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愚かな君に、花束を  作者: ヤマネ狐
第二章【女子大生連続殺人事件】

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名探偵は斯く走り出す

 その後、おじさんから事情聴取を受け、解放されたのが深夜の二時だった。

 時間も時間だったのでおじさんが僕らを家まで届けると提案してくれたのだが、住んでいるところが住んでいるところなだけに、その厚意に甘えることはなく、華車の携帯で夜光を呼び出し屋敷に帰った。


 その朝、いつもの時刻に目を覚まして、朝食の支度をしていると、珍しく早起きしたらしい門耳さんがリビングに姿を現した。


「おはようございます智くん! 夕べは大変だったとお聞きしています!」

「大変だったって、一体どなたから聞いたんです?」

「それは……鬼灯ちゃんですよ。あの子、えらく雨宮くんを心配していました」

「そうですか……他にはどんなことを話していたんですか?」

「えーっとですね、智くんの推理している横顔が素敵だとか、華車くんが羨ましいとか、あと夜光くんはいらないだとか、真面目そうな警察官の人の話、とかですかね!」


 随分とてんこ盛りで話してたんだな四ノ葉さん。


「真面目そうな警察官というのはおそらく富川巡査のことでしょうね」

「富川巡査? 富川何さんって言うんですか?」

「えーっと確か富川……ひでやす、さんだったかな。うん、富川秀康さんです」

「富川……秀康……」


 珍しい名前だと感じたのだろうか……、門耳さんはその名前を口の中で何度も反芻する。


「どんな人物なんですか?」

「見た目ですか?」

「見た目もですが、性格とか立ち振る舞い全般についてです」

「……そうですね彼の容姿は、中肉中背の二十代後半くらいで眼鏡をかけています。性格は至って真面目で心優しく、接しやすい人……でしょうか」

「ありがとうございます智くん! 鬼灯ちゃんの話を聞いていて気になっていたんです」


 喜んでくれたようで何よりだった。

 そうして門耳さんとの雑談に興じていると、静かにリビングの扉が開いた。その先からは……これまた珍しい、ここ最近滅多に顔を合わせる機会がなかった少女が顔を出した。


「おや、雨宮さんに詠子ちゃんではないですか、おはようございます、そして、お久しぶりです」


 ピシリと腰を折り曲げ洗練されたお辞儀を披露する彼女こそ、世界中の人間を魅了する天才ピアニストもとい––––【十二人の使徒】第十二席【演奏家】––––深山琴音。

 紫色の長髪を靡かせ、右と左とでは異なる輝きを持つオッドアイの瞳。眉目秀麗、才色兼備の彼女は、十二人の使徒の年長組にして、僕らのリーダー的存在である。


 ここ最近は、近日に控えた演奏会に向けて忙しくしていたため、屋敷には帰ってきていたものの、朝早くに出て夜遅くに戻ってくるというサイクルを続けており、なかなか会えない日々が続いていた。

 だがそれも、どうやらひと段落ついたらしかった。


「今日からはしばらく食卓を一緒にできそうですか?」


 僕がそう問いかけると、深山さんは美しい所作で返事を返した。


「そうですね、これからは演奏会当日を除いて、忙しくなるようなことはないと言っても構わないでしょうね」

「それは良かったです! 私、寝る前に琴音ちゃんの曲聴けなくて寂しかったんです!」

「そうなのですか? 詠子さんにそう言っていただけて、私とても嬉しいです! では今夜、暖炉室にて早めの演奏会を皆様にだけ特別にお披露目するとしましょう!」

「本当ですか!」


 咄嗟に両手で口を塞ぐが少し遅かった。桃髪の少女の大の歓声がリビング中に響き渡る。


「あっ、うぅ、大きな声出してしまってすみません! 私……私! 顔洗って出直してきます!」


 そう言うと、声をかける間もなく門耳さんはリビングを飛び出してまった。


「詠子ちゃんってあんなに足が速かったんですね!」

「記者としてのスキルの一つでしょうかね?」

「きっとそうですよ。たくましいですね」


 ……冗談で言ったつもりだったんだが、深山さんはそれに気づいた様子もなく賛同してくれた。

 どちらかと言うと記者としてよりドッジ子体質が過ぎるが故、自身に降りかかる危険を回避すべく自然と身についた機能なのではないかと、僕はそう分析する

 調理を進める僕をカウンター越しに見つめて、深山さんがゆっくりと口を開いた。


「今回の挑戦状の件、あまりご協力できなくて申し訳ありません。本来であれば私が率先して立ち向かわなくてはいけないところを……」


 紡がれたのは責務とか義務だとかの話。それを言うなら僕の方こそ不甲斐ない。


「そんなことないですよ。それに今回の挑戦状は僕と相性がいいですから……」


 仰々しく【名探偵】なんて肩書を持っちゃいるが、それに見合うだけの活躍は未だ果たせていない。事実はただそれだけのことなのだから、


「任せてください……この事件は必ず解決させますから!」


 だから、彼女が気に病む必要はないのだと、僕はそう告げる。

 その言葉が彼女の不安を拭うもので在れたのかはわからない。だが深山さんは、


「そうですか。それなら私は雨宮さんを信じさせていただきます」


 そう言って、上品に微笑んだ。

 大丈夫、君たちを死なせたりはしない。これは紛れもない僕の本心であり、君たちの健康を預かる者としての矜持のようなもの。

 それに、これは自慢じゃないが……、僕に解決できなかった事件は一つもないんだよ。

 だってそうだろ?

 

 僕は【名探偵】なのだ。


 最後までお付き合いいただきありがとうございます。

 これからも応援してくださると嬉しいです。


 現在、『宵星館』という作品を執筆中です。

 ぜひ、こちらも一緒に、お楽しみください。むしろ、『宵星館』の方に意見やコメントしていただけるとありがたいです。

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