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愚かな君に、花束を  作者: ヤマネ狐
第二章【女子大生連続殺人事件】

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線となれ

 週が変わってからというもの、僕は一週間ほど休んでいた学園に復帰し、学生としての本分である勉学に勤しんでいた。


 しかしだからと言って、僕は事件の解決を諦めたわけではない。

 ではなぜこんな呑気なことをしているのか。

 ……それはただ僕に取れる行動がなくなった為である。


 と言うのも、これ以上過去の事件現場を訪れ見聞したり、またあるいは監視カメラの映像と睨めっこしたりしていても、すでに情報は絞り尽くされているのだから、無駄に時間を浪費するだけになってしまう。


 確かに僕は【名探偵】であるけれど、同時に私立天白学園の学生でもある。【名探偵】としての業務ができないのであれば、学生としての業務を果たすべきなのだ。


 単純な消去法の話。

 そういう訳で、今僕は生徒会室にて溜め込んだ仕事を淡々とこなしていた。


「なぁ、智。事件も解決していないのに俺らこんなことやってていいのか?」


 もちろん、会長の事務机には生徒会長の姿があり、頬杖をついて暇そうにしていた。


「これ以上捜査したってどうしようもないんだから、今やれることをやっておかないといけないでしょ?」

「そうは言うが、このままいけば、あと数日で俺らの四肢は胴体とおさらばするんだぜ」


 ついでに俺たちの魂もこの世とおさらばさらばしちゃう、と彼はぼやく。

 でも、だからと言って、挑戦状ばかりにかまけてなんていられない。明日生きるか生きられないかの問題と、今後続く僕らの人生はまったく関係のないことだ。


「確かに夜光の言う通り、事件を解決することが大前提に掲げられる目標だけど、だからってそこで僕らの人生は終わらないだろ? そりゃあ死んでしまったら後に何も続くものはないんだろうけどさ。明日を生き抜くために僕らは挑戦状に立ち向かっているんだから、きちんと明日以降のことも考えないといけないだろ?」

「それもそうだが………お前はあの日の真相を知りたくはないのか?」


 あの日とは、僕らの肉親が亡くなった日のこと。『明星カンパニーホテル爆破事件』のことを指している。そこで彼らは確かに死を遂げ、だが、遺体は見つからないままである。

 僕が名探偵を続け、夜光が怪盗家になった理由にして、最終目標。

 夜光に言われるまでもない、そんなの知りたいに決まっているじゃないか……。僕だってあの日の真相を知らないまま死にたくはない。

 だけど、どうしたって今の情報だけじゃ、犯人を特定するに至らないのだ。まるで犯人が深い霧のヴェールにでも巻かれているようで輪郭だけしか掴めない。

 正体不明とはまさにこのことである。

 ………。

 ん? ………正体不明?

 正体不明の存在といえば僕の知る人に一人だけ心当たりがある。と言うかそれは、今現在言葉を交わしているこの白髪青目の少年––––星亰夜光であった。


「そう言えば夜光はさ、どうやって警察の目から身を隠しているの?」


 夜光が怪盗活動をする際に、生体情報など物的証拠となるものを極力現場に残さないよう、全身を特殊なスーツで覆っているということは以前にも言及したことがあるが。

 それ以外の証拠、特に映像での証拠について、如何にして無効化しているのか。

 僕は依然として知らなかった。


「隠すと言うよりは偽っていると言った方が正しいな! 途中までは怪盗衣装のまま警察の目なんかを引き付けつつド派手に逃げるんだが、監視カメラや人、警察の視線が途絶える瞬間を狙って変装をし終え、あとは堂々と街中を歩けばいいってなわけだ!」 


 なるほど、奇術師が手品を披露する要領と似たようなものか。

 目立ちたがり屋な性格の夜光の怪盗装束はとても派手だ。派手であるが故に目を引くし、追う側からしたら夜中でも比較的追いかけやすい。だがそこに落とし穴がある。


「人間の脳ってのは単純でな、目の前から物が消えたら直感的に隠されたと思ってしまう。だがそうではないとわかった途端、本当に消えたんだって思い込む。少し立ち止まって考えたらわかることも瞬間では思いつかない」

「なら、いつもどんな変装をしているの?」

「この格好だな!」

「制服⁉︎」


 息を巻いて胸をそびやかす彼に驚きを禁じ得なかった。


「下手な一般人を装うより、この格好の方が偽りやすいんだ。だって制服はある種の身分証だろ、そんな服を着たやつが犯罪者なんて誰も思いやしねぇよ」


 まあ、確かに彼が怪盗〈Vollmond〉であると知ってる僕らからすれば、その行為を大胆不敵だと評するのはもはや必然のことだけど、他の何も知らない者たちにしてみれば怪盗と高校生になんの因果関係があるのかと疑念を抱くはずだ。それも、犯行後に制服を着て街を闊歩しているなんて予想できるはずがない。

 透明になったわけでも瞬間移動したわけでもない。

 怪盗はそこにいた。

 ただそこにいた……。

 ……そこにいただけなのだ。


「……」

「どうしたんだ智、急に黙り込んで……。まさか犯人に心当たりでもできたか?」


 自分でも側から見て急だったと思う。目を見開いたまま押し黙る僕を見て、生徒会長はおちゃらけた調子で場を賑わそうと図るが––––


「………いや夜光、そのまさか…かも知れない」

「え……まじか‼︎」


 まじだよ。まじなんだ。


「そうだ……そうだよ。犯人に繋がる証拠がなかったわけじゃない。証拠はすでに揃っていた。ただ僕らはそれに気づいていなかったんだ!」

「ってことはまさか犯人は……」

「その通りだ」

「……!」

「犯人は……」

「––––新手の怪盗ってこと⁉︎⁉︎」

「……」


 いや、そんなわけあるか! どうしてそうなった……いやいや落ち着け僕、落ち着くんだ。深呼吸して心臓のリズムを整えろ、雑念をクリアにするんだ……。

 スーハースーハー深く息を吸っていると、机の上に晒していた携帯が音を立てながら脈動し出した。

 表示された画面を覗き込んだ夜光が僕を一瞥する。


「詠子ちゃんからじゃねえか……何かあったのか?」

「わからない、取り敢えず出てみるよ」


 そう言って携帯を構えると、僕の鼓膜へ慌てる少女の声が容赦なく飛び込んできた。


『もしもし⁉︎⁉︎ 智くん‼︎‼︎』


 彼女の声は大分うわずっていた。僕は少しだけスピーカーと距離を置く。


「もしもし雨宮ですが……」

『あの、その、突然大声で話しかけてしまってすみません……』

「僕は大丈夫ですけど、そちらの方は大丈夫ですか?」

『はい、今周りに人はいないので、誰にも迷惑はかけていません』


 迷惑って……僕は彼女自身を案じたのだけど。


『––––は! そうじゃなくて! そうじゃないんです!』


 気持ちが焦っていてなかなか思うように言葉を見つけられないでいる、桃髪の少女の声を聞いていて先ほどまでの興奮が嘘のように落ち着いていく。

 だが、ようやく門耳さんが口を開いた次の瞬間、鎮まりかけていた僕の心臓が再び早鐘を打ち始めた。


『私、今朝智くんからお聞きした人の名前に聞き覚えがあったんです! 聞き覚えというか見覚えと言った方が正確なのかもしれないのですが……ともかく私、新聞でその人のことを知っていたんです! それはとある事件について記されたもので、そして、その被害者はそこで両目を失っているんです‼︎‼︎』


 最後までお付き合いいただきありがとうございます。

 これからも応援してくださると嬉しいです。


 現在、『宵星館』という作品を執筆中です。

 ぜひ、こちらも一緒に、お楽しみください。むしろ、『宵星館』の方に意見やコメントしていただけるとありがたいです。

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