【幕間:side詐欺師】
屋敷の玄関を潜るとそこには白衣を纏った、ボクの天敵が仁王立ちして待ち構えていた。
「あらあら、随分と酷い顔をしてるわね、尼水」
いい気分だわ、と艶っぽく笑う菜緒ちゃん。
ほんと、彼女には頭があがらない。
畏敬の意味でな!
「菜緒ちゃんか、ボクをけしかけよ思ったんは……」
「正解正解、だいせいか〜い! ご褒美にアドレナリン打ってあげるわ。ほら、腕出してみなさい」
いらんわそんなもん。
ボクの腕掴むんやない! 怖いわ!
……ほんと散々相手にらしくない言うといて、ボクの方がらしくないことをした。
「雨宮くんの様子が少しおかしかったん気づいとったんちゃうか?」
「なんのことかしら?」
惚けおってからに。
医者だけは惚けちゃあかんでしょう。
「ほんといい性格してるわ」
「君ほどじゃないさ。嘘つきが大嫌いな嘘つきさん」
そんな皮肉を愉快そうに呟く。
ボクは後ろの扉が開かれることを恐れて、エントランスの中央へ足を向けた。
「その嘘つきが嫌いな嘘つきの性格を、いいように利用したんはあんたやろ?」
女は何も言わない。
便宜すら図らない。
ボクが階段を登り始めると、菜緒ちゃんは追従式なんか思うくらいピッタリと、ボクの背中を追ってくる。
ミサイルかて。
まあ、爆弾背負ってるし、同じようなもんか。
「菜緒ちゃんの思い通りにいったかはわからんよ。ボクは彼に対し結構酷い本音をぶつけてもうた……」
「君とあろう者が、後悔しているの?」
「後悔ちゃう! この後夕食の席で会うんが気まずいだけや」
「ならこの私が、迷える君を、夜の街へ連れ出してあげようか?」
それは、確かにいいアイデアやと思う。
だけど、
「今は外に雨宮くんたちがおる。しばらく身を潜めてからなら、かまへんよ」
「ならそうしよう。私も今夜、彼と顔を合わせるのを気まずく思っているから」
黒幕が何を言うとんのか。
それにしても、菜緒ちゃんがボクを頼るまでに雨宮くんの心が深刻だったとは思いもよらなかった。
「ひょっとしたら、これで雨宮くんは動かなくなってしまうかもしれん」
そうなったら、ボクらは間違いなく死ぬ。ギャグ漫画よろしく爆散して死んでまう。
仮にそんな結末だったとしても、それは彼のせいやない。お呼びじゃないボクが出張ったせい、ボクのせいや。
こんなボクの心境を見透かしでもしたんだろう。
「大丈夫よ、雨宮くんなら!」
菜緒ちゃんはそんな確証のないことを言う。
「冗談よしてーや。ボクは今そんなん耳に入れたい気分やないねん」
「なら君が安心できるよう言葉を添えてあげるわ」
マッドサイエンティストさながらの微笑みで持って菜緒ちゃんは告げる。
「雨宮くんはあなたほど泣き虫じゃないわ!」
どどーん、の字幕でも貼られてそうなセリフだった。
「そうかいな」
だが、ボクを納得させるには十分やった。
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