雨宮智について#3 その2
講習に呼ばれても参加する兆しを見せず、いつもサボっているのだ。学園内交通係の先生がそのことを嘆いていた。
生徒会長が教師を泣かせてどうするっていうんだ、まったく。
そのため、彼が学園内で足を欲した場合、毎回、僕は必ず彼の元へ出向いているのだ。
この際だから白状するけれど、そのおかげもあって、ことある度に生徒会長の仕事に同伴して行った結果、僕は各学年の様々な生徒と触れ合う機会に恵まれ、ああして学校の催しである人気投票にして、莫大な数の票を投じられることになったのだ。
「おいおい、お前の人気ってやつは何も、校内だけの活動による賜物ってわけじゃないだろ? 少なからず普段のお前の行いってやつが起因しているんだと俺は思うぜ!
まるで俺が生徒会長になったばっかりに、副会長であるお前に迷惑をかけているように聞こえる言い草はやめてくれよ‼︎」
最後の一文は紛れもない事実であると思うのだけど……。
しかし、彼の言っていることに間違いはない。
彼が言っているのは、僕が学校の放課後に暇があれば行なっている探偵活動のことだ。
名のある探偵一族の末裔であるという事と、これまでにも何度か難解な事件を解決してきた身の上から、確かに世間からの視線に多く晒されてきたけれど、それでもやはり、ん僕の心がこの境遇に馴染むことはかなわなかった。
「まあ確かに副会長の立場は目立つに目立つが、ただひたすら、面倒事だけを引き寄せているわけじゃないだろ?」
「うっ……。そりゃあ、事件の捜査とかで学校を休んだときの補填になってはいるけど」
ただここで知っておいて欲しいのは、僕が何かしらの事件に関与する際、僕は警察からの正式な依頼を受けて行なっているため、出席周りの話は特に気にする必要は皆無なのだ。
とはいえ、正式でない依頼を受ける場合もあるため、完全にその恩恵がないと言えば嘘になるが、享受することが少ないのもまた事実。
「お前が事件で生徒会を留守にしている間、俺はわざわざ園内列車に乗って各所に向かっているんだぞ!」
「それはっ……君がはやく免許を取らないのが悪いんでしょう! その責任の一端を僕に擦りつけないでいただきたい‼︎」
「だって〜〜講習会面倒くさいんだもん」
「担当の先生が聞いたら泣き出しそうな酷い言い訳だ。それならこれからも園内列車に頼ることだ。そもそもあれは君が初めて生徒会長になった時に設けたものだろう? 教師たちの猛反対を乗り切って」
「いやーあの時は楽しかった」
懐旧に口許を綻ばせる白髪の少年。その笑みはただ過去を懐かしむだけではない、多分に嗜虐を含んだものである。
その表情を横目に僕もあの頃に想いを馳せる。
僕らがまだ中等部の一年に在籍していた頃の話。学園を素早く移動する手段を有していたのは教師と生徒会の幹部の面々だけだった。
当時それに不満を感じていた全校生徒たち––––主に部活動に力を入れる生徒たちの感情を利用し教師対生徒の対立を煽って激化させ、反発する教師陣営を説得……いや、打倒すべく、生徒陣営を見事な指揮で導き相手方を下した中等部一年A組の星亰夜光は、その偉業を持って英雄的に生徒会長へと即位した。
その際、中等部一年B組だった僕は、少しだけ彼に助力したことがある。ほんと、ろくなことではなかったが。
改めて言うが、この学校には生徒会は一つしかない。
何を当たり前のことを思うかもしれないが、つまり僕が言いたいのは初中高のそれぞれの学部に一つずつあるわけではなく、正真正銘の唯一無二であるということ。
天白学園生徒会は、十二ある全ての学年の生徒を束ねる統括組織なのである。
加えてこの学園は、生徒の自主性を何よりも重んじるという校風を掲げていることもあり、生徒会長に与えられる権限というのは学園長の足元に匹敵すると言われ、それを体現するように生徒会は学園に次ぐ学校運営の要なのである。
しかしだからと言って、学校を好き勝手にできるわけじゃない。そこのところは、万一にも生徒会の権力が暴走しないよう、生徒会と学園側といくつかの委員会で権力の分立はなされている。互いに目を光らせあっているというわけだ。
基本的には、学園と生徒会が対立の構造にあり、裁判委員会が両者の間を保っている。もっと明細化するとややこしい話になるのでここでは控えておくとしよう。
とは言え、学園と生徒会が激しく対立し合うような事態が発生するのは、年に一度あるかないかくらいなものだ。
今年の夏にある選挙に勝てば、五年目の任期を迎えることになるが、これまでにも五回、学園側との大きな対立が発生している。大体は中立案に落ち着くのだが、ここ最近は生徒会の立案が通っている。
そんなこともあってか、夜光政権を目の敵にしている学園派の教師たちは、今年こそは星亰生徒会の幕引きを目標に掲げ、夏の選挙に向けて何やら大きな仕掛けを打っているらしい。
だというのに目の前の生徒会長はそれを気にする素振りもなく、気怠そうにしているばかりだ。歯牙にも掛けない様子とは、まさしく彼のことである。だが、それも無理はない。
学園派を支持する者たちには申し訳ないが、今回の選挙勝つのは僕らである。
部活動が盛んなこの学園では、どれだけ多くの部活動から支持を得られるかで選挙の行方は大きく変わる。星亰生徒会は発足当初から、大多数の部活動からの支持を集めている。今回の選挙もそこらの票固めは済んでいた。
あれらの書類はそれに関するものだ。であるから、早めに片付けて欲しいのだが、この気の抜けっぷりである。
あとは選挙当日を待つのみなのはわかるが、油断大敵である。
現在の支持率をちゃぶ台のごとく簡単にひっくり返すことはできないにしても、学園の動向には注意を払っておきたい。
彼らが何を企んでいるのかは絶賛調査中だ。
おそらく学園派を支持する生徒を利用して、何かしらのキャンペーンを起こそうとしているのは確かだ。
できることなら僕が前に出て調査したいが、前述の通りである。
僕らに対する監視の目はとても厳しい。先日のことだけど、背後を追いかけまわす何人かの生徒の気配があった。
まったく、本職相手にバレていないつもりだろうか。あるいは気づかれるのが前提の行動か……。
ともかく、気を抜けない状態なのは今も確かである。
生徒会長にはもう少しシャキンとしていただきたい。
「今夜のピーマンフェスティバルは後日に先送りしますから、せめて今日だけは頑張ってください」
「ま〜じか⁉︎ よっしゃ、やる気湧いてきたかも〜」
苦肉の策で捻り出した提案に、なんとも呆気なく白髪の少年は飛びついた。
活気を宿した生徒会長を横目に、僕も副会長としての仕事に取り組んだ。
書類の山がみるみる小さくなっていく。
あっという間に朝のホームルームの時間が近づき、遅刻しないよう頃合いを見て、僕らは一度生徒会室を抜けてそれぞれの教室に向かった。
———『続』———
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