【薬剤師】は【花屋】を見習わない
途中スーパーで買い物して帰ると、門から玄関前までを繋ぐ長道のそばに菊野くんの後ろ姿をみつけた。
どうやら、噴水を取り囲む生垣の伸びた枝を剪定しているところらしい。
気を散らさないよう気配を消しながら脇を通り過ぎようとすると、
「おや雨宮くん、今お帰りですか?」
即行気づかれ、彼の手を止めてしまう始末。
「……はい。菊野くんはこんな時間に庭の手入れですか?」
屋敷の上の空は徐々に陽が沈みつつあった。
「ええ、このあとは雨宮くんのご飯を食べる以外特にやることはありませんので、なら明日に回していた作業を、今進めてしまおうかと思いまして」
「そうですか……。慣れていて大丈夫だとは思いますが、怪我には気をつけてくださいね」
「はい! 細心の注意を払って作業させていただきます!」
楽しそうに敬礼するブロンドの少年。
僕がその場を離れようとすると、彼から声がかかる。
「そういえば、つい先程まで事件現場にいらしたんですよね、雨宮くん」
話が早いな。
この時間ならまだ夜光くんは学校で仕事に追われてると思うのだが……。
「学園で忙しそうにしている星亰くんを見ましてね。どうしたのかと尋ねたんですよ」
「そしたら、僕が事件で席を外したせいで忙しくなった、と?」
「ええ、まあ、そのようなことをぼやいていましたよ」
「はあ、まったく夜光くんは……。日頃からコツコツと仕事を片付けていればこんなことにはならないのに」
「まさに星亰くんらしいですよね」
そんならしさ、生徒会長には必要のない要素だ。
「それで実際の事件はどんな感じでしたか?」
あまり率先して伝えたい内容ではないが。
彼とて謎の挑戦状に立ち向かう【十二人の使徒】の一人である。
ここで教えないという選択肢は一切ない。
なので僕はその質問に素直に応えるだけだった。
「名前の通り、被害者は全員女子大生で、遺体からは眼球が抜き取られていました」
「……二つともですか?」
「ええ、両方とも、です」
「それは……気の毒ですね」
「詳しい話はみんなが集まった頃にしようと思います」
「かしこまりました。猫の手も借りたくなったら是非おっしゃってください」
まあ私は猫ではなくて花屋ですけど……、そんな軽口を溢す菊野くん。
【十二人の使徒】第四席【花屋】––––菊野華車。
花のような笑顔が絶えないブロンドの少年。
そんな彼は何か思いついたように、「あっ」と口から漏らした。
「確か屋敷に篠桃さんが帰っていたはずですから、一緒に事件のことについて相談しに行きませんか?」
それは妙案だ。
世界有数の医師であり、人体の構造に詳しい彼女のことだ。眼球の取り出し方について話を聞けるかもしれない。
ただ……。
「菊野くんも一緒に来るんですか?」
「はい! とても気になりますので」
結局その仕事は明日に回されることになった。
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
これからも応援してくださると嬉しいです。
現在、『宵星館』という作品を執筆中です。
ぜひ、こちらも一緒に、お楽しみください。むしろ、『宵星館』の方に意見やコメントしていただけるとありがたいです。




