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GREAT HISTORY〜大史伝〜  作者: アイラル
第四部 ミケ将軍バラムーユンタニア決戦編

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第二百十一話 双声の誓い

――双子の絶望、あるいは死へと招く合唱。

会議室で重なった「二人の将軍」の声。それは忠誠心の発露などではなく、まるで見えない糸で操られた操り人形が、同じ音を出すように仕組まれた「不吉な共鳴」でしたにゃ。レイとグスタフ、それぞれ一五〇〇、合わせて三〇〇〇の命。ミケ天常大将軍が冷徹に、しかしどこか慈しむように命じたその配分は、サステヒという巨大な胃袋へ放り込まれる「適量」を測ったかのようですにゃ。

「……二人とも、死ぬなよ」

ミケの独り言。それは優しさなどではなく、これから始まる地獄という名の舞台に、主要な役者が欠けては興が削がれるという、神の視点からの傲慢な願いに過ぎません。

そして訪れた出陣前夜。

焚き火の傍らで「闇がざわめいている」と口走る兵士、そしてグスタフが見た「白い霧の夢」。

『来い。命を持ったまま、来い』

その呼び声は、バラムーユンタニア軍の誘いではありません。サステヒの地そのものが、あるいはミケが呼び覚ましてしまった「この世ならざる理」が、新鮮な生贄を求めて口を開けている音ですにゃ……。

空を裂いて砦へと落ちた光。それは勝利の吉兆ではなく、逃げ場のない生け贄の祭壇を照らす、冷ややかなスポットライト。三〇〇〇の軍勢が明日踏み出す一歩は、もはや「進軍」ではなく、底なしの深淵への「投身」となるのですにゃ……。

「――よかろう」


ミケ将軍は、重く、しかしどこか愉悦を含んだ声で告げた。

その声音だけで、室内の温度がひとつ下がったように感じられる。


「レイ。1500名を連れて行くが良い。

 ……だが、それだけでは足りん。グスタフ将軍、お前も1500名を率いて出立せよ」


まるで、運命の断頭台へ招くかのような言い方だった。


そして――。


「「喜んで戦いましょう」」


レイ将軍とグスタフ将軍は、まるで仕組まれた双声のように、同時に返事をした。

その響きは奇妙なほどに揃っていて、会議室の空気をさらに歪ませた。


ふたりの将軍の声が重なった瞬間、

そこに居合わせた誰もが、ほんの一拍だけ心臓を強く脈打たせた。


――まるで、何かが動き始めた音を聞いたように。


ミケ将軍の口元に浮かんだ微笑は、

喜びなのか、期待なのか、それとも血の未来を見ているのか。

誰にも読み取れなかった。


ただひとつ確かなのは、

その瞬間を境に、この国が取り返しのつかない道へ進み始めたということだった。


「……準備は速やかに進めよ。時間は、俺たちの味方ではない」


ミケ将軍の言葉は静かで、しかし杭のように重く突き刺さった。

レイもグスタフも深く頷き、席を立つ。

その背中は堂々としていたが――どこか、影が差しているようにも見えた。


誰も言葉にはしない。

だが、胸の奥に沈むあの感覚だけは、全員が同じだった。


――何かがおかしい。


まるで、この戦が「勝利」ではなく「淘汰」を選ぶかのような。

そんな曖昧で、しかし得体の知れない予感が、会議室の空気に溶け込んでいく。


重い扉が閉じ、レイとグスタフが去った後。

しばしの沈黙が訪れた。


その沈黙の中で、ミケ将軍がふと呟く。


「……二人とも、死ぬなよ」


まるで祈りのようでいて、

まるで、すでに未来を見据えている者の言葉でもあった。


誰にも聞こえなかったその呟きは、

会議室の冷えた空気に吸われ、跡形もなく消えた。


だが――。


その場に残った者たちは、誰ひとりとして口にしなかったが、

胸中でひっそりと理解していた。


この戦いの始まりこそが、終わりの鐘の音なのだと。


そして、運命の槍はすでに放たれてしまったのだと。


出陣を翌日に控えた陣営は、妙な静けさに包まれていた。

兵たちが談笑する声はある。焚き火が砕け散る音もある。

だがそのすべてが、どこか薄い膜を通して聞こえるような――不自然な静寂だった。


レイ将軍は、夜風に揺れる幕を押し分け、外へ出る。


「……風が、冷たいな」


温度ではない。

まるで、冷気そのものが意志を持って肌を撫でているかのような、不吉な冷たさ。


その一瞬、

背後で黒い影が揺れた気がした。


振り向く。

……何もない。


風が地を舐め、草がわずかに揺れるだけ。


しかしレイの心は、ひとつだけ確信した。


──“何か”がいる。


それは敵軍でも、野獣でもない。

もっと……この世の理の外側にある“何か”。


胸騒ぎを抑えられず、レイは陣営を見回す。


すると、離れた焚き火の前で兵士がうずくまっていた。

覆いかぶさるように震え、うわ言のように独り言を繰り返している。


「……聞こえる……聞こえるんだ……誰かが……呼んで……」


「おい、大丈夫か」


レイが肩に触れた瞬間、兵士が跳ねるように顔を上げた。


その瞳は――暗闇に呑まれたように虚ろだった。


「司令……撤退……しなきゃ……。

砦の方……闇が……ざわめいて……。

あそこには……“生きて帰れない道”しか……!」


その言葉に、レイの息が止まる。


兵士はそのまま意識を失い、崩れ落ちた。

医務兵が駆けつけたが、原因は不明。

ただ、眠るような顔で、冷たい汗を流していた。


「……嫌な前触れだな」


どれだけ武を誇ろうと、どれだけ兵を揃えようと――

戦の前夜に漂う“影”だけは、斬れない。


その時、背後から声がした。


「レイ」


グスタフだった。

炎の赤が彼の横顔を照らすが、その目の奥には曇りがあった。


「お前も……感じてるんだろう。

明日、何かが起きるって」


レイは答えない。

答えられるはずがない。

言葉にした瞬間、それは現実になってしまう気がしたからだ。


だがグスタフは続けた。


「俺はな……今夜、夢を見たんだ」


「夢?」


「俺と、お前と……それから千五百の兵が全員、

白い霧の中で立ち尽くしててな」


焚き火の火がパチ、と弾ける。


「呼ばれたんだよ……“サステヒ砦の方”から。

声の主は……見えなかったが……

確かにこう言った」


グスタフは低く、押し殺した声で呟いた。


『来い。命を持ったまま、来い』


レイの心臓が、ひどく冷たく沈む。


その時、夜空で雷のような音が轟いた。

音の正体は雲ではない。

砦の方向――黒い空を割るように、光がひとかたまり、流星のように落ちていった。


「……まるで、導いているみたいだな」


グスタフの言葉に、レイは拳を握り締める。


明日は出陣。

逃れられない。


だが、二人の胸の奥底には――同じ感情が芽生えていた。


これは戦ではない。“死に誘う儀式”だ。


火の粉が舞い、夜風が悲鳴のように吹き抜ける。


出陣前夜の闇は、静かに、しかし確実に――

彼らを飲み込む準備を整えていた。

はい、というわけでお届けしました第二百十一話、「双声の誓い、あるいは招かれざる予知夢」!

皆さん、今回のグスタフさんの夢……。

「脳が震えるほど『ホラー』だにゃぁぁあああ! 『命を持ったまま来い』なんて、逃げ場のない恐怖を思い出すにゃ!!」(笑)

レイさんとグスタフさん、二人の声が重なった瞬間、運命の歯車がカチリと音を立てて、もう逆回転は不可能になったんだにゃ……。

「グスタフさん! その夢、正夢にしちゃいけないにゃ! でも、ミケさんの『死ぬなよ』っていう言葉が、一番の呪いになって背中に突き刺さってるにゃ!!」(笑)

次回、「鋼の沈黙、あるいはレイ将軍の決断」。

三〇〇〇の生贄がサステヒの門を叩く。その狂気の行進を、ただ一人「鋼」を抱いて考え込むレイ将軍。友の背中が闇に消える寸前、彼が考えていた「思考」とは。


お楽しみに!

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