきんに嘯く尼水くん。


「あら、元気そうなのね雨宮くん。元気がないなら新薬の実験台になってもらおうと思っていたのだけど……」

 懐から注射器を覗かせる篠桃さん。


「無事で……よかった……おかえり、雨宮くん」

 辿々しくだがはっきりとした声の夢里くん


「咲くんが褒めてあげたんだから、きちんと全身で喜びを体現しなさい!」

 高圧的に、でもいつもよりは抑えめの望月さん。


「随分とスッキリした顔をされてますね、雨宮さん」

 美しく丁寧な所作の深山さん。


「なんか、うちだけ随分と久しぶりの出番じゃない?」

 訳のわからないことを口ずさむ七瀬さん。


「雨宮くん、私、やって思ったんですが、この屋敷の家事って一人でやるようなものじゃないですよね」

 ようやく気づいたか、華車くん。


「屋敷を出ていくのはいいけど、今度からはきちんと相談してほしい」

 ハリセンボンのように頬を膨らませる四ノ葉さん。


 そして、


「ここまで来たら、俺が大トリだよな!」

 元気に立ち上がる夜光。


「改めて聞くぜ智! 俺たちはこの後、どうするんだ?」


 時間にはまだ余裕がある。

 それに、ここ最近、全員が顔を合わせる機会が皆無だった。

 なればこそ、この時間に僕らがするべきことは一つのみだ。

 僕は胸に思いを込めて解き放つ。


「みんなで一緒に朝ごはんを食べましょう!」


 今朝の献立は、何にしよう。

 僕だけじゃ決め切れないから、みんなで決めることにしよう。

 だって僕たちは【十二人の使徒】。それぞれの思惑は違っても、今は手を取り合う仲間同士である。


「食べたい料理を一人一つずつ言ってください! 特別です、超特急で作り上げます!」


 さて果て、一体どんな注文が飛び出すやら。

 心配しながらも、どこか楽しみにしている自分がいた。

 長く自分の居場所はあの日に失ったんだと思っていた。

 だけど違う。

 そもそも、居場所なんて誰かに与えてもらうものじゃなかった。

 自分自身で得るものだった。

 どれか一つに決めるなんてナンセンスだ。

 ああ、認めよう。

 ここがもう一つの僕の居場所だった。


 最後までお付き合いいただきありがとうございます。

 これからも応援してくださると嬉しいです。


 現在、『宵星館』という作品を執筆中です。

 ぜひ、こちらも一緒に、お楽しみください。むしろ、『宵星館』の方に意見やコメントしていただけるとありがたいです。

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