第二百九話 曇天の宣告
――「死に急ぐ道」の先にある、絶対的な虚無。
会議室に満ちた静寂は、もはや緊張という言葉では片付けられませんにゃ。ミケ天常大将軍が放つその言葉の一つひとつが、バラムーユンタニアという一国家の「終わりの形」を彫り込んでいく彫刻刀のように鋭く、そして取り返しのつかない重みを持って響きましたにゃ。
「愚か者ほど、死ぬ寸前に暴れるものだ」
その言葉に宿る、奇妙なほどの「実感」。ミケにとってこの戦いは、もはや勝敗を競うスポーツではなく、害獣を駆除するかのような、あるいは「あってはならないエラー」を修正するかのような、冷徹な作業に過ぎません。側近たちが追従を述べる中で、彼一人だけが、これから流れる血の海と、その後に訪れる「音のない世界」を既視感のように見つめていますにゃ。
窓の外で太陽を覆い隠した暗雲は、まさにミケの深淵から漏れ出した闇が空を侵食したかのよう。バラムーユンタニアが誇る牙も、勇気も、歴史も、ミケという「理」の前では、ただの「愚かさの代償」として燃やし尽くされる運命にありますにゃ……。
ミケ将軍が会議室へ足を踏み入れた瞬間、場の空気がひりついた。
まるで部屋そのものが、彼の到着を境に温度を失ったかのようだった。
円卓を囲む腹心たちは、武人らしい強面でありながら、その眼の奥に
“将軍の機嫌を損ねてはならぬ”という本能的恐れを宿している。
それは敬意であり、畏怖であり、支配の証でもあった。
ミケ将軍は席に着くと、静かに、しかし絶対の権威をまとった声で口を開いた。
「――今回、貴様らを集めた理由は他でもない。
バラムーユンタニアの件だ」
その一言で、場がわずかにざわめいた。
将軍の言葉には、ただならぬ“何か”が混じっていたのだ。
「どうやらバラムーユンタニアは、愚かにも……」
ミケは低く笑った。
その笑みは、怒気とも愉悦ともつかぬ、不吉な色を帯びていた。
「――この俺様に、戦を挑むと決めたらしい」
音のない震えが、円卓の周囲を駆け抜ける。
兵の一人が、ごくりと喉を鳴らした音さえ、場に鋭く響いた。
「愚かなことだ。
身の程を弁えず、牙を剥くなど……。
死に急ぐ道を、自ら選んだというわけだ」
一人の側近が、椅子を軋ませて立ち上がり、深々と頭を下げる。
「まったくもって、その通りにございます、将軍。
バラムーユンタニアは、もはや救いようのない愚昧な連中……。
開戦となれば、我らの敵では――」
「敵ではない、か」
ミケの声が、重く沈んだ。
その響きには、冷酷という名の刃が宿っている。
「……いや、そう言い切るのは早いだろうな」
側近たちが驚いて顔を上げる。
ミケは、瞳の奥に一瞬だけ“影”を宿していた。
「愚か者ほど、死ぬ寸前に暴れるものだ。
人でも、国でも……同じだ」
その言葉には、まるで“何かを既に見通している”ような、
妙に生々しい重さがあった。
そしてミケ将軍は立ち上がり、会議室全体を見渡す。
「俺様の邪魔をする国には……相応の結末を与えてやる。
バラムーユンタニアが選んだ“愚かさの代償”を、な」
その瞬間、誰も気づかぬほど微かに――
窓の外の空が、まるで日光を拒むように曇り始めていた。
それは、これから世界に降りかかる“絶望”の前兆であるかのように。
はい、というわけでお届けしました第二百九話、「愚昧の代償、あるいは曇天の宣告」!
皆さん、今回のこの会議の空気感……。
「脳が震えるほど『終末的』だにゃぁぁあああ! 将軍の言葉に合わせて空が曇りだすなんて、『世界が味方をしてくれない』絶望的な感覚を思い出すにゃ!!」(笑)
自分の常識が一切通用しない異界に足を踏み入れてしまった感覚だにゃ。バラムーユンタニアは自分たちが「国を守るための戦争」をしているつもりかもしれない。でもミケさんの目には、ただ「消えるべきものが消える過程」にしか映っていないんだにゃ……。
「側近さんたち! あんたたちが褒め称えているその将軍は、もう人間としての『憐れみ』なんて感情は、とっくに夜の向こう側に置いてきちゃってるにゃ!!」(笑)
次回、「鋼の沈黙、あるいはレイ将軍の決断」。
戦端が開かれ、世界が闇に包まれる中。主君の「影」を見つめ続けるレイ将軍。軍議の末に出された「何人必要か」に対し、彼が放つ言葉とは。
お楽しみに!




