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愚かな君に、花束を  作者: ヤマネ狐
第二章【女子大生連続殺人事件】

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愚行 その3

 センシティブな言い方だ。代役の言葉を探すなら、憂さ晴らし、が適任だろうか。

 あるいは八つ当たり。


「どうしてこないなことをするのかは、犯人に直接聞かなわからないけど。そいつ心の底に根付いた感情だけならボクにはわかるで」


 口許に張り付いた笑みが一層深まる。

 それは興が乗って来たと言うより、人を嘲け笑い捨てるような嗜虐的な笑み。


「根底にあるんは怒り、根幹をなすんは嫉妬、枝葉に咲くんは愉悦」


 どれも、犯人に当てはまってもおかしくはないような感情。

 これが尼水くんの言葉だからなのか、あるいは自身もそう思っているのか、判別はつかないが、改めて口にされるとそれが全てのように思えて仕方ない。

 だが、彼の前置きを忘れてこの思考に取り憑かれてはいけない。僕は確かな自分を持ってペテン師の話の続きに傾聴した。


「まあ今回に限ってボクが出張ってくる必要は、本来ないはずだったのだけれど。何やらホームズくんが迷走しているようやったからね。鶴ならぬ、鷺の一声というわけや」


 手の先で嘴を装ってパクパクと開閉させる尼水くん。

 先ほど尼水くんが、自分の言葉には嘘があると忠告してくれた手前、こんなことを考えてしまうのは忍びないのだけど。

 どうにも僕には彼が嘘を混ぜているようには思えない。

 確かにこれは僕の、探偵としての僕のやり方ではないし、今回の行動は菊野くんがきっかけではあったけれど。雨宮智にしては随分と奥手の行動であり、普段ではまず賛成すらしないことである。

 もしかしたら、これまでとは雰囲気を異なる挑戦状を前に、僕自身怖気付いていたのかもしれない。

 まったく……。

 心持ちを入れ替えると言っておきながら、このざまである。

 日頃、夜光くんに対して散々やれやれと漏らしているが、これじゃあ僕の方がそれを言われても反駁できないくらいだ。


「……その顔。違うよ、違う。それは違うよ雨宮くん! ボクが言いたいことが何も伝わってない。一体何が君をそこまで追い詰めたのか……。これじゃあ、ボクの出張り損じゃないか! これ以上踏み込む気はなかったんやけど……どうやら君がボクの話聴いてくれていないようやからね。この際、ズッパリと言ったるわ‼︎」


 未だ僕が尼水くんの言うことに理解を示せぬ間に、彼は呼吸を整えると、これまでで一際ストレートに僕の瞳を見据えた。

 

「原因を履き違えるなよ。人間の心はそう簡単に揺れ動いたりはしない。根本の部分を刺激されない限りはな……」

 

 そして尼水くんは、そんな見透かしたようなことを言う。

 僕は心臓を撃ち抜かれたような気がして、指一本すら満足に動かすことができなくなった。心なしか動悸が早い。


「……それだけじゃ何を言ってるのかわかりません」

「まあ、君がそれでいいんやったら、もうボクに手の施しようはあらへんな。君が何を思い、何を背負ってるのかは知らんけど……、どうかボクらを死なせんように気をつけんさいよ」


 吐き捨てるようにそれだけ残して、詐欺師の少年は背を向け本館の内へと姿を消してしまった。

 寒空の下、僕と菊野くんだけが取り残される。

 軽口の絶えない菊野くんはこの時に限って静かだった。

 別に何か慰めの言葉を期待したわけじゃない。

 光を求め空を見上げる。

 別館を目指し本館を出た時と打って変わり、星々の瞬きはおろか月の片鱗さえ、あそこには存在しなかった。

 そこにはただ暗闇しかなかった。

 僕の頭のように漆黒の空。黒髪だけにってね。

 …………。

 慣れないことはするもんじゃないな。


「はあ……」


 まったく。

 詐欺師相手に何をしてるのか。

 ……やれやれ、僕ってやつは、とことん愚かだ。


 最後までお付き合いいただきありがとうございます。

 これからも応援してくださると嬉しいです。


 現在、『宵星館』という作品を執筆中です。

 ぜひ、こちらも一緒に、お楽しみください。むしろ、『宵星館』の方に意見やコメントしていただけるとありがたいです。

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