根源
まず初めに訂正と謝罪だ。
俺がその昔に同級生たちからの虐めに遭っていたことは話したよな?
そうだ初めて会ったあの公園で話した話だ。
あの終幕だが、ありゃ嘘だ。真っ赤の嘘……、とまではいかないが、俺を庇った女が自殺したってのは作り話だ。自殺したってのが嘘だ。
それじゃあ、俺が虐められるきっかけになった出来事から話そう。
そうあれは何気ない出来事だった。虐めの加害者の女がやりたがった係の仕事を、俺が任せられたことがことの原因だった。
それからは話した通りさ。
初めは文房具を隠される程度の嫌がらせが、段々エスカレートしていき、殴る蹴るの暴行にまで発展した。
それに見かねて俺たちの間に割って入ったのがもう一人の被害者の女。
あの正義感に憧れたってのは嘘じゃない。そうだな白状するならあの瞬間、俺は彼女に惚れたんだろうさ。
事件が起きたのはそれから間も無くのことだ。
毎度の如く、見せ物のように殴る蹴るの暴行を受けていた俺は無抵抗のままされるがままになっていた。そこへあの女が駆けつけた。
教室の光景を見たあの女は、加害者のリーダー格に噛み付いた。ああ、これは文字通り噛み付いたんだ、相手の腕にな。イカれてると思ったよ。でもそれだけ怒ってたんだ。
それに逆行した加害者の女は、噛み付くあの女を突き飛ばした。
運が悪かった。後ろに倒れ込んだあの女は机の角に後頭部をぶつけ動かなくなってしまった。そりゃあ教室中は大騒ぎさ、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
だがそれでも加害者の女の気持ちは晴れなかった。
頭に血が上った奴は憂さ晴らしすべく、俺の頭を掴んでは、何度も何度も机に叩きつけた。そうだ、この時だ、俺が自分の両眼を失ったのは……。
それからすぐに、教室に教師が駆け込んできて、救急車と警察が呼ばれた。目は潰れはしたけど、耳は生きていたから事態がどのように推移して行っているのかは把握できた。
その後、救急車であの女と一緒に俺は病院に運ばれた。
医者に言われたよ。君の目が元通りになることはないって。君はもうその目に光を映すことはできないって。
悲しかった。悔しかった。憎らしかった。この世の全てを恨んだ。
あの女が死んだことを知らされたのはそれから数日経ってのことだった。いや詳しく言うなら、死なされることを、か……。植物人間となり、俺の両目同様、元に戻らないと知った彼女の両親は、自分たちの娘を永遠の眠りにつかせることに同意した。
それからすぐだ、もしかしたらその当日中だったかもしれない。
あの人が俺の前に現れたのは……。
奴は俺に提案した。「私の研究に手を貸さないか」と、そうすればお前の今一番叶えたいと思っている願いを叶えてやると。
悪魔かよと思った。いや実際のところ奴は悪魔だった。
俺はそんな悪魔と契約を結んだ。
その結果、俺は暗闇の世界から脱却することができた。
確かに俺の両目は潰されたはずなのに……。
俺と世界の架け橋になったのは、あの女の両目だった。
あの人は、病室で殺されてすぐの彼女の死体から両眼を抜き取り、俺に移植したんだ。
それを知らされて感じたよ。
あの人への恐怖……いやそんなものは一切感じなかった。ただ俺は感じていた。
彼女が見ていた世界はなんて美しいのだろう、と。自分の瞳を介して見ていた世界とは、まったく違う異なる世界が広がっていた。
俺は感動していたんだ。
だからって、俺はこんなことをしはじめたわけじゃない。だってそうだろ? 『女子大生連続殺人事件』はつい最近になって起こっている事件なんだから。
視力が回復して元の生活ができるようになりかけてきた頃、事件以来。加害者の女が退学処分になったことを担任から教えられた。
正直言ってどうでも良かった。俺自身もう学校に行く気力は底を尽きていたんだからな。
だがそれを聞いて、少し清々したのは確かだった。
それからの日々はとても平穏なものさ。
憧れた少女になりたいと、あの少女が見たかったであろう世界を彼女の瞳に映してやりたいと、そう思って俺は正義を、警察官を目指した。
あれ以降、学校には行ってなかったから独学で勉強していた。
努力して努力して努力した。
その結果、俺は晴れて警察官になることができた。嬉しかった満たされていた。
……だが、あの日それが一転する出来事に出会った。
幸せそうに笑っていた。
自分のしてきたことを棚に上げて幸せそうに笑っていたんだよ。
街中のパトロールをしている時、俺はそんな奴の姿を見てしまった。穢れなきこの眼に汚れた存在を映してしまった。
消え変えていた憎しみの炎が再燃した。この身を焦がすほどの熱量で燃え上がった。
そんな時だった。再びあの人が俺の前に現れた。そしてこう言うのだ、研究に協力しないかと、そしたら願いを叶えてやろうと。
今度こそ迷いなく頷いた。
俺はあの人から簡単で綺麗に眼球を取り出せる装置を譲ってもらった。あの人はそれを実験品と言っていたけど、その機能は予想を遥かに超えた。
そして、俺は初めて人を殺した。
憎きあの女を殺した。
殺す前に譲り受けた装置を使って眼球を取り出してやった。凄かった。
ごめんなさい。許してくれ。助けてください。この世の懺悔という懺悔の言葉をそこで聞いた。胸が高揚した、あの瞬間、確かに俺は笑っていた。
それからは、どうやったらこの女がもっと苦しんで死ねるかをひたすらに研究した。
指先の骨を折ってみた。これはイマイチだった。泣き声に関しては百点だったが自分で苦しめている感覚がなかった。
次に刃物でアキレス腱を切り裂いた。これも自分でやってる感じがしなかった。
すぐ死なれては困るためきちんと止血をした。
そうやって試行錯誤していく中で、ようやく納得のできる殺し方を見つけることができた。それが、首を絞めることだった。
初めは軽く、そこから徐々に力を込めていき、絞り上げるように絞めていく。すると掌の皮膚に相手の苦しみが震えとなって返ってくるんだ。
耳で感じ、目で感じ、肌で感じることができた。五感のうち三つでやつが苦しむ姿を楽しめたんだ。そのまま、俺は首を締め上げ奴を殺した。
死体が残ることすら嫌だったので、あの人に頼んで酸で全身を溶かしてやった。
手元にはあいつから奪った目玉だけが残った。初めはこれをこの手で潰そうと思っていた。だが、あの人が俺に提案したんだ。その目を着けて見ないかって。
初めは断った。だが断っているうちになんだか気になって、結局、付け替えてもらうことにした。
結果から言わせてもらうよ。
あの憎き女が見ていた世界は、美しかった。
俺はここで学び得た。
どんな人間でも見ている世界は美しいものだと。
さらにそれは俺の知的好奇心を刺激した。もっと他の美しい世界を見てみたい。他の人間の世界を見てみたい。
そうして、俺は無関係の人間の女から目玉を奪った。彼女の世界も美しかった。
たまたま、その女が女子大生だった。
それからはなんとなくだ。
なんとなく、女子大生から奪った瞳だったら個性豊かな美しい世界を見えると思って、なあなあで女子大生から目玉を奪い続けた。
そして気づいたら、俺のコレクション活動に名前が付けられていた。
『女子大生連続殺人事件』と。
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
これからも応援してくださると嬉しいです。
現在、『宵星館』という作品を執筆中です。
ぜひ、こちらも一緒に、お楽しみください。むしろ、『宵星館』の方に意見やコメントしていただけるとありがたいです。




