僕ら
「夜光、皿の準備手伝ってくれる?」
一日で事件現場を二箇所巡った次の日の朝ということもあって疲れていたのだろう。
意識せず、ポロリと漏れた言葉だった。
刹那、ガシャンと耳を裂くような破裂音がキッチンに響き渡った。僕は何事かと音の方を振り返る。そこには皿を落とした手を所在なさげに晒している夜光が突っ立ていた。
「––––何をしてるの?」
「そ……そそそ、それはこっちの台詞だ‼︎‼︎ え、なになんかのドッキリ⁉︎ どうしてお前が俺にタメ口を聞いてる⁉︎⁉︎」
やべ。半分無意識に彼にあの態度で接していた。
「……。空耳じゃないですか夜光くん」
「なんだそうか空耳か、なら先にそう言ってくれ」
そんな無茶苦茶な。
「おや星亰くんがどうかしたんですか?」
「ああ華車、問題ないよ。ただぼーっとしていた夜光が皿を落としただけだから……」
「いや、空耳じゃねええぇぇぇ‼︎‼︎」
本腰を入れて叫ぶんじゃない。皿を落とした音といい、耳が痛いじゃないか。
「バッチリと聞こえた聞こえたぞ! それになんか菊野の呼び方まで変わってるじゃねえか! あの爽やか声の『菊野くん』は実家に帰省したのかな⁉︎⁉︎」
「そうなんです。あの優しい響きを湛えた声は、どこか遠くへ向かわれたんです……」
「そんなわけないでしょうに! これは華車がそうしてくれって頼んだから、こうしてるだけです1」
「俺が提案した時はあんなにキッパリ断ったのに⁉︎」
「あれは君が仕事をしていなかったのが悪い!」
「雨宮くんの言う通りね夜光、きちんと仕事をしないあなたが悪い」
「ほら、四ノ葉さんだってそう言ってるじゃないか」
「そう言ってた鬼灯ちゃんは今、とても不満そうにしているが?」
チラリと隣を見下ろす。確かに彼女の頬が膨れ上がっていた。
「どうしました? 朝御飯ならあともう少しで出来ますから少し待っててくださいね」
「ああ、なんでお前火に油を注ぐ……」
火に油? 夜光、君は何を言ってるん––––
「痛ッ‼︎‼︎ 痛い痛い四ノ葉さん、つねらないで脇! 脇をつねらないで!」
予想外からの攻撃だった。
そんなわちゃわちゃとしているキッチンに一本の電話が鳴り響く。
……嫌な予感がする。
案の定、おじさんからだった。通話に出た僕はおじさんからの説明を一方的に受ける。
通話を終えて携帯を元の場所に戻すと、華車が僕を見据えて問い掛けた。
「新たな事件でしょうか? 名探偵」
「その通りだ、助手くん」
僕は徐に首を縦に振った。
「私も行かせて」
と、四ノ葉さん。もちろん断ることはしない。
「現場はどこだ? 確か事件は江ノ雌那で起こってんだろ? 俺が連れてってやる」
車の鍵を指先で回して夜光が言う。ありがたい申し出だ。
一人だったのがいつの間にか四人にまでなって、僕が大きな僕らへと変わっていた。
そして僕らは夜光の車に乗って屋敷の門を飛び出したのだった。
「そう言えば、星亰くんって車の免許持ってるんですか?」
「馬鹿言え、免許なんてなくても車は運転できるだろうが! な、智!」
「頼むから二人とも黙っててほしい」
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