光明が差す
「ありがとう、ふたりともなんか話を聞いてもらえて、少しスッキリした気がするよ。おかげでやる気もみなぎってきた」
本日の午後から出張の予定があった富川さんは腕時計を一瞥すると、公園の外に止めてきた自転車に駆け寄って、黒革のサドルに跨った。
「不思議だな。確証はないけど、君たちとはまたどこかで出会う気がする」
「私もそんな気がします!」
「ええ、次にお会いできる時を待ち望んでいます。その時が事件でないことを祈るばかりですが……」
「はっはっは。それもそうだ!」
富川巡査は力強くハンドルを握りしめ、
「それじゃ、雨宮探偵と菊野助手。また会おう!」
それだけ言うと、思い切りペダルを踏み込みがたんと車体を揺らして、そのまま振り返ることなく去っていってしまった。
坂道の向こうに背中が消えるのを見届けて、隣で菊野くんがポツリと呟いた。
「将来が有望な警察官でしたよね!」
「そうですね。警察関係者全てが富川巡査のような人なら、どれほど良かったことか」
「おやおや、雨宮くんにしては随分と辛辣なことを言いますね。警察の方と何かあったんですか?」
そう言えば、監視カメラの話を彼にしていなかった。
僕は昨晩おじさんから捜査資料の添付ファイルとともに送られてきたメールの一部を、菊野くんに伝え聞かせた。
「なるほどなるほど……そんなことがあったんですね。いや〜雨宮くんも、好かれたものですね」
「それ褒めてるんですか?」
「もちろん! 全世界の皆さんが雨宮くんの輝かしい威光を前に、地にひれ伏す光景を毎晩夢に見ますよ」
なんだそれ⁉︎ ちっとも嬉しくない。
というか、もはや悪夢じゃないか!
「勿論のこと、そんな雨宮教の信者たちを束ね、正しく導くのが助手である私の使命であり業務です」
それは助手じゃなくて、もう教祖だよ。
なんなら、助手よりも強そうじゃないか。
そんな軽口を言い合っているところに、携帯の着信音が鳴り響いた。
音の発生源は僕のからで、ポケットから取り出すと緑と赤のボタンの上におじさんの名前が表示されていた。
菊野くんに断りを入れてから、僕は緑のボタンに指を重ねた。
『もしもし、俺だ宮本だ。事件の捜査で忙しいこととは思うが、智お前に頼み事があってだな。俺の元に忘れ物を届けて欲しいんだ。
忘れ物なんだが……家に取りに戻ったら見当たらなくてな。おそらく娘が持ち歩いているんだと思う。すまないが智、娘と同じ学校に通っているお前が頼りなんだ。
忘れ物という忘れ物は、事件の捜査資料が入ったUSBメモリでな。これは機密情報なんだが、中には周辺の監視カメラの映像データも入っていたりする。すぐに必要というわけではないから、届けるのに一日遅れても構わないんだが、あの子が持っているというのが心配でな。
あの子もお前に会いたがっていたし、忘れ物を受け取りがてら少し話でもしてやってくれ……それじゃあ、俺は忙しいのでな、ここまでだ。ああ、忙しい忙しい』
よろしく頼むぞ、とだけ残して通話は打ち切られた。
有無を言わせぬ通話越しのおじさんの口調に、僕はため息を漏らす。
まったく、やれやれ。そんなまどろっこしいことするくらいなら、普通に手渡しすればいいのに……。だけどそれがおじいさんらしい。
「どうされましたか雨宮くん、そんな微笑ましそうに笑って」
「なんでもありません」
表情筋にすっと力をいれる。
「おや、戻りました」
「そんなことありません。それよりも菊野くん、監視カメラの映像データを手にいれる機会が訪れましたよ」
「なんと!」
驚きに目を丸くする菊野くん。
ここから学園に着く頃には、ちょうどお昼の時間が始まっていることだろう。
「次の目的地は私立天白学園中等部です!」
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