第二百十二話 断絶の号令
――断絶の宣告、そして「不帰の門」は開かれた。
バツネの街門が吐き出したのは、勇壮な軍勢などではなく、運命という名の巨大な顎に飲み込まれゆく「供物」の列でしたにゃ。レイ将軍が踏みしめた最初の一歩。それは土を捉える感覚ではなく、底なしの深淵へと滑り落ちるような、確かな重力喪失の感覚だったはずですにゃ。
「俺は結局、その“子分”にすぎない」
自嘲気味に胸中で呟いたその言葉。それは、ミケ天常大将軍という圧倒的な「個」の影でしか生きられない自分を再認識した絶望の吐息ですにゃ。バラムーユンタニアという巨壁を前に、一都市の兵が挑む無謀。戦略上の不利以上にレイを苛むのは、自分たちが「勝つために戦う」のではなく、ミケという怪物の「意志を証明するための部品」として使い潰されるのではないかという、拭えぬ予感に他なりませんにゃ。
振り返ることを拒んだレイの背後、闇の中で囁く「勝ち目などない」という声。
それは敵軍の威圧か、それともサステヒの地が発する呪いか。
バツネを出発した一五〇〇の軍靴が奏でる旋律は、もはや勝利の行進曲ではなく、自分たちの埋葬場所を求める悲しきレクイエムへと変わり始めていますにゃ……。
バラムーユンタニアへの国交断絶の通告は、乾いた音を立てて大地に突き刺さった。
その瞬間、すべてが決まった。
後戻りも、和平も、理屈すらも――もう存在しない。
バツネの街門がゆっくりと開く。
冷たい鉄の軋む響きが、まるで戦神の嘲笑のように耳に残った。
レイ将軍は小さく息をつき、出撃の一歩を踏みしめる。
隊列が動き出すと同時に、大地が震えた。
それが兵の足音なのか、未来が怒り狂って軋む音なのかは分からない。
目的地はサステヒ砦、そしてシュマーズ。
――バラムーユンタニア軍の撃滅。
任務の名称だけは簡潔だ。
だが、その裏に無数の死が並んでいることを、誰も口にはしない。
レイは馬上から前方を見据えるが、胸の奥に沈む影は消えなかった。
(……本当に、勝てるのか)
胸中に落ちるその疑問は、決して弱気から生まれたものではない。
むしろ逆だ。
経験と直感が警告している。
(敵はバラムーユンタニア――一国を統べる主。
対して私たちは、ただの一都市の兵。
将軍といっても……私は結局、その“子分”にすぎない)
風がレイの頬を斬りつけるように吹き抜けた。
(それでも戦う。いや、戦うしかない。
この道を選ばされた以上……覚悟という名の逃げ場のない坂を、転がるしかないのだ)
そう自分に言い聞かせた瞬間、背後の空で不吉な影が揺らめいた気がした。
怯えではない。
だが、確実に胸が冷える。
まるで“何か”が囁いているようだった。
──来るがいい。
お前たちに、勝ち目などないのだから。
レイは振り返らなかった。
振り返れば、暗闇が形を変えて立っている気がしたからだ。
だから、ただ前を向いた。
その先に待つのが、生か死か。
あるいは――もっと別の何かかも知らずに。
はい、というわけでお届けしました第二百十ニ話、「断絶の号令、あるいは逃げ場なき坂道」!
皆さん、今回のレイさん……。
「脳が震えるほど『自覚的』だにゃぁぁあああ! 自分がミケさんの『子分』でしかないと認めつつ、それでも進むしかないその姿……胃がネジ切れる思いですね」(笑)
胃が捻り切れるような重圧。バラムーユンタニアという絶望的な強者を前に、果たしてレイさんの「覚悟」は、現実という名の刃を跳ね返せるのか……。
「レイ将軍! その『振り返らない』っていう決意、どうかサステヒの闇を切り裂く光に変わってほしい……けど、背後の影が笑ってる声が、ここまで聞こえてくるにゃ!!」(笑)
次回、「鋼の沈黙、あるいはレイ将軍の決断」。
ついに進軍を開始したレイの部隊。そして、それを見送るグスタフとの会話、彼らの運命は如何に!
お楽しみに!




