深夜、幼女を拾う 13
タマを外に連れ出すことばかり考えていて、昨日同様、その日の講義はほとんど頭に入ってこなかった。
昼食を終え、ゼミの行われる教室に向かう。その途中の廊下で、背後から声をかけられた。
「やっほ、柏木くん」
「藤原さん。お疲れ」
今日も、藤原夕花が気さくに話しかけてくれる。
「昨日は迷惑かけてゴメン」
「いいって。そこまで大したことはしてないし。そうだ、猫ちゃんはどうしてる? 元気? 飼い主さんは見つかった?」
「ね、猫?」
そう言えば。昨日もタマのことで受業が手つかずになり、その理由を彼女に問われた時に咄嗟に言い訳したのだった。適当な出まかせだったので、すっかり忘れていた。
「えっと、うん、大丈夫。まだうちで預かってるけど、ちゃんとエサも食べるし、元気にしてる」
「そっかぁ。どこから来たんだろうね、その子」
「ああ。本人がきちんとわかってるといいんだけどな」
大丈夫。今日も嘘は言っていない。
しかしこれでいつまで誤魔化せるだろうか。どこかで、無事飼い主が見つかったと伝えておくか。ボロが出ない内に、この話を終わらせたい。
「えっと、藤原さん。今日のゼミでやる範囲ってどこだっけ。枕草子?」
「それは先週やったじゃん。今日は源氏物語だよ」
「もうそんな所まで進んでたっけか。ダメだ、全然勉強できてないや」
「そーお? 私は結構読み進めちゃったよ、源氏。やっぱり六条御息所が一番好きだなぁ。年増ヤンデレ未亡人って、属性モリモリで萌えない?」
「いや別に……」
「しかも生霊遣いだよ。平安時代から超能力ってあったんだね。凄いなぁ、襲われてみたいなぁ」
彼女はオカルト研究部所属だったか。きっと一番の萌えポイントはそこなのだろう。
「ところで柏木くん。今日もバイト? 猫ちゃんの世話は大丈夫?」
「えっ?」
せっかくずらした話を、また蒸し返されてしまった。また誤魔化さなくては。
「い、いや。今日は真っ直ぐ帰れるから、ちゃんと世話できるよ」
言ってから気付いたが、もしかして彼女、家に来たいと言い出す気じゃないだろうか。昨日もそんなことを口にしていた気がする。
「ふぅん。でも残念、私は今日用事があるので、遊びに行くことはできないのでした」
「じゃあ何で訊いた?」
「まぁ心配だったからさ。お世話頑張ってよ」
カラカラと笑う夕花を前に、蛍太郎は肩が重くなる。
家ではタマ。大学では夕花。2人の女性に、まったく心のときめかない振り回され方をしている。
今年は女難の相が出ているのかもしれない。




