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愚かな君に、花束を  作者: ヤマネ狐
第二章【女子大生連続殺人事件】

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取り返そう

「私は今日一日、雨宮くんのワトソンになります!」


 ………。


「……はい?」


 朝食を摂り終え、洗い物をしている僕に対して、脈絡もなくそんな提案を繰り出してきたのは、……言うまでもない。

 植物を愛し植物に愛されるブロンド髪の少年——菊野華車だった。

 はっきり言おう。意味がわからない。


「藪から棒にどうしたんです?」


 そう思い、僕が彼に尋ねると、その表情が微かに沈む。


「昨日は私の安易な提案のせいで、雨宮くんを振り回してしまいましたから……。その贖罪として何ができるだろうと昨晩布団の中で散々悩んだ末……。そしてようやく今朝、事件が解決するまで毎日、私が雨宮くんの隣でお手伝いをすればいい、ということに思い至ったのです!」


 誇らしげに胸を張って力説を放った。

 下がっては上がる株価の推移のような表情だ。


「……」


 本来ならこうして悩む必要もないのだろう。僕が一人で事件を捜査する方が効率的なのだ。昨晩、尼水くんにこっぴどく指摘されたからではない、それは僕自身の意思。

 ハンドタオルで手を拭い、口を開こうとしたところで、菊野くんが声を被せる。


「確かに雨宮くんがおひとりで事件を捜査した方が早いのかも知れません。正確なのかも知れません。それは正しいことだと思います。でも––––」


 やけにはっきりとした物言いだった。

 芯がある。折れてやらないという意志を感じる。

 その正体が何かはすぐにわかることだった。


「私だって雨宮くんと同じ【十二人の使徒】の一人です!」


 義務感……ではない。

 彼の気持ちはそんなものではない。


「雨宮くん。私はあなたと対等でいたいんです」


 それが何を意味しているかは語るまでもない。


「私は【花屋】であり、【怪盗家】ほど大胆不敵でなければ、【名探偵】ほど聡明叡智ではありません。【詐欺師】ほど口が上手いわけでもなければ、【探究家】ほど情熱があるわけでもない……。ここでは、私は道端に生えている名もなき草花と同義です」


 僕はただ静かに彼の主張に耳を傾ける。


「この一年間。皆さんと様々な挑戦状をこなしてきました……。でも、それは私以外の皆さんが頑張ったからであって、私の功績は微塵もありません。

 嫌なんです。もう……、ただおんぶに抱っこでいるのは……。

 誰かを笑顔にするのは植物でなくてもできます。誰かの心を癒すのに花が不可欠というわけではありません。

 私は欠片でもいいから、皆さんの力になりたいんです。間接的じゃない、後方支援でもない。前線に立ちたいんです、雨宮くんたちの隣に立ちたいんです」


 だから、どうか。


「どうか、私をしばらく雨宮くんの隣においてはくれませんか?」


 僕は推し黙る。

 菊野くんが普段そんなことを考えていただなんて思いもしなかった。

 一年という期間をここで過ごして、【十二人の使徒】としてここにいて、彼ら彼女らと触れ合い知った気になっていた。

 頼っていた気になっていた。

 でもそれは間違いだ。

 認めよう、おじさん、尼水くん。僕はいまだに誰の頼り方を知らない。頼りたいだなんて思いもしなかった。

 だからおじさんに指摘されて、僕は焦っていたんだ。

 僕は昨日、彼らを頼っているようで頼っていなかった。

 篠桃さんを頼るのであれば彼女を遺体と掛け合わせるべきだった。四ノ葉さんや伯闇くんの経験を頼るのであれば、現場検証に付き合ってもらうべきだった。

 ただ見栄えを気にして、その実、僕は誰にも頼っていなかった。それを尼水くんは見抜いたのだ。

 そりゃあ、叱られて当然だ。

 菊野くんは責任の発端は自分にあると言ったけど、どう考えても僕の失態だ。僕の使徒のみんなに対する無礼だ。

 だからむしろ贖罪すべきは僕の方のだ。

 そのきっかけは今目の前に転がっている。


「いいですよ」


 僕は差し出されていた細い手を握りしめた。太陽の日差しを沢山に浴びた土のような温もりだった。

 優しい温もり。それは肌を通り抜け心臓の奥にまで浸透する。

 夜光に向ける感情とはまた違った感情。

 仲間意識のようなものといえば、わかりやすいか。

 どうしてだろう、彼なら頼ってもいい気がした。


「むしろ、是非にといった感じです」


 腕に力を込めて僕は微笑む。


「……!」


 鼻の先の少年の顔に笑顔が咲いた。

 悔しいかな、屈託のない向日葵のような素敵な笑みだった。


「よかった、よかったです! ありがとう雨宮くん!」


 吹き替えした彼の元気は、余りを抱えているようで、容赦無く僕の腕を縦にブンブンと振ってくる。

 少し痛い。

 だが、菊野くんのこの楽しそうな姿を見ていると不思議と我慢できた。

 サラサラのブロンドの髪。日焼けを知らない純白の肌。薄く開かれた瞳はその全貌をしれない。鼻筋が少し高くて、異国の血を感じさせる。

 菊野くんってこんな顔をしていたんだ。こんなに彼の顔をまじまじと見たのは、これが初めてだった。

 一年も経つのになんと薄情なやつなんだ僕ってやつは。

 ほんとに……まったく自分自身にやれやれである。

 そんな風に独りでに自身に呆れ返っていると、突然目の前の少年が、ハハハ、と胸をそびやかして高らかに笑い出した。


「まあ、探偵の助手に興味が深々なだけでもあるんですけどね‼︎⁉︎」

「…………」


 菊野くん。

 それは言わないお約束だよ?


 最後までお付き合いいただきありがとうございます。

 これからも応援してくださると嬉しいです。


 現在、『宵星館』という作品を執筆中です。

 ぜひ、こちらも一緒に、お楽しみください。

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