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愚かな君に、花束を  作者: ヤマネ狐
第二章【女子大生連続殺人事件】

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回顧録

 屋敷に戻ったあと手早く夕飯の準備を済ませた僕は、屋敷の全員に向けてご飯開始の合図をメッセージで送った。

 それに反応し集まったのは十人。朝に比べたら随分と集まった。


 伯闇くんに深山さん、望月さんと夢里くんが新たに食事の席に加わった。

 だけど……、あと二人からの連絡はなかった。

 尼水くんはあれでいて繊細な心の持ち主だ。あの時は気にする素振りを見せなかったが、きっと内心はそうでなかったことくらい想像に容易い。


 どれもこれも僕の失態のせい。

 彼の言う通り、使徒のみんなの命の手綱は今、僕が握っていると称しても過言ではない。この挑戦状に立ち向かえるだけの力がある者は、僕を置いて他にいないのだから……。


 これこそ僕の我儘で、みんなの足を引っ張ってしまっている。

 もう、時間を無駄にはできない。

 僕は二人のいない夕食を口にしたあと、風呂や洗濯などを済ましすぐに就寝の支度を整え、自室に篭った。


 椅子を引いて、机に向き合う。

 そして、手前にラップトップを引き出し、画面を起こして電源を入れた。

 画面に機械的な明かりが灯る。

 僕は早速、おじさんからメールで送付されてきた、『女子大生連続殺人事件』の捜査資料の内容を精査することに決めた。


 きっと紙媒体にして保存したら、分厚いファイルがいくつか出来上がるであろう量に、及び腰になりかけるも、頬を叩いて気持ちを奮い立たせ改めて液晶画面に向かった。

 資料に目を通して得た情報を、五つに分割してまとめると以降のようになる。

 

 ①遺体は必ず抵抗のできない状態にさせられていた形跡がある。

 今回の被害者––––大熊久美子の場合、足首に一つ、腰回りと両腕合わせて一つ、の計二ヶ所にロープと思しきもので拘束されていた跡があった。

 

 ②双眸が抜き取られ、空いた隙間に溶かした蝋が流し込まれている。

 おそらくはこれが事件解決への最大の糸口になると考えられる。被害者の世界を奪ったのは、果たして恩讐かあるいは快楽か。

 蝋を眼孔に注いでいるあたり、その手口を隠そうとしていることは明らかである。相手の思考を掌握できると自称する尼水くんの太鼓判もあることだしね。

 その手口というのが、あるいは犯人にしか知り得ないものであったりするのかも知れない。

 

 ③首には締め付けられた痕がある。

 縄が使用され始めたのは四件目からであり、以前の三件には縄で締め付けられた形跡はないらしい。

 となると、少なくとも犯人は成人女性の首を締め上げ殺すほどの腕力があるということになるだろう。

 

 ④被害者の体内からは、強力な催眠作用のある成分が検出されている。

 しかし、これには一つだけ例外があった。

 第五の事件の被害者––––大熊久美子さんだ。

 彼女の身体からは、これまでの四件の被害者全員から検出された催眠作用を有する成分が検出されなかった。


 代わりに大量のアルコールが検出されていた。

 しかし、ここで一つの疑問が浮上する。

 現場に、被害者がアルコールを摂取した形跡がなかった。今でも現場の光景を鮮明に思い出せるが、ゴミ箱の中にも酒類の容器は目にしなかった。


 そうなると、被害者は事件発生以前に家の外で飲んでいた可能性が浮上する。

 大熊さんが次のターゲットに据えられ、犯人の毒牙にかかってしまったのも、それが原因の一つかも知れなかった。

 

 ⑤被害者の遺体には必ず、被害者自身が付けたと思われる引っ掻き痕や傷が確認されている。


 これに関しては僕自身もこの眼で目撃した。大熊さんの遺体の脚の付け根の外側の部分に、それはあった。

 状況から考えて、被害者は想像を絶する苦しみの中でその生涯を終えたのだろう。

 心の底から同情する。

 

 これで資料にあらかた目を通したことになるが。

 おじさんから送られてきた資料の中には、僕が欲していた監視カメラの映像データは含まれていなかった。


 話を聞くに捜査班の中で、ぽっと出の子供に手柄を横取りされることを快く思わない人たちが、僕への映像データの提供を固く反対したのだとか。

 建前上は、現場周辺の映像を確認し終えていないからということだった。

 これはおじさんに迷惑をかけてしまった。僕と警察で板挟みになって苦悩していないかが心配である。


 しかし、映像データが頂けないというのならそこはもう割り切るしかない。ここで反対している人たちと言い争っても、求める結果が得られるとは到底思えない。

 おじさんは文章の中で僕に頭を下げていたけれど、事件の捜査を円滑に進めるためならば僕は後ろ指を指されても構わない。


 とはいえ、例え監視カメラの映像がなくとも、実際現場となった場所に赴いて、現場の周辺の状況とこれらの情報との整合性の有無を調べる他、より精度の高い推理を紡ぐ手立てはないだろう。


 明日から遅くても二週間、授業を休むことになるが、致し方のないことである。

 十二人の命と自身の評定とを天秤にかけるまでもない。重視すべきは明らかに前者の方だった。


 僕は明日に備え、いつもより早めの時間に布団に潜り込んだ。

 そして規則正しい呼吸を意識しながら、ゆっくりと目を瞑った。


 最後までお付き合いいただきありがとうございます。

 これからも応援してくださると嬉しいです。


 現在、『宵星館』という作品を執筆中です。

 ぜひ、こちらも一緒に、お楽しみください。むしろ、『宵星館』の方に意見やコメントしていただけるとありがたいです。

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