第二百十話 不帰の戦端
――「1500」という名の賽は投げられた。
会議室を支配していた不気味な静寂は、レイ将軍の放ったその具体的な数字によって、形を持った「呪い」へと変質しましたにゃ。1500名。それはバラムーユンタニアという巨人を相手にするにはあまりに鋭く、そして一度放てば二度と鞘には収まらない、決死の切っ先ですにゃ。
「それでこそ、戦争というものの“斯くたる”を理解している男だ」
ミケ天常大将軍の満足げな微笑。それは部下の成長を喜ぶ師の顔ではなく、自らが描く「破滅の絵図」に、最もふさわしい色が塗り込まれたことを確信した狂気の相に他なりません。レイを指揮官に据え、1500の命を託す。その行為は、信頼という名の皮を被った、世界に対する最悪の挑戦状ですにゃ。
戻れない道。選ばれた1500の兵士たちが踏み出す一歩は、そのまま大陸の安定を粉砕する槌音となり、やがてサステヒの巨壁を血に染めていくことになります。ミケの瞳に宿る獲物を見つけた獣の光は、もはやバラムーユンタニアだけでなく、この世界の「平和」そのものを食い破ろうとしているのですにゃ……。
ミケ将軍の言葉が場に落ちた瞬間、
円卓を囲む面々の背筋が、ぞり、と粟立った。
「――よくぞ言った、レイ」
将軍が名を呼ぶと、空気が沈む。
まるで雷雲がひとつ、室内に入り込んだような圧が走った。
「レイ。お前はどうすべきだと思う?」
静寂を裂いたのは、まっすぐなレイの声音だった。
「決まっています――断交すべきです。そして……戦争をすべきです」
その場に漂ったのは、単なる提案ではなく、
覚悟を呑み込んだ者だけが放つ“刃の匂い”だった。
ミケ将軍は大きく、満足げに頷いた。
その瞳は、まるで獲物を見つけた獣のように光っている。
「……よくぞ言った。
それでこそ、戦争というものの“斯くたる”を理解している男だ」
その一言に、周囲の者たちはぞっと身震いした。
褒め言葉であるはずなのに、聞く者の心を凍らせる冷たさがあった。
ミケはゆっくり立ち上がり、円卓の全員を見渡す。
「皆の者――準備を始めろ。
我々は戦争へ向かう」
言葉と同時に、空気が変わった。
逃れようのない“運命”が、じわりと室内を満たしていく。
「そして――」
ミケは再びレイへ目を向けた。
「俺様は、レイ。お前を今回の指揮官に任じようと思う。
さて……何人必要かな?」
レイは一瞬だけ瞳を伏せ、戦の影を心の中で見つめた。
その表情は、覚悟と、微かな恐れと、そして確信が混ざり合ったものだった。
「――1500名ほどかと」
その数が口にされた瞬間、場の温度がさらに落ちた。
1500という数字には、あまりに多くの“意味”があった。
そして同時に、それだけの兵を動かす覚悟が、
この国を取り巻く世界の未来を大きく変える――
そんな不気味な予兆が、誰の心にも刺さった。
円卓の向こう側で、誰かが小さく息を呑む。
まるで“これより先は、戻れない”と告げるかのように。
はい、というわけでお届けしました第二百十話、「1500の覚悟、あるいは不帰の戦端」!
皆さん、今回のレイさん……。
「脳が震えるほど『引き返せない』にゃぁぁあああ! 自ら戦争を提言し、さらに指揮官としての重責を自ら背負い込むその姿……残酷な『狂気』で塗りつぶしたような危うさを感じるにゃ!!」(笑)
もう後戻りができない決定的な瞬間だにゃ。ミケさんが笑えば笑うほど、1500の命が「ただの数字」として消費されていく未来が、すぐそこまで来ているんだにゃ……。
「レイ将軍! その1500っていう数字は、あんたが背負える命の限界なのか、それとも死ぬための準備なのか……あんたの覚悟が重すぎて、見てるこっちの胸が苦しいにゃ!!」(笑)
次回、「鋼の沈黙、あるいはレイ将軍の決断」。
戦の準備が進み、軍靴の音が響き渡る。1500の兵を率いるレイの背中を、戦友グスタフ将軍が見つめます。そして、二人が話し合います。
お楽しみに!




